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おしまいの町に灯りが灯る  作者: 川名真季
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SNSの三十日目

「先生、青応大学の未来を変える会のサークルがサークル会館で使っている部屋が家宅捜索されるって本当ですか」


朝八時二十分に朝霞台探偵事務所にやって来た学は、挨拶もそこそこに時哉に尋ねる。


「警察署の方が教えてくれた、本物の情報だよ」


「まだ、本宮さんが隠していたことは何か、警察はつかめていないはずですよね」


「警察が調べたときには、本宮さんが使っていたノートパソコンの本体ならびにノートなどが無くなっていたからね」


「それは盗まれたと考えていいですか」


「おそらくそうだろう。本宮さんの家では、カラースプレーでブロック塀に陽菜乃さんに関する卑猥な落書きをされるなどの事件があったため、一時期家から離れてホテルに避難されていたそうだし。むしろ、未来を変える会のメンバーが、未来を変える会に不利な証拠を本宮さんが残していないか探るために、本宮さん一家が家を開けるように、嫌がらせをしていた可能性もある」


「それはとにかく、国民が怒っているからね。警察は未来を変える会がどうだろうとも、家宅捜索して仕事をしているということを見せるだろう」


「国民が怒っている……」


「なにしろ、三戸里市の市役所のパソコンに侵入したコンピューターウイルスが、データをやり取りしている斉果県県庁のパソコンにも侵入し、ついには斉果県とデータをやり取りする、マイナンバーを管理している大本までたどり着いたからね」


「まあ、斉果県県庁の職員が必死になって被害を押し止めようとした成果があらわれて、なんとか国民全員のマイナンバーが流失する事態は避けられたが、斉果県民のマイナンバーは結構漏れてしまったね。私も確認したら、名前とマイナンバーの情報が流失していたので、騒ぎが沈静化してから、マイナンバーを新しい番号に変えるつもりだ」


「昨日のNHKのニュースでは時間を延長して、このニュースばかりやっていましたね。でも、不思議ですよね。住所も名前も出ている人もいれば名前とマイナンバーのみが出ている人がいましたが、あれはどうしてですか」


「マイナンバーはもともと、マイナンバーを無くしても、ただちに影響がでないように作られている。だから、本来マイナンバーの番号が流失しても、住所はわからないようにされているはずだ」


「だからマイナンバーといっしょに住所が出ているのは、マイナンバーのデータとは違う別のデータから住所を探しだしてマイナンバーの資料に紐つけした可能性が高い」


「そのように疑って、流失したデータを見ると、住所がいっしょに出ているデータにのっている方々の住所は、圧倒的に三戸里市が多いことで、この仮説は裏付けられる気がする」


「とにかくこれで、三戸里市だけではなく、斉果県や、全国にまで喧嘩を売ってしまったからね。未来を変える会がどこまで関係しているかわからないが、本当に関係しているなら、すぐに関連性を発見されるだろうね」


「そうですか」


学は努めて何も感じないようにしようと思ったが、心が沈むのは押さえきれなかった。


「まあ、これはこれで問題なんだが、私の考えではマイナンバー反対派が危惧していることは起こらずに、問題は終息するだろうと思っているがね」


「俺も、マイナンバーがばれたところで、そこまで困ったことにはならないと思います」


「それはともかく、流失したマイナンバーの情報を公開する場所として、トイレの中で殺された、横沢真央さんの残したblogを使用したのは、許しがたいことだ」


「横沢さんが育休を取る間、長女が保育園をやめさせられるということが三戸里市の方針で急に決まったことを不服とした横沢さんは、三戸里市に対して行政訴訟を起こした原告の一人だった」


「彼女たちを応援する人々に向けて、横沢さんはblogに思いをつづっていた。横沢さんがお亡くなりになった後、ご主人は横沢さんのblogを見るのが辛いといって、そのままにされていた。それを犯人は利用したんだ」


「最も、パソコンの扱いに長けたこの犯人ならば、きちんとblogを消去していても、復活させて犯罪に利用しそうだけどね」


「犯人は横沢さんだけではなく、本宮さんの事故のときにいっしょにお亡くなりになった、藤井光則さんの娘さんである、藤井花野美さんのインスタグラムも利用していますね」


「そうだね。しかもそのインスタグラムに載せられている写真は、どうみても藤井さんが撮影した写真ではなく、他の人間のプライベートな写真だ」


「彼女だけでなく、三戸里市に住む不特定多数の人のインスタグラムや、blog、Twitter、facebookなどを、本人以外の人間がパスワードを勝手に使い、他人のパソコンやスマホなどに入った写真をアップロードしている」


「見ていると、友達同士で撮った変な顔の写真や、子どもが裸に近い格好で水遊びをしている写真、階段を上がる女性を下から撮ったもう少しでスカートの中身が見えそうな写真など、見られたら困りそうな写真も多数ありますね」


「自分で描いたマンガの絵らしきものも、他人のSNSにおいて、多数公開されている。このようなものはあまり人に見られたくないと思っている人も多いと聞くのに、このようなことをするとは、ひどいことをするよ」


「そうですね」と、頷きながら、学は三戸里市の男性市会議員が活動報告を行うblogに更新されていた、マンガのことを思い出す。


それは記事一つに一ページのマンガが貼られたものが、そのマンガの枚数三十二枚と同じ、三十二の記事として更新されている。


マンガの内容は男同士がデートをしている途中でディープキスをしたり、抱きしめあうという、学には受け入れがたい内容だった。


こんな記事をいちいち消さなければならない、市会議員の関係者も気の毒だし、こんなところに勝手にマンガを貼られた、女性と思われるこのマンガの作者もひたすら気の毒に思う。







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