叙任式
ここはカムス連邦。天族の国アル・ファシル、悪魔族の国アルパンハーグ、亜人族の国カミングスアとの200年に渡る四種族大戦に敗れ、マニシピオ大陸を追われた人族が建てた、完全民主主義の王政国家。マニシピオ大陸の西に存在するデセスペラ小大陸を領有し、国民約1億3000人。商業や工業を主産業とする。陸海空軍と地方軍隊を有し、国民は兵役の義務を有す。
国内は全部で128の行政管区に分けられ、さらにそれらを統合した国防管区が16区存在する。行政管区は1つの国のような物で、それぞれに国王や大統領が存在し、カムス連邦はそれらの連合体として中央政府が位置するデセスペラ中央部のオムルス王国を君主とする同君連合の体を取っている。
そしてデセスペラ国民暦498年3月24日、国内最東方に位置し、アル・ファシル軍と直接相対する第128管区、通称ミンガス王国に属すカムス領の島、ミンガス島に配備されたカムス国防陸軍第687特殊即応打撃群に1人の将校が赴任した。彼の名はアンク・ローウェン。カムス共和国の上級貴族の生まれの彼は年少の頃から神童の名をほしいままにし、10歳でカムス中央国防学院に入学。学院内でも優秀な成績を修め、14歳で主席卒業。カムス連邦史上最年少の16歳で連邦陸軍少佐となった。
そして今はそれから2週間後の4月7日、ミンガス島の中央部に位置する同島の政治の中心であるオーウェンス城で行われているミンガス国王ウェンス7世によるアンク少佐の第687特殊即応打撃群群長叙任式の最中。
「………ここにカムス連邦陸軍少佐アンク・ローウェンを第687特殊即応打撃群群長に任ずる。ミンガス王国第34代国王エーゲ・ウェンス」
ウェンス国王から叙任状を受け取ったアンクは敬礼を返した。
「御意」
「君が非常に優秀だという事は連邦の最果ての地であるこの国にも聞こえておる。活躍を期待するぞ、アンク少佐」
「ご期待にお応えできるよう、全力を挙げて任務にあたる所存であります」
「うむ、よろしく頼むぞ」
ウェンス国王が満足そうに頷くと、叙任式の司会役を務めていた王立親衛隊の少尉が叙任式の終了を告げた。
「それでは、これにてカムス国防陸軍少佐アンク・ローウェンの第687特殊即応打撃群群長叙任式を終了いたします」
「それでは私は失礼いたします」
アンクは一礼すると叙任式の会場となった礼拝堂を出た。するとそこに待機していた1人の少年、といってもアンクと2歳も変わらないが―第687特殊即応打撃群副官のコールス・マクミス少尉が敬礼してきた。
「お疲れ様でした、アンク少佐」
「全くだよ。連邦の事をとやかく言うつもりはないが、もう少しこうした儀式的なことを減らしていただけるとありがたい。……コールス少尉、この後の予定は?」
「えー、この後36式装甲指揮戦闘車でアングル基地に移動し、午後3時より副隊長以下部隊参謀との作戦会議。その後57式空中早期警戒管制機で移動し北部メーパスラ市で午後6時からミンガス王国軍の砲兵科連隊との合同演習に参加、午後10時にアングル基地に帰還し首都防衛特科師団司令部とのテレビ会議で今日の任務は終了です」
アンクは眉を顰めた。
「寝るのが12時は越すな……学院の頃が懐かしい……」
「私もです少佐」
コールスが言う。彼もカムス中央国防学院の卒業生だ。ただし、彼は2年の短期専攻科、アンクは4年の上級将校育成科なので在学していた期間は違うが、アンクのミンガス派遣が決定した際に副官として彼が選ばれた。
「さて、行くか」
アンクトコールスはオーウェンス城を出て、城外で待機していた36式装甲指揮戦闘車に乗り込んだ。