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雪だるまくんと小さな鳥さん(中)

 それから、小鳥はちょくちょく洞窟を訪れるようになりました。

 あちこちを飛び回る小鳥は、時々、雪だるまに頼み事を持ってきました。


「雪だるまくん、きみの力が必要なんだ!」


 最初は、獣道を塞ぐ雪をどうにかしてほしい、というものでした。

 雪だるまは、からだも大きく、力持ちで、しかも雪の冷たさをものともしないので、雪をどけるのは簡単でした。

 雪だるまのおかげで道が通れるようになると、その道を使っていた山の動物たちは、みんな雪だるまに感謝しました。

 同じようにして、冬の間、小鳥は困っている動物を見つけては、雪だるまに知らせました。

 雪だるまは、そのたびに動物たちの力になりました。

 そして春になる頃には、雪だるまはすっかり山の動物たちと友だちになっていました。




 あるとき、小鳥がまた、力を貸してほしい、と飛んできました。

 小鳥のあとについて山の麓まで下りていくと、そこにいたのは村の子どもたちでした。

 山遊びをしていた子どもたちのうち、一番小さな男の子が、木の高いところまで登ったきり、下りられなくなってしまったのです。

 雪だるまは、その子に、自分に向かって飛び降りるように言いました。


「こわがらないで。かならず受けとめますから」


 優しく声をかけ、雪だるまは腕を広げます。

 男の子は、ついに決心して、飛び降りました。

 雪だるまは、男の子を、その大きなお腹で受け止めました。

 冬の間に真新しい雪をたっぷり蓄えた雪だるまのからだは、冷たいけれど、ふわふわしていて、男の子に怪我はありませんでした。

 子どもたちは、ありがとう、と口々に雪だるまにお礼を言いました。

 そして、感謝のしるしに、子どもたちは持っていた色とりどりのおはじきを、雪だるまに贈ったのでした。


 それから、雪だるまは子どもたちの山遊びに付き合うようになりました。

 遊びに付き合うと言っても、近づきすぎると寒い思いをさせてしまうので、離れたところから、子どもたちが危なくないように見守るだけです。

 けれど、子どもたちのことが大好きな雪だるまにとって、それは十分に幸せな時間でした。




 夏になると、雪だるまは洞窟の中にいることが多くなりました。

 そんなある日、小鳥に誘われて、雪だるまは村の夏祭りに出掛けました。

 雪だるまは、数月ぶりに子どもたちと再会しました。

 夏で、暑かったので、雪だるまの冷たいからだは子どもたちに大いに喜ばれました。

 雪だるまは、子どもたちと、直に触れ合って遊びました。

 もちろん、子どもたちがしもやけになったり、風邪を引いたりしないよう、気をつけながら。

 短い間ではありましたが、冷たいからだを持つ雪だるまにとって、それは夢のような時間でした。




 秋になりました。小鳥が血相を変えて飛んできます。

 村が流行病はやりやまいで大変なことになっている、とのことでした。

 雪だるまは、急いで村に駆けつけ、山で採った食べ物や、薬の材料を、村の一番偉い人に渡しました。

 さらに、高熱で苦しんでいる子どもたちがいると聞くと、迷わず自分のからだの雪をつかみ取って、熱冷ましに使ってください、と分け与えました。

 村の一番偉い人は畏まって、何かお礼がしたい、と言いました。

 そういうことでしたら、と、雪だるまは、畑の野菜をいくらか分けてもらいました。

 野菜のほとんどは、食べ物や薬の材料を集めるのに協力してくれた山の動物たちにあげました。

 そして、残った野菜を、雪だるまは自分のからだの雪の中に埋めたのでした。




 その年の冬がやってきました。

 雪だるまは、無事に流行病の難を乗り切った村を訪れ、子どもたちのいる家を順番に周り、からだの中に埋めていた野菜を扉の前に置いていきます。

 冷たい雪の中で寝かせた野菜は、普通よりも甘くておいしい野菜になっていたのでした。

 やがて夕食時になり、家々から煙が立ち昇ります。

 おいしい野菜に、村のあちこちで、子どもたちの喜ぶ声が上がりました。

 それを、雪だるまは小鳥と一緒に、近くの林の中で聞いていました。


「子どもたちに、直に会わなくてよかったのかい?」

「本当を言うと、会いたかったです。でも、わたしのからだは冷たいですから。せっかく暖かくしているお家に上がったら、迷惑になってしまいます」

「そっか……残念だね」


 いたわるように、小鳥は言います。雪だるまは、しかし、力強く首を振りました。


「大丈夫です。わたしにもできることがあって、みんなを喜ばせることができるって、この一年でわかりましたから。だから、もう寂しくはないんです」


 雪だるまはそう言って、小鳥に笑いかけました。


「それに、あなたがいっしょにいてくれますしね」


 そのときです。ひゅう、と冷たい木枯らしが吹きました。小鳥はぶるぶると翼を震わせます。


「今年の冬は、ぐっと冷え込みそうですね。小さな鳥さんはどうするんですか?」

「そのことなんだけど、よかったら、きみのからだをちょっと貸してくれないかな」

「わたしのですか?」


 雪だるまは驚きましたが、小鳥の頼みを断ることはしませんでした。

 次の日から、小鳥は、木の実や果物などを採ってきては、雪だるまのからだに埋めるようになりました。

 そして、いよいよ吹雪がやってくると、小鳥は雪だるまの胸のあたりにちょうどいい大きさの穴を掘って、小枝や落ち葉を寄せ集めた寝床を作りました。


「小さな鳥さん、冷たくありませんか?」


 雪だるまの中で羽を休める小鳥は、そんなことはないよ、と言います。


「とてもあたたかくて、居心地がいい」


 こうして、雪だるまと小鳥は、厳しい冬を二人で越えたのでした。

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