雪だるまくんと小さな鳥さん(上)
あるところに、雪だるまがいました。
ある冬の日に、村の子どもたちに作られた、雪だるまです。
雪だるまは、自分を作ってくれた子どもたちのことが大好きだったので、毎日一緒に遊びました。
けれど、雪だるまのからだは冷たい氷でできていましたから、子どもたちをみんなしもやけにしてしまいました。
雪だるまは、子どもたちの赤く腫れた小さな手を見て、とてもかなしい気持ちになりました。
そして雪だるまは人里を離れ、山の奥の、一年を通して氷が解けずに残る、暗い洞窟に移り住み、そこにひとりきりで閉じこもるようになりました。
雪だるまが作られてから、二度目の冬。
初雪が降り、久しぶりに洞窟の外へ出た雪だるまの前に、一羽の小鳥が舞い降りました。
陽気な小鳥は、雪だるまを見てはしゃぎ、友だちになろうと言いました。
けれども、雪だるまは、小鳥の申し出を断りました。
冷たい氷のからだを持つ雪だるまは、温かい生きものを凍えさせてしまうからです。
「でも、雪だるまくん。きみは、本当は友だちをつくりたいんだろう?」
小鳥がつぶらな瞳で見つめます。
雪だるまは頷きそうになりましたが、子どもたちのしもやけた手を思い出して、無理だと答えました。
しかし、小鳥は決して引き下がりません。
困った雪だるまは、わざと突き放すような態度で、こう言いました。
「そこまで言うなら、小さな鳥さん。わたしの雪のからだに、今ここで、ぴったりとくっついてみせてくれますか?」
小鳥は、雪だるまのからだの表面を、くちばしでちょんと突っついてみました。
次の瞬間、くちばしから羽の先まで、小鳥は全身をぶるぶると震わせました。
「……うん。確かに、こう冷たくては、くっつくのはできそうにないな。ぼくのからだは小さいから、すぐに芯まで冷たくなって、凍りついてしまうだろうね」
小鳥の答えを聞いた雪だるまは、ほら、やっぱり、と寂しそうに呟きます。
「わたしは、あなたたちあたたかい生きものとは、触れ合うこともできない。それくらい、かけ離れているんです。こんなに何もかも違うのに、どうして友だちになんてなれるでしょう」
しかし小鳥は、なれるさ、と自信たっぷりに言い返しました。
「違っているからこそ、友だちになれるんだよ。だって、誰かと違うってことは、その誰かにはできないことが、できるってことだろう?」
そう言うと、小鳥は美しい声で歌い始めました。
雪だるまは、うっとりとその歌声に聞き入ります。
「この歌を聞いて、ぼくと友だちにならなかった生きものなんて、今までひとりもいなかったよ。きみだって、そうさ、雪だるまくん。たとえ触れ合えなくたって、きみが誰かと友だちになれるやり方は、他にもきっとあるはずだよ」
小鳥は、雪だるまに言います。
「雪だるまくん。いっしょに考えてみよう。きみがきみのままで、みんなと友だちになれるやり方を」
雪だるまは、ぽろぽろと氷の涙を零しながら、はい、と頷きました。
「ありがとうございます、小さな鳥さん。あなたは、とても親切ですね」
「だって、友だちが困ってるんだからね。放ってはおかないよ」
こうして、雪だるまと小鳥は友だちになりました。