終末の恋
週末に終末が来る。
ダジャレでも何でもない本当のことだ。
先月末に日本政府から直々に無数の隕石衝突の報告を受け、今や日本はサヨナラムード。
どこのチャンネルを写そうがテレビには砂嵐が吹き荒れ、コンビニに行こうものなら好きにしてくれと閑古鳥が鳴いている。
でも、いったい誰が責められようか?
今日は金曜日にして世界最後の日。
明日を迎えれば人は皆須らく死を迎える。
そんな状況で真面目にやっていられる者などいないだろう。
僕も僕でせっかく終末を迎えるのなら好き勝手してやろうと息巻いたが、よくよく考えたら特にやりたいことなんて無い。
結局、地球最後の日に学生服に袖を通して学校まで足を運んでしまう始末。
我ながら一体何をしているのやら・・・。
普段ならにぎやかな学校も夏休みを思わせる静けさが漂い、まるで僕のことを嘲笑っているかのようだ。
思えば寂しい人生だ。
幼少期に父親が蒸発し、再婚した相手には僕の存在が気に食わなかったらしい。
日がな一日を逃げるように母方の実家に身を寄せたが、それも長くは続かなかった。
学生の身分でありながら一人暮らしを強要され、誰からも必要とされない疎外感。
何のために生き、誰に必要とされるのか?
分からずじまいで世界は終わる。
これで良いのだろうか?
いや、良いも悪いもないのだろう。
沈んだ感情は心を摩耗させる。
僕はどんよりとした思想を頭を振って霧散させ、教室の扉を開いた。
「おお!ガリ勉!来たじゃん!」
教室の中には一人の女子生徒。
髪を染め上げ、制服を汚く着こなしたその姿は紛れもなく不良のそれ。
「そっちもね。最終日だけどいいの?」
「言ったろ?これまで勝手気ままにやってきたから罪滅ぼしだよ。最後くらい真面目に学生やらねーとな」
「そう。えらいね」
彼女はもともとほとんど学校に来ていなかったが、最後の最後くらい更生したいらしい。
誰もいない学校を見て愕然としていた所、後からやってきた僕が犠牲者となった。
彼女は勉強を教えてくれと僕にせがみ、僕も僕でやることもないから教師を引き受けることとなった。
「それで?今日も授業するの?」
「そうしたいんだけどよ。今日で死ぬかと思うとなんだかやる気が起きなくてな」
彼女は努めて気丈に振る舞っていたが、肩が少しだけ震えている。
「怖いの?」
「怖いって、何が?」
「死ぬのが」
「あ!?怖いわけねーだろ!バカにすんな!」
彼女は激高して楯突いたが、僕は反論することなくただただ無言を貫くと、降参するように萎れていった。
「・・・怖いよ。そりゃあな。というかお前は怖くないのかよ?」
「僕?僕は怖くないよ」
「はぁ?明日には皆死ぬんだぞ?」
「うん。それでも」
「ホントかよ!?はぁ、能天気ってのは羨ましいねぇ」
僕には生きる目的も理由もない。
目的と理由が無ければ死ぬことは消して畏怖する存在ではなく、むしろ喜ばしきものとしても捉えられる。
それでも僕が尚、生きているのはいつかきっとその意味を見つけられると心のどこかで期待しているからだろう。
「なんだよ。やっぱ怖いんじゃねーか」
突然、意趣返ししたように仏頂面の彼女は言う。
「怖くないよ」
「嘘つけ、怖いんだろ?」
「怖くないよ」
「じゃあ・・・なんで泣いてんだよ・・・」
「・・・」
頬を伝う熱い雫は何を思って流れているのだろうか?
僕にはそれは分からない。
それでも、温かい体温が僕を抱きしめるのを感じた時、僕は後悔した。
やはり、学校に来るのは間違いだったのかもしれない・・・
空に映る隕石は肉眼で確認できるほどになっている。
僕は力なく垂れさがる腕を彼女の背に回し、少しだけでも長く生きたいと願った。
後半が若干適当になったので、後々書き直すかもしれません。