第2章クッキング部の新入生歓迎会No.2
そこで私の後ろでドアがガラガラっと開いた。私は振り返ってぎょっとした。
ものすごく背が高くてガタイが良い短髪の男の人。まるで野球部か柔道部。とにかく、ここには随分と不似合いな雰囲気だ。ネクタイのカラーが私と一緒だから同学年だ。彼はハッと私を見た。さっきの高松先輩の目を見た後だからか、すごく優しい目つきだ。
「日向さん?」
「そ、そうです」
「僕は松江誠。同学年が増えて嬉しいよ。よろしく」
「それよりも、誠。この状況どうにかして」
楓ちゃんがちらっと先輩二人を見る。
「えぇ、また僕?分かったけど……」
松江君はカバンから三角巾を出して頭に巻いた。おぉ、なんか植木屋さんみたいだ。
「誠、どう見ても体育会系でしょ?」
楓ちゃんが言う。
「でもほら見てて」
松江君は最初、
「先輩!」
と声をかけたものの二人の耳には全く入らず。すると戸棚をあけてフライパンとお玉を出してきた。そして……
カンカンカンカンッ
え、叩いてる……。
「っるせぇな!」
高松先輩が怒鳴る。
「先輩達いい加減にしてくださいよ。なんですか、原因は」
「あそこのお譲ちゃん」
渋谷先輩に言われて思わずビクッとしてしまった。
「とにかく、今日は歓迎会ですから、一回落ち着いてください」
「チッ、分かったよ、このオカンが」
高松先輩が松江君を睨みつける。
「分かったでしょ?誠は今流行りのオカン系男子ってわけ」
楓ちゃんがニヤつきながら言う。あの見た目で、オカン……。
「さ、とにかく準備をしましょう」
そう言って松江君はてきぱきと準備をはじめた。同い年とは思えないくらいしっかりしてる。ちょっといかついけどね。
私は新人席なるものに座らされた。
「優真はあとで来るって聞いた。これで全員?」
渋谷先輩がそう聞いた瞬間
「すんません!遅くなりました!」
そう言って教室に飛び込んできた男の子。お世辞にも優等生な感じではない見た目。茶髪でパーマで、多分ワックスか何かでセットしてる。しかもものすごく大胆に制服を着崩してる。
「あ、君この間見学に来てくれた子!」
楓ちゃんが嬉しそうに言う。
「ホンマ、すんません!先生につかまってしもて……。」
関西弁かな?ネクタイの色が一つ下の学年だ。しっかり謝ってくるところを見ると根は悪い人じゃなさそう。
「ギリギリセーフだから大丈夫。座って」
渋谷先輩に言われて男の子は私の横に座った。
「え、こんな別嬪さんいるなんて初耳!オレこの部活には男しかおらんって聞いてたんですけど・・・あ、楓先輩は女やけど、それとこれはちゃうっていうか。え、先輩、ネクタイの色からして2年ですやんね?でも新人なんですか?それにしても先輩めっちゃ可愛いですやん!普段からモテはるんちゃいます?なんか女の子って感じのオーラがバンバン来てますね。なんか拍子抜けしてもーて、言葉も出てきませんわ!」
あの……返事する間がないくらい言葉が出てますけど!?
「とりあえず自己紹介するから落ち着いて」
渋谷先輩に言われてハッとする茶髪君。
「あ!すんません!オレ、ホンマおしゃべりで。オカンにもよく怒られるんですけど。大阪のオバちゃんも顔負けやで!言われてますねん……あ!」
高松先輩に睨まれてしゅんとする茶髪君。
「ホンマ、すんません。」
「いいよ、うちの部活は個性的な人ばっかりだからね、大丈夫」
笑いながら言う渋谷先輩。
「さ、自己紹介と行こうか。俺は3年の渋谷。一応副部長。得意料理は肉を使った料理全般。よろしくね」
「高松翔樹。3年。パスタが得意。以上」
「2年の松江誠です。和食をよく作ります。よろしくお願いします」
「私は明石楓。2年。ホワイトソースを使った料理が得意かな。弓道部と兼部してるのであまり来れないけど、よろしく。」
「じゃあ新人のお二人もどうぞ」
渋谷さんの言葉で茶髪君がちらっと私を見た。
私がお先にどうぞと軽く合図すると元気よく立ち上がった。
「はじめまして!ピカピカの1年生、和泉千尋です!関西にいたんですけど、ここのクッキング部に憧れてこの高校に来ました!得意料理はもちろん粉もんとあとは魚には詳しいです。よろしくお願いします!」
「チッ、またうるさそうな奴が来やがって」
「高松、お前がうるさいから黙って。じゃあ次あかねちゃんどうぞ」
渋谷先輩に言われて私も立った。
「日向あかねです。2年生ですが転校生です。得意料理はこれと言って……でもどんな料理も作るのは大好きです。よろしくお願いします」
ふーっ、言えた……。やっぱり人前でしゃべるのは緊張する!