表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/11

暴力衝動と平和主義者3

かなりの不定期更新です。

よろしくお願いします。

「あたしの名前はクリムゾン! 魔王軍筆頭クリムゾン アーカイブである!」


 白い巨体を葬った後に、視界に映るのは一人の女性でした。

 名前の通りに鮮烈な赤髪を腰まで伸ばし、その下にはやや浅黒い皮膚と金の双眸。通る鼻梁はすっきりとしなやかで、程よく膨らんだ唇が魅力的な美少女でした。しかし、その体を包むのは旧ドイツ軍の将校がまとっていたような黒の軍服のようないかめしいもので、肩留めからなびくマントは現代日本のこの場所でも場違いなことは明白でした。

 でも、私は彼女から目線が外せません。

 なんというか、ぞくぞくします。

 これはあれですね? 恋ですか? 違いますよね。


「だって、これが恋ならば手足は震えないのですから」


 初恋すら知らない私ですが、これが違うということは断言します。

 目を合わせただけで殺されるかもしれない。そんな思いがありました。そして、その感想は間違っていないのでしょう。

 世界がこんな状況になって、暴力衝動に身を任せて、こんな『ご馳走』に会うことができました。そして、その『ご馳走』は明らかに生物としての格が違う。違いすぎると言ってもいいでしょう。

 でも、ここで下がるという選択肢はありません。下がったところで追ってくるでしょうし、何より彼女は名乗ってくれました。化け物たちを率いていたようですが言葉はお互いに通じているようです。それは何よりも幸いでした。

「あなたはしゃべることができますのね」

「言葉が通じることに驚いたよ」

 お互いの距離は十メートルくらいですか。ですが、そんな距離はあってないようなものです。私にとっても、彼女にとっても。

 現時点で彼女にとっての必殺の距離であり、私にとっては奇襲の距離でしかありません。

 ですが、必殺だからと言って引く理由にはなりませんし、何より奇襲が必殺に負ける理由にはなりません。もっとも、彼女を殺し切れるかが謎ですが。

「お前は何なんだ?」

「哲学を語る気はありませんよ」

 われ思うゆえにわれありでしたっけ? あまりにもどうでもよかったので頭の片隅にしか残っていない哲学的な言葉でした。とはいえ、私が何なのかと問われても私は私です。それ以外の答えなんて持ち合わせていません。

「あたしだって迂遠な回答は求めていない。あたしが聞きたいのはお前みたいな奴がいくらでもいるのかということだ」

「いたらどうするのですか?」

 心の底からいてたまるかと思います。私はあくまでも少数派。しかもどちらかといえば理性的な方です。知り合いに頭のおかしい血族たちがいますが、連中に比べたらまともなほうでしょう。

 もっとも、その頭のおかしい血族がここにいたら、私を含めて血の花が咲くかクレーターが生まれていることでしょう。

「わが血族のためにせん滅する」

「無理ですよ」

 そんなことができるなら私はここにいませんよ。いや、でも、今のこの世界ならそれが許されるのでしょうか? どこまで現代日本が混乱しているかはわかりませんが、その混乱に乗じて引っ掻き回すことはできるのでしょうか? 

 あ、また思考がそれましたね。

 少なくとも、今の私は目の前の彼女をどうにかしなければなりません。

 とはいえ、それが一番の問題なんです。

 なんせ、自然体で立っているだけなのに、どこに打ち込んでもそのまま返される未来しか見えません。そして、その返される一撃は確実に致命の一撃です。

 まあ、その致命の一撃にカウンターを返す技術もあるのですが、十トン車に小手返しをしろって言われるくらい現実感がないんですよね。

 それだけ彼女の生物としてのプレッシャーを感じています。せめて、ライオンと人間くらいの差であればいろいろと覆せる気がするのですが、これは難しいですね。でも、このままおしゃべりしていても話にはなりません。せめて、自殺もどきをする理由くらい見つかれば突っかかっていくのですが。

「お前みたいな化け物がたくさんいるとでもいうのか?」

「ごく少数でしょうね。しかし、その圧倒的少数派は私を容易に殺戮するでしょう」

 私が学んだのは技術だ。でも、その技術を圧倒的な力で突破する化け物たちがいる。それが目の前の彼女であり、私の血族たちでしょう。多少の技術などものともせずに一方的な力ですべてを轢殺していくのです。

 だから、先ほどまで楽しかったのですけどね。一方的な殺戮。そして、暴力。でも、終わりそうですけど。

「あたしたちは侵略者だ。あたしたちの世界は終わろうとしている。だからこの世界に来た」

 そういうことは国の偉い人と話してほしいものですね。一介の女子高生にそんなこと言われても困ってしまうだけですよ?

 なにより、


「それがあなたの最後の言葉でいいのですか?」


 きっかけなんて些細なものです。あってないようなものなのです。

 空が青かったって人は死にますし、夕暮れの中だって人は死にます。

 つまり、スタートラインは人それぞれなのです。

 白の巨体を足蹴にして距離を詰めます。

 一から瞬へ加速します。顔にかかる空気の壁がうっとうしいですがそれだけです。クリムゾンの眼前で低い姿勢からの疾走に後方への回り込み。彼女の視界の中では私の姿がいきなり消えたことでしょう。続くのは両掌による鼓膜砕き。同時に叩き付けられた手の平からの衝撃に鼓膜が破れて三半規管を狂わせる。

 でも、

「最後にはならなかったな」

 視線すら向けないバックハンドアタック。白い巨体の化け物と違いブラウスの前面が引きちぎられてチリと化します。というか物理法則突破していますね。質量保存の法則とか知っていますか?

