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おしまいの町に灯りが灯る  作者: 川名真季
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不発弾と家族の絆の二十日目

 三戸里市では立て続けに続いた不審な事件のため、パニック状態になる人が多発していた。事件そのものは小さくても、身近で頻繁に何か事件が起こるというのは、精神的に気持ちの良いものではない。


 市では市民を安心させるために警察署に要請し、警察官による市内のパトロールを頻繁に行った。しかし、これを見て改めてこの三戸里市の現状を突きつけられる気がすると感じる人も多かった。


 また、犯人の狙いがわからないことに、実際の被害以上の精神的圧迫を感じ、神経をすり減らす人も多数出た。そのため、三戸里市及びその周辺のメンタルクリニックを訪れる人は倍増した。


 そんな中、黒と白のごま塩頭の上岡清太郎だけはすっきりとしていた。この三ヶ月、悩みの種だった不発弾が、今日やっと掘り出されるのだ。


「あれは四月の中頃だったな」


 清太郎は思い出す。父の代から住んでいる家の建て替えをする際に、地震に強い家にするためには土台を強化した方が良いと言われたので、その工事のために土台を掘り返したところ、不発弾が出てきたのだ。


 父が家を建てた頃は家の耐震性などは意識されていなかったので、こんなに深く掘らなかったので見つからなかったそうだ。


 清太郎は早速市に通報したが、そこで信じられないことを知らされた。不発弾の処理は市ではなく地主負担だと言われたのだ。


 冗談じゃない。清太郎は憤った。不発弾は国が始めた戦争の遺産で、国が処理するものだろう。それが個人の負担だなどと間違っている。


 清太郎は市に不発弾処理の費用を負担するよう迫ったが、話は平行線のまま今に至っていた。その間工事は中断し、アパート住まいが続く。いつ不発弾が爆発してもおかしくない状況に、清太郎より妻の由美子が憔悴していく。清太郎は頑として譲る気はなかったが、お父さん、もうあきらめて市に不発弾処理をお願いしましょうよと小さな声で由美子がいう声には胸が詰まる。


 理不尽なものに負けたくないと思いつつ、いったん不発弾を処理してから後で市に請求するしかないという考えに清太郎が傾きつつあるときだった。


 突然市から手紙が届いた。中に入っていた書類には近頃不審な事件が続いているので、緊急に不発弾を処理させて頂きたい、費用は市が全面負担すると書かれていた。


「良かったですねえ。お父さんの主張が認められて」


 由美子がほっとした表情で話す。


 清太郎はすぐさま一人暮らしをしている長男の林太郎と、次男の勇太郎に連絡した。二人も素直に喜んだ。特に長男の林太郎は市を訴えるための準備をしていたので、その必要がなくなったことをぼやきながらも喜んだ。


 数日後。


「親父、旅行に行って来れば」


 家から少し離れた百円寿司屋に家族全員集合し、ささやかなお祝いをしていたとき、次男の勇太郎が言い出した。


「はあっ」


 清太郎は訝しげな声を出す。


「いやさ、不発弾を処理する日は朝九時から夜十八時まで家を離れろって言われているんだろう。だったら、その日旅行に行けば良いじゃん」


「いや、一日で終るんだし、イオンでだらだら過ごせば良いだろう」


「今回母さんに色々と迷惑かけたんだからさ、行って来いよ」


 林太郎まで勇太郎の味方をしだす。


「そうね。温泉でも行きたいわね」


 由美子まで乗り気になっている。


「いや、しかし」


「別にそんな遠くに行かなくていいのよ。隣の県の温泉ならそんなに費用も掛からないし」


「俺も金を出すからさ」


 林太郎が言うと、勇太郎も「俺も」と言う。


「そ、そういうことなら、行くか」


 かくして追い詰められた清太郎は、夫婦二人で温泉に行くことになった。



















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