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波乱の予兆

 俺達第687特殊即応打撃群及び第234特殊急襲海兵団の合同司令部はカムス連邦首都・オムルス王国に向かう航空機の中にいた。


「少佐、緊急の要件とはなんでしょうか」


 隣の席のコールスが聞いてくる。俺達がオムルスへの呼び出しを受けたのは2日前の7月14日の事だ。直接俺達に首都出頭を命じたカムス連邦軍統合幕僚本部連邦国家安全保障部副部長のリンチ連邦陸軍少将からのメッセージには『国防上及び第128管区防衛において看過できない危急の事態が生じた』とだけ書いてあった。


「まさか、俺達全員の首が飛ぶわけではないだろうがな」


「分からないぞアン坊?お前さんの親父さんが強権発動してアン坊以外の全員の首が飛ぶかも知れないぞ?」


「カルーセル大佐、俺の事をアン坊と呼ぶのをやめてください。後俺の前で父の名前を出すのも」


 俺の前でニヤついているハンサムないかにも親分肌といった感じの男性はカルーセル・ラッセル連邦陸軍大佐。第234特殊急襲海兵団団長にして俺の国防学院時代の主任教官。


「しかし、国防上危急の要件とは一体なんでしょうか」


 コールスの隣に座るユニアが聞いてくる。今回のオムルスへの外征?へは大尉以上の将校(と副官)のみ帯同しているので、第687特殊即応打撃群と第234特殊急襲海兵団合わせると約250人ほどの将校が来ていることになる。なのでカムス航空管制省差し回しの大型航空機25機に分乗とというとんでもなく高価な移動になった。


「俺の勘では、アル・ファシルで何かが動き始めたという事だと思う」


「何が動き出したんです?」


「そこまでは分からない。クーデターかも知れないし、アル・ファシルの軍隊が国境に展開し始めたのかも知れない」


「それでもアル・ファシルに関する何かだとアン坊は思ったわけか」


「だからアン坊と呼ぶのは……」


 俺はカルーセル大佐に言い掛けたが、やめた。このヒト何言ってもだめだ。


「そうです……ね」


「何故我らを呼び出したのでしょうか?」


 コールスの問いにカルーセル大佐が答えた。 


「有事の際の出動命令を下すためさ」


「……まさか14歳で実戦を経験するとは思いませんでした」


「恐らく統合幕僚部の目論見はそれさ。俺達第128管区戦闘団に国防出動待機命令を下し、俺達が帰還したタイミングで『待機命令』から待機を抜いてアル・ファシル領に出撃させるつもりだろう」


 カルーセルの言葉に俺は頷いた。


「そろそろ着きますね」


 コールスの言葉に窓の外を見やると、そこには連邦首都・オムルスの景観が見えた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「第128管区戦闘団の皆様がオムルスに到着されました」


 カムス国防総省庁舎14階の総合会議室で、カムス連邦統合幕僚本部連邦国家安全保障部部長のグレン連邦陸軍大将は部下のその報告を聞いた。


「今はオムルス空港で入国審査を受けておられます」


「後何分ぐらいで着く?」


「2時間もすれば」


 グレンは息を吐いた。まだアーガルス行政長官以下国家安全保障会議のメンバーはここに着いていない。


「そうか……の動きはどうだ?」


「カミングスアの支援を受けたらしく、各地で抗戦を続けてるようです」


「カミングスアが?それはまたどうしてだ?」


「カミングスア支配下の人族の国であるアンテクス公国とルクスニア王国が支援をカミングスア政府に要請したようです。この2国はカミングスア領の中でも相当裕福な国のようで、2国がこの反乱に連鎖して反旗を翻すことを恐れたカミングスア政府が反乱軍を支援することを決定した模様です」


 グレンは腕を組んだ。カミングスアは人族が対峙する3種族の中で最も人族と友好的な種族である亜人族の国だ。遥か昔の四種族大戦では一時的とはいえ協力して天族や悪魔族と戦った歴史もある。しかし、仮にカムスとカミングスア、この2国が同盟を結んだとしても()()()を倒すことは出来るのか。そのカギはこれから国家安全保障会議のオブザーバーとしてこの会議に参加するであろう第128管区戦闘団司令部、そしてその中の第687特殊即応打撃群の指揮官である弱冠16歳の少年将校、アンク・ローウェン少佐にかかっていると言っても過言ではない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ここが、国防総省ですか……始めて来ました」


