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おしまいの町に灯りが灯る  作者: 川名真季
17/31

熱い風が吹く十七日目

 「ガン、ガン」


 夜十一時過ぎ。三戸里市中央部の加川町の加川団地で一人暮らしをしている篠崎節男は家の外から聞こえてくる不審な音に気づいた。


 かつて節男がこの団地に引っ越してきた時には、大勢の子どもの声が聞こえて、大変賑やかだった。節男自身も妻と、男の子と女の子の二人の子どもと住んでいた。しかし、長い年月を経て、団地には人がいなくなった。節男の妻も亡くなり、大人になった息子と娘も出て行き、隣人は老人ホームに引っ越した。そのため今は驚くほど静かなこの団地に、聞きなれぬ音が響く。


「ガン、ガン」


 謎の音はまだ聞こえる。断じて空耳などではない。節男は覚悟を決めると、恐る恐る玄関に行き、木製のドアにかけた鍵を開錠し、ドアを薄く開ける。


「ピピッー!」


 節男がドアを開けたとたん、前方の暗がりから、ホイッスルが強く吹かれた。節男は思わずビクッとして肩をすくめる。


「逃げるぞ!!」


 節男は自分の住む団地の横から、若者とおぼしき二人組が走り出るのを見た。


 節男はもとより、腕力で物事を解決するタイプではなかった。なにより、こないだ路上に雪がばら蒔かれた事件において、犯人を注意しようとした人たちが犯人に襲われ死者三人、重軽傷者十八人の被害者が出たことから、市の広報は犯罪を見かけても絶対に近づかず、犯人から充分に距離をとって警察に連絡するようにと、何度も何度も放送していた。それゆえ、犯人らしき二人組の姿を見ると、いそいでドアを閉め、再び強く鍵をかける。


 ***


 子どもの時から田中英介はクーラーのない部屋で生活するのが苦痛だった。一人暮らしを始めた時も、一番最初にしたことはクーラーを設置することだった。結婚して妻と中学一年生の長男と小学5年生の長女と暮らす今でも、それは変わらない。そんなわけで夏の時期、クーラーのない部屋で過ごすなどということは、英介にとって絶対考えられないことなのだった。


 三戸里市に雪が撒かれた事件の日から二日めの夜、英介は夜中に起きた。いつもは一度寝ると朝まで起きることはないが、今日はなぜか異常に暑くて起きてしまった。

 英介は電気をつけその原因を探す。するとクーラーから熱い風が吹いていることに気づいた。英介はすぐさまクーラーのリモコンを手に取り、いったんクーラーを消すと、再び運転のボタンを押す。だが、何度ボタンを押しても、クーラーから涼しい風が吹いてくることはなかった。


「故障したのか」


 英介は眠い中、不機嫌そうな顔で呟くと、クーラーとリモコンをつけたり消したりする。しかし、クーラーが直ることはなかった。


「ええい!」


 英介はクーラーを消すと、不愉快なのをこらえて再びベッドに戻る。


 ***


 赤色の光を撒き散らしパトカーが走る。最近の三戸里市の治安の悪さを考慮してパトカーでの見回りを増やしたのだ。


「これだけパトカーが市内を走り回って居れば、夜悪事を働く奴も減るだろう」


 三戸里市警察署の署員たちはそう思っていたのだが。


 現実は違った。


 夜中によその家の庭をうろつく、怪しい人影が多数目撃されたのだ。


 もちろん警察の方でも怪しい人物を見つけるとすぐに職務質問し、証拠がある場合は逮捕したが、三戸里市のあらゆる場所に怪しい人物は出現したため、捕まえ損ねた不審者も多く出た。

 さらに捕まえた不審者を調べると、警察官たちは驚きを隠せなかった。彼らの多くは二十歳未満の若者だったからだ。


















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