彼女に逢える時間旅行。
『キィーーーーーー!!! バーーン! ドスッン!』
物凄い鈍い音がした。僕が運転していた車と大型トラックが衝突したのである!
僕は軽傷で、相手のトラックの運転手も軽傷だった。
ただ、僕の隣に乗っていた彼女はシートベルトが外れてそのままフロントガラスに
強く衝突して意識不明の重体になった。
所謂、 『脳死』と医師から告げられた。
『僕は、僕は、、、何故、何故? こんな事に...あの時、瑠莉奈を助手席に
乗せていなかったら? シートベルトが外れなかったら? そしたら......?』
【後悔しても、あの時には戻れない!】
彼女の名前は 『小牧 瑠莉奈』 僕と近々【結婚】する予定だった。
式場も決めて、結納もしてお互いの両親にも会って...これからと言う時に。
瑠莉奈はあの事故以来......目を覚まさない。
ずっと眠ったままだ。
彼女の担当の医師には......。
もし、意識を取り戻しても脳に大きな障害が残ると言われた。
話せないとか半身不随とか寝たきり状態かもしれないと......。
僕は彼女の両親や妹に平謝りで何度も何度も謝った。
彼女の両親は優しく僕を許してくれたが、彼女の妹は僕を許さなかった。
僕はその方が、気持ちの面でホッとしていた。
憎まれても仕方がない事を僕は彼女にしてしまったからだ!
僕は僕の両親からもこっぴどく怒られた。
勿論だが、彼女の両親にも僕の両親と一緒に平謝りした。
彼女の父親は僕にこう言った。
『もぉ、瑠莉奈の事はすべて忘れてくれ!』
義理のお母さんからは......。
『あなたの為にも娘の事は全て忘れて欲しい。』
瑠莉奈の妹は違う答えで返ってきた。
『二度と瑠莉奈お姉ちゃんの事を忘れないで! あなたのせいで~!
お姉ちゃんは、、、お姉ちゃんは...。』
そう言うと彼女は......? 泣き出してしまった。
彼女は声を殺して泣いていた。
そうだ! 僕のせいでこんな風になってしまった。
すべて僕のせいだ!!!
僕は仕事にも行かず、家で酒浸りの毎日になった。
『後悔、後悔で...瑠莉奈の代わりに僕が代わってあげられるなら
絶対にそうするのに、、、どうしてなんだ!?』
毎日毎日、同じことしか考えられなかった。
【その日】
僕は、近所の居酒屋で1人で飲んでいた。
その帰りに一台の変わったタクシーを見つけた。
僕は酔った目を擦ってぼやけて見えているタクシーを見ていた。
車に大きくこんな風に書かれていたからだ!
『今、あなたの会いたい人に逢える時間旅行がこのタクシーで出来ますよ。』
僕は酔った勢いでタクシーの運転手さんに聞いてみた?
『これさ~ 会いたい人に逢える時間旅行って? 本当なの??』
『お客さん? かなり酔ってますねぇ~ でも本当ですよ! 逢いたい人が
いるんですか?』
『あぁ~ まぁ、でも、今は意識不明で寝たきりだよ。僕のせいなんだ~!』
そう言うと......? 僕は泣いてしまった。
『お客さん? 大丈夫ですか? 泣かないでくださいよ~ それにそれなら、
問題なさそうですねぇ~ 亡くなった人やお客さんの逢いたい人なら大丈夫!
逢えますよ~』
『そうなの? じゃ~ 逢いたいよ~! 僕の大切な人なんだ!!!』
『それでは、そのお客さんの大切な人と初めて逢ったのは何時頃ですか~?
そこに行きましょう!』
『あぁ、あれは...20○○年の冬だった。そうそう12月だったかな~?
その日は雪が降っていた! そうそう23日だよ。あれは忘れもしない
クリスマスイブの前の日だった~!』
『お客さん? 凄い記憶力ですねぇ~ そんなにハッキリわかっているなら
話は早いですよ~ 今から直ぐに彼女さんに会いに行きましょう! ちゃんと
シートベルトしてくださいよ~ じゃ~ 行きますよ~』
◇
◇
タクシーの運転手がそう言うと......?
僕たちは、僕と瑠莉奈が出逢った日に向かった。
『僕たちは初めてあそこの公園で出逢ったんだよな~ それから、なんか?
仲良くなって~ よくこの公園で二人で会ったなぁ~ そうそうあの時は物凄く
焦ったなぁ~瑠莉奈が間違って僕じゃない男に 『遅いじゃん!』って言って!
それを僕が少し離れたところで見てて大爆笑! 瑠莉奈はそんな僕を見てかなり
怒ってたよな~ 物凄く僕は瑠莉奈に付き合って欲しいって言うのが緊張してて
【僕と、付きあぁ! 瑠莉奈ちゃん、えーと?】とか言いながらなんとか...?
【好きだ!】とは言えて、そしたら瑠莉奈も私も好きだよって言ってくれてさ~
何だか? 物凄く懐かしいな~! ありがとう運転手さん。』
『いえいえ、いいんですよ~ それにしても素敵な思い出ばかりですねぇ~』
『まぁ、そうなんですよ~ 瑠莉奈といる時間が凄く幸せだったなぁ本当に。』
『お客さん? また泣かないでくださいよ~ まだまだ行きますよ~』
『僕は瑠莉奈と出逢えて本当に幸せだったんだなぁ~ ずっと笑ってるし!
瑠莉奈のあの笑顔が僕の心を照らしてくれていた。本当に本当に幸せだったな!』
『そうですねぇ~ どのお客さんも彼女さんも幸せそうな笑顔ですもんねぇ~』
『そうですか、そう言ってもらえると嬉しいです。』
『お客さん? まだ彼女さんの事、諦めてないんでしょ?』
『えぇ!?』
『お客さん、諦めないでいれば【奇跡】は起きるかもしれませんよ~』
『運転手さん、ありがとうございました。楽しい幸せな彼女との時間旅行でした。
代金はいくらですか?』
『代金は頂きません。ただ次、お客さんがこのタクシーに乗るときは代金をいただ
きますよ~ いいですか?』
『は.はい、ありがとうございます。』
『どういたしまして! それと【奇跡】は起きますよ~』
何だか不思議な気分だった。
僕の大切な瑠莉奈との思い出の時間をたくさん味わえた。
僕はもう、あの時のような幸せな時間が戻って来ないんじゃないかと......。
ずっとずっと思っていたから。
あんなに幸せな時間は久々に感じた。
瑠莉奈と一緒に居た時は、ずっと当たり前のように感じていた事なのに......。
◆
◆
でも次の日、瑠莉奈の病室にお見舞いに行った時に、僕は寝ている彼女の手を
握り、昨日のタクシーの話や運転手さんと大切なあの時の二人の思い出の時間に
戻って、こんな事やあんな事があの時あったね! ......と話していたら?
なんと!? 奇跡が起きた!?
彼女の手が微かに動いた。そして瑠莉奈の目がゆっくりと開いた。
僕が 『瑠莉奈』 と言うと...?
彼女は僕に、 『何時も、私の為に会いに来てくれてありがとう。』
......そう言ってくれた。僕は嬉しさのあまり涙が止まらなった。
最後までお読みいただきありがとうございました。