表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/11

暴力衝動と平和主義者

久しぶりの新作です。よろしくお願いします。

 振り下ろす。

 悲鳴。

 振り下ろす。

 重なる悲鳴。


 それでも私は振り下ろします。


 拳に伝わるのは衝撃。そして、かすかな痛み。

 だけど、それ以上に皮膚を通じて感じるのは歓喜の衝動。

 皮膚を貫き骨までに響く、狂った悦楽の感覚に私は狂う。


 ああ、なんて甘美な感覚でしょう?


 肉がひしゃげ、骨が砕ける感触は、えも知れないものだ。今まで我慢してきた結果がこれだ。

 私は狂っている。

 現状の世界が狂っていることも知っているけれど、その狂った世界が私にフィットしてしまっている。


 無数の手が私に迫る。その手足の色は様々だ。緑であったり灰色であったり多種多様。つまりは人間のものじゃない。

 そして、その人間ではない異形に対して私は全力を振るうことができるのです。


 だから、組み伏せていた死骸から飛び跳ねて迫る手足から距離をとる。

 見える世界は薄暗い。月明かりくらいしか光源はない。

 その淡い世界の中で視界に移るのは『群れ』

 人外としか言いようのない異形の群れ。

 子供のように身長の低い緑色の化け物もいれば、その倍の体格を持つ白い人型もいる。

 そして、それらは爛々と瞳を輝かせて私を視界に収めているのだ。なお、その瞳の奥にある感情は性欲だ。

 私は知っている。

 私以外の女性がどんな目にあったのかと。

 どんな結末を迎えたのかと。


「どうでもいいですね」


 思いのほか軽口が出た。

 実際どうでもよかったのですから。

 だってそうでしょ?

 抗うことはできるのです。

 誰にだってできるのです。それを怠ったことは彼女たちの怠慢でしかないでしょう。

 ですが、不快でもありました。

 もし、自分がそんな目にあったらと思うと、非常に不愉快でした。

 組付されて、泣き叫んで、悲痛の苦鳴を漏らして、命ごと奪われる。

 そんな結末は御免です。


 だから、私は拳を握ります。

 砕けてひび割れだらけなアスファルトを踏みしめます。左のつま先を左前側に向け、右足を後ろに下げてやや右に開くスタンス。上半身は左拳を甘く握って肘と一緒に前に突き出します。右拳も甘く握った状態で後ろに引いて腰のあたりで固定。


 言うまでないですが悪手です。

 この構えは一対一でなおかつ受け身になる場合の構えです。

 間違っても一対多数にむけての構えではありません。この場合、一斉に襲い掛かられたら為すすべもなく押し倒されてバッドエンド直行でしょう。

 ならば、なぜ、こんな構えをとったのか?

 簡単な話です。

 なぜなら、


『!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


 私の姿勢の意味を察した異形の獣が一斉に襲い掛かってくるからですよ。

 薄闇に包まれているからこそ総数は把握できませんが、視界にはっきり映るのは五体。その向こうは無数。数える気にもなりませんね。

 ですが。


「はっ!」


 声に出しながら笑って『前方』に突貫。当然つま先は内側に、後ろ足はかかとから力強く踏み出します。

 同時に移り変わる視界と、その中に映る醜い形相。緑の皮膚に頭髪のない頭部。頭の大きさの割に巨大な両眼と食べかすや歯垢に色ずんだ汚らしい牙。

 その中央に、踏み出した勢いを乗せたまま左つま先を接地した瞬間に内側にねじり込み、左拳を射出。

 爆竹が弾け飛ぶような音を鳴らして足元のアスファルトが更にひび割れます。

 同時に、突き出された拳は化け物の顔の中心に突き刺さり、歯垢まみれの牙を砕き散らします。ですが、それだけで終わりません。牙を砕いた拳は口腔の奥まで突き進み、顎関節とその奥にある頸骨までもろとも打ち砕きました。


「一匹目」


 拳を引き抜いた瞬間、左足を後ろに抜いて右半身を潜り込ませます。死体以下になった化け物の体に背を向けるようにし、かかとから股へ背筋から肩甲骨の打点へと螺旋の動きから始まる打撃を打ち放ちます。中国武術でいうてつざんなんちゃらもどきです。

 ですが、それだけ有名な技だけあって、異形の死体ははじかられるように飛び出して、後方の仲間もろともなぎ倒されます。

 でも、まだ左右にいます。

 あっけにとられている今だからこそチャンスです。

 手近に並んでいた緑の異形の頭部を肩を組むようにして左腕でロックし、その手首を右手でつかみ、反時計回りに飛びます。同時に腕に伝わる首の骨の砕ける感触。体をひねりながら時計の針でいう十二時の位置まで飛んだ瞬間に腕を離します。同時に崩れ落ちる異形と、空にいる逆さの視界に映る獣達の戸惑い。


 そうでしょうとも。

 獲物でしかなかった人間が。しかも、一匹のメスが反抗すれば戸惑いもしましょう。

 ですが、


「二匹目」


 爛々と光る双眸たち。でも、私には恐怖すら感じえません。鉄槌のように振り下ろしたつま先は、また別の個体の頭蓋を打ち砕き命を奪うと、その反動を利用して距離をとってから着地します。うん、なかなかアクロバティックな体験でした。


 視線を再び前に向けます。先ほど威勢を挙げて飛び出していた異形たちがそろって足踏みしています。

 どうしました? 私はここにいますよ? なんでいきなり怖気づいているのですか?

