暴力衝動と平和主義者10
私の体力が削られていく! ステータスが見えるからこそ死までのルートが可視化されてしまう。
だが、私の命を削るのはレベルの概念すらないただの現地民だ。
ありえる、ありえないとかいうレベルじゃない。
あってはいけない。そういう次元での話だ。
赤子が鉄を砕けないように、童子が戦車を引き裂けないように、世界には常識というものがある。
「だが!」
この女は常識を超えてくる! 早いとか遅いとかではない。力の強弱でもない。
自分の腕力が通用しないから、己の速度が通用しないから、その真逆である私のすべてを利用してダメージを与えているのだ!
関節は軋み、骨は亀裂を走らせ始めている。
なんなんだ?! こんな化け物は故郷にすらいなかった。
こんな弱者の振りをした獣は!
走る拳、それは彼女の顎を貫き、拳を振り返す彼女の懐に飛び込み左のショートアッパー。それだけで脳は揺れて平衡感覚を奪います。同時に拳の振り抜きの勢いを込めたまま後ろ回し蹴り。十分な遠心力を込めたかかとは彼女の後頭部を捉えて地面に叩き付けます。
続けてうつ伏せの彼女の腕を極めようとしますが反発力を感じたので手放します。同時に叩き付けられた手の平はアスファルトを砕いていました。手を持ったままなら私の腕が千切れていましたね。
だからこそ、馬乗りになっていた私は両手の平を耳に叩き付けます。
「!!!!」
人間なら鼓膜BANです。脳が揺れているうえに聴覚まで失ったら何を信じたらいいのかわからなくなってしまいますね。でも、飛び退った私の眼前を過ぎるのは振るわれた拳です。触れれば皮膚はそげ肉が千切れるでしょう。それだけの速度と威力です。
「だから」
その腕をつかんで勢いに任せて倒れ込みます。
絶叫。
ゴリゴリっていう感触が触れあう胸に感じ取れます。これはどちらかというと脱臼ですね。どちらにしろ現戦闘中には使えなくなってしまいましたね。でも、それでも彼女には私に触れるだけで殺すチャンスがあるんです。なら、ここで控える必要はありませんよね?
ああ、いいんですよ? あなたが私を殺そうとしているようにね私はあなたを殺すつもりですから。
左腕を振らないのは賢明ですね。両腕を壊されたら身体能力関係なく殺されるだけですからね。
でも、無抵抗でも死んでしまいます。衝撃の重ね合わせで脳は破壊できますし、動脈を絞めるだけでも生物は殺せます。
私自身勘違いしていましたが、異形の化け物であろうと人間であろうとプロセスは変わりません。すべからく殺すことができるのです。サイズ感が違いすぎればそれはなかったことにもなるのでしょうが、向かい合った以上同じサイズで「たかだか千倍程度強い化け物」に私が負ける理由になりません。
・・・だって、私の一万倍強い人外に襲われて私は生きているんですよ?
だから、私は彼女の背を蹴って距離を取ります。
仕切り直しですね。
「なめているのか?」
いえ、ただのマンネリ回避です。このまま寝技を続けても学習したあなたに手足を千切られる未来しか見えませんし、未知の闘技で命を削りあった方が勝算あると思いまして。
ええ、殺しますよ。あなたを殺して糧にしましょう。
見上げる先に続く果てなき荒野に向かいましょう。
化け物を越えて、人外すらも上回り、最果てをわたしは目指します。
「行きますよ化け物」
「かかってこい人間」
人外と人間が激突する!