 目の前にあるカムス連邦国防総省庁舎を見上げて言った。ここにいる将校は基本オムルスorその周辺の出身だが、ユニアは生粋のミンガスの生まれだ。オムルスに来たのも多分これが初めてだろう。


「さ、行くぞ。多分14階ではもうほとんどのメンバーが揃っているはずだ」


 俺はカルーセルと共に国防総省に足を踏み入れた。玄関の守衛の兵士が俺達に敬礼を送る。


「任務ご苦労」


 俺がそう言うと、兵士は軽く頭を下げた。


「ここだ」


 俺達はエレベーターに乗り、14階に向かう。『総合会議室』と書かれた部屋の前で総勢250名の部下を連れ………てはさすがにいないが、第687特殊即応打撃群と第234特殊急襲海兵団の副官を含めた十数名は俺とカルーセル大佐に連れられて立ち止まった。


「第128管区戦闘団司令部、到着いたしました」


 俺がドア越しにそう言うと、中から声がした。


「お入りください。ただし、第687特殊即応打撃群と第234特殊急襲海兵団の隊長及び副隊長、副官の方のみ入室してください」


「了解しました」


 俺とカルーセル大佐、第687特殊即応打撃群副群長のヨルミス准佐と副官のコールス少尉、第234特殊急襲海兵団副団長のワルシア中佐と副官のエリス大尉の6人が部屋に入った。


「そこに掛け給え」


 俺達に着席を勧めたのはグレン連邦陸軍大将。カムス連邦統合幕僚部連邦国家安全保障部部長でもある国防総省のナンバー3。


「失礼いたします」


 俺達がそれぞれ席に着くと、司会らしき人物が立ち上がった。


「それでは皆様御到着なされたのでこれよりカムス連邦国家安全保障会議を始めます。司会は私、カムス連邦統合幕僚部国家治安維持局副局長のレミス・エアルスが務めます」


 レミス副局長は一礼すると席に着いた。続いて、グレン大将が口を開く。


「まずは国家安全保障部から国防上非常に重大な事態が起きたことをご報告させて頂きます」


「大将、その要件とは何かね?」


 グレン大将の言葉に反応したのはミムシア・マクミス治安省長官だ。俺の家、つまりローウェン公爵家に代々仕えるマクミス伯爵家、つまりコールスの家の当主。


「事が複雑なのでかいつまんでご説明いたします。まず、事の発端は今から1ヶ月前の6月11日未明。アル・ファシル領内にある人族捕虜の強制拘留都市・モグリスで数万人規模の大規模な奴隷反乱が発生しました。当初はこれまでの反乱と同様にアル・ファシル軍に鎮圧されると思われましたが、これに同調した数十の強制拘留都市で人族捕虜による蜂起が相次ぎ、結果的には200万人以上の人族捕虜や亜人族捕虜を中心とする反乱軍が各地で独立の宣言を行い、最初の反乱が起きたモグリスを中心とする《メノリア奴隷連合》を結成。アル・ファシル軍は国境地域の一部部隊を移動させメノリア軍と交戦し、一時は首都モグリス付近まで進出しましたが、1週間前にカミングスア連合王国がメノリアを支援するために正規軍40万をアル・ファシル領に侵攻させたため、メノリア・カミングスア連合軍とアル・ファシル軍との間に激しい戦闘が起きています」


「大将、それが我が国の国防上の危急の事態だというのは?」


 発言したのはアーガルス・ローウェン行政省長官、つまり俺の父。


「先日、カミングスア政府から参戦要請が来ました。メノリアは人族を中心とする国です」


「それで、どうするのだ」


 しばしの沈黙。やがてグレン大将は口を開いた。


「国家安全保障部及び国防総省は…………………………………」






「第687特殊即応打撃群を中心とする第128管区戦闘団を含めた第16国防管区方面軍120万に出動命令を下します」

今回から一人称です

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