 たかだか個体が三体死んだだけでしょう? あなたたちはいまだに無数です。こんな女一人なんて数の暴力で押し倒せばいいでしょうに。

 踏ん切りがつきませんか? なら、私が最初の一歩を踏み出しましょう。

 あえて構えをとらず一歩を踏み出します。


『!!!』


 同時に異形たちが一歩下がります。

 なぜですか?

 疑問をよそにもう一歩踏み出します。


『!!!』


 再び異形たちが一斉に下がります。三歩ほど。

 なぜですか? あなたたちは私たち人間を滅ぼしたいのでしょう? なのに、なぜ、人間の女如きに退いているのでしょう?

 私は現代日本の学校に通っていただけの女子高生ですよ? 俗にいうjkというものですよ? 知識だけなら知っています。あなたたちが凌辱したい存在なんですよ?

 もっとも、そんなことされる前に『千切り』ますが。

 おや? 更に一歩下がりましたね。

 ですが、そろそろ退屈です。

 

 ふと、視線を足元に向けました。そこに落ちていたのは砕け散った窓ガラス。

 そして、それに映りこんだものに私は思わず驚いてしまいました。

 白のブラウスに赤いリボンと丈の長い黒のスカート。いわゆるセーラー服です。ですが、ブラウスは薄汚れていますしスカートはチャイナ服のような深いスリットが入っています。

 それをまとうのは言うまでもなく私なのですが、背中半ばまで延ばされた黒髪は乱れてほつれていますし、薄く細い体は服同様に薄汚れています。

 自分で言ってて悲しくはなりますが、160CMという身長があっても薄い体は薄いのです。もう少し凹凸が欲しいと思ってもいますが、今の年齢からの逆転は難しいでしょうね。

 あら、思考がずれてしまいました。

 でも、それも仕方がないことです。

 客観的に自分を見つめながら、視界に映った自分の心情と現実の表情に明らかな乖離があったのですから。


 鏡の映る自分。


 体と衣服は薄汚れ、異形の群れに向かい合っています。

 本来なら絶望でしょう。多少の心得があっても体力が尽きれば轢殺されるでしょう。

 正直未来なんて存在しません。今は優勢でも飲み込まれるでしょう。凌辱されるでしょう。

 ここは異世界ではなく現実で、私の体と心は現実のままです。特殊能力なんてありません。


 なのに。


「くふ」


 ガラスに映った私の横顔は笑っていました。

 唇が深い弧を描き、裂けるような半月を形作っています。

 人より大きいと言われていた双眸は細く引き絞られガラスの中の私を見据えていました。そして、その色彩はガラスに付着した血液の色の如く深紅に染まっています。

 それもまた獣の様相でした。目の前に広がるような異形の獣と同じく人の形をしただけの獣でした。

 歯をむき出しにして狂った笑みを浮かべる化生。それが私のようです。

 否定はしません。

 なぜなら、私は、


「こんなことばかり」


 望んでいたのですから。


 体の内に眠っていた暴力衝動。それを形にできない苛立ち。摩耗していく精神。

 学校生活ですら私の苛立ちを加速させるだけでした。

 だから、つい最近、世界の均衡が崩れて狂った時、私は歓喜しました。これは私の望んでいた世界です。

 私の欲求を満たしてください。私の衝動を止めないでください!


 飛び出します。化け物たちの驚きを鼓膜が捉えますが構いません。

 一番近くにいた白く巨大な人型に接敵します。当然左右隣りに化け物たちがいますが、まずは目の前です。相手の身長は二メートルくらい。正面から打ち合うなら間違っても相手にしてはいけない対象です。同時に向こうもそう思ったのでしょう。私からの打撃を受け止めた上で自由を奪うべく手を伸ばし、


 私の左ひじが化け物の右胸筋の下に突き刺さります。

 ただの打撃ならそれで終わりです。ですが、打撃の瞬間右足を軸にした踏み込みと、左拳に添えられた右手の剄力が拳からひじに抜けた瞬間、巨体の肉を穿ち肋骨を砕き内側の肺を裂きました。

 それだけで白の巨体は崩れ落ち、もう動くことはないでしょう。

 そして、


「くひ」


 変な声が出ましたが構いません。私は単身で群れの中に飛び込みます。鼻を突く獣臭は不快ですが、それだけの獲物が周りにいる証明です。飛び込むといっても埋没はしません。掴まれたら終わりですからね。

 だから、大きく跳躍し空中左蹴り。スニーカーの靴底は緑の化け物の頭部をとらえ、そのまま頸骨を砕き頭を真後ろに向けて倒れた。その直後に私は着地。屈伸運動のまま掌底を打ち上げ手近の獣を顎関節ごと頭蓋を打ち砕く。

