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おしまいの町に灯りが灯る  作者: 川名真季
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サークル会館での二十一日目

 その日の午前十時半、学は斉果大学のサークル会館へと向かう。ここに未来を変える会の斉果支部があると、濱田から紹介されたからだ。


 もうすぐサークル会館の玄関というところで、まだ古びていない白い建物に目をやった学は、そこに立っている人影を見て絶句した。


 最初はこの暑い夏に削ぐわぬ、黒一色のシックなワンピース姿に。次に、その波のようにうねる美しい髪と、色白な肌に。ほんの一瞬の出会いでも忘れることのないその姿。


「そんなはずない。だってあの人がこんな所にいるはずがない」


 学がとまどって足を止めていると、その人は向こうからやって来た。


「未来を変える会の斉果大支部に見学に来られた、大河学さんですか」


「は、はい」


 完全に上ずった声で学は答えた。


「私は青応大学の二年生で未来を変える会の会長の」


「櫻架名さんですよね」


 学が勢いよく答えると、櫻は微笑した。


「どこかでお会いしましたか」


「先月、三戸里市の路上で会いました。俺はアルバイト先の上司と一緒にいて、あなたは探していたおばあさんを見つけたときに」


「そういえば、先月そんなこともありましたね」


 櫻は微笑むと、今日はたまたま空いていたので、こちらの支部の見学者を案内することになったのだと話した。


「とりあえず、こちらの支部が使っている部屋に行きましょう。支部の皆さんが待っていますよ」


「はい」


 学は櫻の後に続いてサークル会館へ足を踏み入れる。




「待ってたよ。大河君」


 二階の斉果大三戸里支部が日頃使っている部屋に入ると、男四人、女一人、合わせて五人のメンバーがいた。学の見た所男四人は熱烈歓迎という感じだが、女性はあまり歓迎してくれてないようだった。


「この支部は斉果大でも未来を変える会の活動に参加したいと、去年俺が作った組織なんだ。今は東京の支部のように合同で活動していないけど、独自の活動で盛り上がっていこうと思ってるんだ」


 マッシュルームのような丸く緩やかなラインの髪型に八角形の眼鏡をかけ、青いTシャツに薄い黄土色のスラックス、白地に黒い線が横に三本入ったスニーカーの安川が暑苦しく学に語りかける。


「と、いうことで、大河君。早速だが来週行われる斉果大通り祭りで我々と一緒に手話ダンスをしないか」


「何ですか、手話ダンスって」


「手話をしながらダンスをするんだ。と言っても、簡単なダンスだから心配ないよ」


「ええっ、そんなの踊れませんよ! というか未来を変える会ってボランティアサークル何ですか」


 学が疑問を口にすると、安川が答えるよりも先に、櫻が話し始めた。


「厳密に言うと未来を変える会の活動は未来をより良くするために様々なことを話し合い、行動することですが、その方法は支部ごとに様々です。政治に興味を持ち、政治学習会を定期的に行う大学もあれば、こちらの斉果大のように、ボランティア活動をすることが未来を変える手段だと考える方もいます」


 よどみなく話す櫻を見ながら、学はメンバーの様子をうかがう。安川は真面目に聞いていたが、男三人は櫻を見てうっとりしている。ただ女性メンバーの佐野だけが櫻を厳しい目で見ていた。


「ただのボランティアじゃない。手話は、音のない世界に住む人たちとコミュニケーションするために必要な言葉です。その言葉を自在に駆使して音のない世界に住む人たちと話しあうことが、未来を変える一歩になると思うんだ」


 櫻の話を引き取って、安川は語る。


「同時に他の世界の人と話し合うために、英語の研究もしているんだ。話し合うことで他人の気持ちを知ることが、新しい未来を作る一歩になると思うから」


「そうなんですか」


 学が返事をすると安川は学の肩をがっしりと掴む。


「大河君。より良い未来を作るために、一緒に踊ろうよ!」


 学は安川の勢いに飲まれ、手話ダンスに参加すると言ってしまった。



















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