雪だるまくんと小さな鳥さん(下)
雪だるまと小鳥が出会ってから、歳月が過ぎ、今年もまた冬がやってきました。
秋の頃からなんだか元気がなかった小鳥は、寒さが厳しくなるにつれ、ますます弱っていきました。
食べる量が減り、歌声にも力がありません。小鳥は年を取ったのでした。
「梅の咲く季節までは、と思ったんだけれど、この分だと間に合わなそうだな」
小鳥はまだ芽を出さない梅の木の枝に止まり、薄く雲の延びた空を見上げます。
しょぼしょぼと瞬きをしながら、小鳥は過去に思いを馳せました。
「雪だるまくん。初めて会ったとき、きみはぼくに、ぴったりくっついてみせて、って言ったね」
小鳥は、つぶらな瞳を、ゆっくりと雪だるまに向けます。
「あの時は、断ってしまったけれど、今なら、ぼくのことを抱きしめてくれて構わないよ」
囁くような声でそう言うと、もう飛ぶ力さえ残っていない小鳥は、身を投げるようにして、枝から雪だるまのからだの上に落ちました。
「そして、できれば、ずっと離さないでいてほしいんだ」
雪だるまは、わかりました、と小さく頷いて、小鳥のからだをそっと抱きよせました。
「小さな鳥さん、わたしは、冷たくありませんか?」
雪だるまが少し不安そうに聞くと、そんなことはないよ、と小鳥は穏やかに言いました。
「あったかくて、白くて、柔らかくて、ふわふわしていて、なんだか卵の中にいた頃を思い出すよ。懐かしいなあ。まるでお母さんに抱かれているみたいだ」
小鳥は幸せそうに、白い息を吐きながら、雪だるまの胸の中で目を閉じました。
「ありがとう、雪だるまくん。これなら、ぼく、ぐっすり眠れるよ」
「わたしのほうこそ、ありがとうございました、小さな鳥さん」
おやすみなさい、と雪だるまは小鳥のからだを優しく包みました。
やがて、小鳥は眠り、息をするのをやめて、雪だるまと同じ温度になりました。
雪だるまは、動かなくなった小鳥を、強く抱きしめました。
小鳥のからだは、雪だるまの胸の中に、すっぽりと収まりました。
それから、雪だるまは、小鳥を抱いたまま、山の奥の、一年を通して氷が解けずに残る、静かな洞窟に帰っていきました。
雪だるまは、そこで、小鳥からずっと離れずに、ぴったりくっついて時を過ごしました。
雪だるまの目に、熱が宿り、融けた氷が、涙になって零れていきます。
涙が零れるたびに、雪だるまは少しずつ小さくなっていきました。
涙は次から次へと流れ落ちて、丸々と大きかった雪だるまのからだは、いつしか小鳥と同じくらいまで小さくなりました。
やがて、泣きつかれた雪だるまは、洞窟の奥で、深い眠りにつきました。
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長い時間が流れました。
かつて雪だるまを作った村の子どもたちは、今やすっかり大人になっていました。
ある日、そのうちの一人が、たまたま洞窟のそばを通りかかりました。
狩りの途中だったその青年は、涼しいところでひと休みしようと、洞窟の中に入りました。
すると、洞窟の奥に、何か光るものがあります。
見てみると、それは古びたおはじきでした。
青年は、どうしてこんなものがここにあるんだろう、と首を傾げました。
さらに、どうして自分はこれに見覚えがある気がするのだろう、と不思議に思いました。
青年はほどなくして狩りの続きに出ました。
だから、洞窟の一番奥に何があったのか、青年はとうとう知らずに終わりました。
そこには、綿毛のように真っ白な雪のベッドの上で、小鳥と、小鳥とそっくり同じ形の氷像とが、寄り添うようにして眠っていました。