表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最狂クッキング部  作者: ルコト
3/10

第1章あかね、クッキング部に入学してしまうNo.3

その日の放課後。私は学校内を色々見て回っていた。色んな教室を見て回って屋上のようになっている渡り廊下にやってきた。外の景色とグラウンドがよく見える。グラウンドではいろんな部活が行われていたし、隣のテニスコートでは夏帆ちゃんが見学に来た後輩の子にラケットの持ち方を教えているのが見えた。後輩の子たちはすごく楽しそう。多分、夏帆ちゃんはみんなに好かれる先輩になるんだろうな・・・。そう思っているとどこからかすごくいい匂いがしてきた。お肉の焼ける匂い。私はポケットから名刺を取り出した。「クッキング部」と「西棟1階家庭科教室」の文字。私は無意識のうちに西棟の階段を下りていた。


階段を下りて、廊下の奥に「家庭科教室」の札が立っているのを見つけた。私はドキドキしながら扉の前に立った。前まで来るとソースの香りがする。この匂いの感じはハンバーグかな?心臓の音が外にまで聞こえるんじゃないかと思うくらいドキドキしてる。開けてみようかな……。私は思い切ってノックをした。

「はい。」

ガラッとドアが開く。

「あ!昨日の転校生!」

ドアを開けてくれたのは昨日名刺を渡してくれたイケメン、楓様だった。

「渋谷先輩!例の子が来てくれました!」

奥にはちょっと長めの髪の男の先輩。

なんか、全身からオーラを醸し出している気がする。

「困ったな、見学終わっちゃたんだけど……」

そういって近づいてくる。男前な顔立ちで、どこかの彫刻みたいな彫の深い顔をしている。ハーフかな?そう思って先輩を見ているとバッチリ目があった。

「へぇ!楓、なかなか可愛い子を連れてきたね!」

すごいニコニコしながら私の横に来て

「いいよ、まだ俺の特製ハンバーグ残ってるから食べさせてあげるよ」

そういって肩をがしっと掴まれて席に座らされた。

「この子は先輩の彼女に連れてきたわけじゃないんですよ」

楓様がそう先輩に言いながら手際よく目の前にナイフとフォークを用意してくれた。

「部長がたった今帰ったところだからね。ゆっくりできると思うよ」

そう言って微笑む先輩。私はすっかり緊張して声が出ない。

「渋谷先輩は副部長だから、すごく料理も上手いんだよ」

楓様が私の目の前に座っていらっしゃる。

「あ、私は明石楓。同い年なんだし、仲良くしてほしいな」

なんか彼女が「私」というのにはすごく違和感がある。

「ずるいずるい。俺も仲良くしてほしいんだけど。でもとりあえず召し上がれ」

そう言って目の前に出されたハンバーグはちょっとしたレストランにあってもおかしくない見栄え。ソースがキラキラ光ってる。私はそのハンバーグをナイフで一口に区切って口に入れた。


「……おいしい!」

私は思わず声が出てしまった。まるで弾力のあるパンみたいにふわふわな歯ごたえなのに、噛めば噛むほどあふれてくる肉汁。お肉本来の味が生かされてる。それでいてすごく良い塩加減。そして何よりソース!ワインの風味が少しする。あとほのかに香るこの甘みは……なんだろう、すごくまろやかで優しい味。

「あ、はちみつだ……」

「え?」

先輩が少しギョッとした顔をした。

「ソースに入ってるのはちみつかと思ったんですけど……すいません」

きっと間違えちゃったんだな。嫌な思いさせちゃったかも……。

「いやいや、大正解!分かるの?すごいね!隠し味にちょっとだけしか入れてないのに!」

「すごい!先輩、やっぱり彼女が入ったら安心ですよ」

「ホントだね!ついでに俺の彼女になってもらおうかな」

「え、先輩これ以上彼女増やしてどうするんですか」

「あの!」

私は必死で声を出したから、思ってた以上に大きな声が出た。

二人が同時にこっちをみる。

「あ、あの……私、入ろうと思ってきたわけじゃなくて……」

なんとなく気まずい空気が流れてきた。

「ただ見学に来ただけで……別にまだ決めたわけじゃ、無いんですけど……」


沈黙。


「へぇ……ここまでその気にさせといて今さら引くなんてできるとでも?」

先輩がニヤッと笑う。私はほぼ反射的に立ち上がった。そのまま立ち去ろうかと思ったけど身動きが取れなくなった。先輩の腕の中に私はすっぽりと入ってしまっていた。俗に言う壁ドンってやつだ。状況が飲み込めず固まっている私。そして先輩が耳元で囁く。

「逃げられると思ったの?残念。どうする?このまま俺が君を食べても良いけど」

私はサーッと血の気が引く音が聞こえた気がした。なんかホントに調理されそうな雰囲気がビンビン伝わってきてる……!

「先輩いい加減にしてくださいよ」

楓様が先輩の腕を振りほどいてくれた。

「彼女怖がってますよ。ごめんね、勝手に盛り上がっちゃって。今日は遊びに来てくれたんだよね?また是非遊びに来てね」

そう言って楓様が私をドアまで送ってくださった。

「楓が邪魔して悪いね。続きはまた今度」

そう言ってパチッとウインクしてくる渋谷先輩。カッコイイけど、ホントに本気で血か何かを吸われそう……。



私は丁寧にお礼を言って、家庭科室の方を見ずに早足で下足箱に向かった。でも私の頭の中はさっき食べた美味しいハンバーグのことでいっぱいだった。あんなハンバーグ初めて食べた。お父さんが作るハンバーグもすごくおいしいけど、それとは違う美味しさ。何が違うんだろう。もっと食べてみたいけど……。そんなことで頭がいっぱいのまま私は家に帰った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