 その隙を狙って左右から迫る影。

 でも、そんなものはバックステップで回避し、目の前で重なった瞬間にステップインで左右の拳を開く。選ぶのは双掌打じゃない。抱き合うように組み合う緑の化け物の大きな両耳の奥、そこに私の左右の親指を突きこんだ。


 聞くに堪えない汚い悲鳴。


 けれど、私の口元の笑みはさらなる弧を描きます。

 指先に伝わる肉や何かを引きちぎる感触。それと同時に彼らを突き放します。指先に残るのはぬめる感触と何らかの肉片。ですが、それは不快なので即座に振るい払って地面に落とします。

 悲鳴が続くのは構いませんが、異形の群れの動きが再び止まってしまいました。

 ここは押せ押せで行くべきだと思いますが止まってしまいました。

 まあ、なんとなくわかります。

 これまで一方的な蹂躙をしてきたのに、たった一匹の人間がその蹂躙を押しとどめた上で、自身らを殺しうる存在が現れたのですから。そして、自分が踏み出せば次殺されるのは踏み出した自身だということを知ればためらいはするでしょう。


「でもね?」


 私は止まりませんよ。

 ステップインからの打ち上げ掌底で一匹。右隣りには右掌を首に添えてからの足払い。振り上げた右足を引き戻しながら手前から突進してくる緑の化け物の後頭部を刈る。

 致命傷を与えたのは最初の一体。だからこそ、足払いで倒した獣の喉笛を踏みつぶし、後頭部をさらす獣の頭蓋を踏み砕く。そして、踏み砕いた勢いをそのままに再び跳躍。蹴りで頸骨を砕きながら人外の群れの上をはねていく。

 蹴りで砕いては跳ね、着地の隙をさらすような真似はしない。

 いつしか私は異形の群れの後方に抜けていました。


「意外に少ないですね」


 薄明りだったからこそ気づけませんでしたが、彼らの総数は二十もいなかったようでした。

 今は倒れ伏し、血を流し、遺骸をさらす数の方が多いように思えます。


 もっとも、私が満足しているかと問われれば否です。断じて否です。

 これを全滅させたら私は満足できるのでしょうか?

 いえ、無理でしょうね。私は殺人鬼ではありません。この方々だって人型だから人に違いはないでしょう。コミュニケーションが取れないだけで大した違いはないと思います。だからこそ、私は好んで彼らを殺しているつもりはありません。向かい合って敵意があるならそれは闘争につながっても仕方がないことなのです。

 ならば、彼らがこれ以上の争いを望まないのならば見逃しましょう。とはいえ、人間という種族に一方的な殺戮を繰り返すなら考えなくもないですが・・・うーん、繰り返してますね。やはり、全滅させたうえで絶滅させるしかないですかね?

 ん? 異形たちがいきなり散り散りになって逃げ始めましたね。

 待ってくださいよ。まだ、私はすべてを出し尽くしていませんよ?

 そう思って一番近くにいた白い巨体の化け物の腕を後ろからつかみました。


『!!!』


 振るわれる豪腕。それは私の頭上を抜けて髪を揺らします。ですが、目視していないバックハンドなんてそんなものです。振るわれた右手首に左手をそえて足払い。それだけで頭一つ以上大きな巨体は宙を舞い、背中から落ちて苦鳴を漏らします。


「なんで逃げるのですか?」


 倒れた巨体の腹部の上に載ってマウントポジションを取ります。

 うーん、なんというかはしたないかもしれませんね?

 私は薄く赤面しながら咳ばらいをします。

 でも、これは必要なことなのです。そうだと言ったらそうなのです。


「なんで逃げたのですか?」


 当然、言語コミュニケーションは不可能です。それを分かった上で対話を求めている私は平和主義者の可能性を捨てきれません。暴力衝動を抱えた平和主義者、新しいジャンルですね。


 なお、眼下の白い獣さんは牙を剥いて起き上がってきたので、振り下ろした拳で牙ごと打ち砕いて後頭部をアスファルトに叩き付けます。

 対話をする気がないのでしょうか?

 『せっかく落ち着いて話せるように人数を減らしてあげたのに』

 でも、獣さんは反抗的でした。

 腕を振るってきたので上半身をそらして掴んだ手首をそのままに腕十字、同じく手癖の悪い左腕を裏十字で砕いて再びマウントポジションです。

 なぜか彼はもう息絶え絶えです。言語も何も通じませんが心なしか、いっそのこと楽にしてくれていっているような気がしますが気のせいですね。だからこそ、私達に必要なのは対話と暴力です。

 え? 暴力はダメだって? そもそも侵攻してきたのはあちらですし、日本や世界各国としては暴力には暴力を返すでしょう。けれど、これからの私たちに必要なのは対話なんです。私は暴力衝動を持つ人間ですが、それでも対話は必要なことだという最低限の分別は持っています。

 だから、眼下の彼と『対話』をしようと思っています。


「さあ、お話を始めましょう♪」

読んでいただきありがとうございました。

よろしければ評価をしていただけると嬉しいです。

よろしくお願いします^-^

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