 ですがその程度は想定済みです。伸びきった右腕をつかんで引き寄せると同時に軸足への左ロー。あっさり体勢を崩した彼女を押し倒しながら折りたたんだ右ひじを喉元に押し付けアスファルトに背中から叩き付けます。

「っ!」

 人間相手なら必殺。というか過剰威力。けれど人外に対しては効果が薄かったようです。

 即座に飛びのいたにもかかわらず彼女の振るった左腕はブラウスの前面を完全に破り捨てました。というか気道をつぶされながらノータイムで反撃とかロボットでもなければ不可能のはずです。

 異世界のレベル概念だとしたらどうしようもないと思ってしまいますが、私はそうとは思いません。仮にレベル概念が存在していたとしても、私のレベルが1で彼女のレベルが100だとしても、ソコにたいした差はないと思っています。

 耐久力の差は連撃で埋められると思いますし、ダメージが完全ゼロならその他の方法で埋めればいいと思うのです。

 無論、私の血族のように物理法則突破するような人外は比較対象にしませんが、現時点で打撃は通りますし投げも通用します。関節技はこれからですが、少なくとも物理法則は通用するようです。

 なんにせよ、

「降参はしてくれないのか?」

「する理由があるのですか?」

 質問を質問で変えず無礼を自覚しながらも、私は唇の端が更に吊り上がっていくことを自覚します。

「な、なんていうかすごい顔してるぞ」

 おや? それは淑女としてはしたない顔色をしてしまったようです。

 でも、

「ご馳走を目の前にしたら人も犬も変わりませんよ」

 犬に対しては失礼かもしれません。しかし、私は待てができないのですよ。そういう意味では犬以下です。

 だから、

「いただきます」

 打撃は通りダメージは不明。肉体の強度も謎。でも、アニメや漫画のチートキャラのように物理法則が通用しない強度は無し。少なくとも蹴り払ったふくらはぎは柔らかかったです。

 ならば、縮地と呼ばれる移動法を使い間合いを一瞬で詰めます。

 つま先による移動、体干の上下幅が少ないため視覚的にはいきなり目の前に現れたように感じるはずです。

「なっ?!」

 実際その通りだったのでしょうね。

 踏み込んだまま左拳を彼女の腹部に添えて、

「弾けなさい」

 踏み込んだつま先が粉塵を上げ、一センチの距離を沈み込んだ拳が水月に突き刺さる。それこそ、心得のない素人に使えば言葉の通り内臓が弾けます。外側の肉にダメージが通らないなら内側から。安易かもしれませんがこれならば、

「面白い攻撃方法があるんだな」

 反撃無しとは余裕ですね。その隙に後ろに回り込みつつ軍服の襟を後ろからつかんで背負い投げます。受け身以前に頭から地面に叩き付ける禁止技。プラスアルファが好きな私は、彼女の頭がアスファルトのベーゼを果たす瞬間、その首筋にローキックを叩き込みます。直接打撃が効かないとしても頭部への間接衝撃ダメージと首筋に叩き込んだ血流への干渉。頸骨あたりを砕ければよかったのですが、それは不可能のようでした。

「すごいな。強さは別として闘争本能がすごい」

 さらっとディスられましたね。とはいえ、まったくもってノーダメのようです。

 ですが彼女は呼吸だってしています。関節技と絞め技は試す価値があるでしょう。ただし、問題は密着した瞬間に手を伸ばされれば私はそれだけでゲームオーバーです。基礎攻撃力がダンチですからね。

「一応言っておくが、お前に勝ち目はないぞ?」

「それはご丁寧にどうも」

 というか、そんなこと言われたら収まりがつかなくなるじゃないですか。

「そもそも、あたしたちなんで戦っているんだっけ?」






「え?」






 あなたがそれ言うんですか?! 私もよくわかっていませんけど、全世界にいきなり現れたモンスターたち。当然それらは人類と和解することなく局地的なテロが無数に発生しました。

 現時点でどれだけの被害が出ているかもわかりませんし、いつ収束するかもわかっていないのです。

 実際、ライフラインは一時的と言いながらも止まっていますし、自家発電装置のない家屋は夕方を過ぎれば家の中で震えるだけの生活になってしまいます。なぜなら、自宅にろうそくを持っている方は少ないですからね?

 話はそれましたが、そこまでの事象を起こしておきながら彼女の発言は彼女の人格を疑うレベルの話です。すべてが彼女が原因とは思ってもいませんが、少なくともこの周囲にある人間の遺体は彼女たちが原因でしょうし、疑う余地もないでしょう。

 争いは何も生み出しませんなんてことは言いません。しかし、今のセリフは空気を読んで無いにもほどがあると思うと同時に、

「あくまで私は片手間に何とかできるということですね」

 少なくとも本気になる必要はないと思われている。

 構いませんよ? どんなことにせよ初対面で本気になられても困るだけですからね。

 それは恋愛しかり、戦いしかり。様子見はいつだって必要なのです。

 だから、

「戦うのやめますか」

「そうだな。話をしよう」

いや、それ初めから言いなよ^-^

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