幽霊のいる確率
「すごい! これもユーリちゃんが作ったの!?」
「だからユーリちゃんじゃないってば!」
本日何度目だかわからない呼び方のくだりを繰り返す理科とユーリちゃん。
なんでそんなに「ユーリちゃん」っていう呼び方が嫌なのか聞くと、
「ユーリはすごいからユーリちゃんじゃないの! ユーリちゃんはすごくないの!」
だそうです。よくわからぬ。
「じゃあなんて呼べばいいの?」
理科がもっともな質問をする。
「ユーリはかせってよべばいいのです」
そういってユーリちゃんは胸をはる。
「じゃあ私のことも理科博士って呼んでくれるの?」
理科博士は理科の小学校の時のあだ名だ。気に入ってたんだろうか。
「ヤダ! ユーリのほうがすごいもん!」
「いや、私の方がすごいよ!」
「ユーリだもん!」
なんで理科はちっちゃい娘と張り合ってるんだよ。
多分、5才以上理科の方が年上なんだから当たり前じゃないか。
「へー。だったら二酸化マンガンと過酸化水素水から発生する気体は?」
そんな僕でもわからない問題、ユーリちゃんみたいなちっちゃい娘にわかるわけが「かんたんだよ! 酸素でしょ!」「せ、正解」・・・ないと思ったんだけどユーリちゃんは僕よりすごかったみたいだ。
「じゃあユーリからも もんだいだからね! ぜんぶで6こあるクォークのなかで第二世代のクォークは?」
「ストレンジクォークとチャームクォーク」
「うぅ・・・せいかい」
小学校卒業直後の女の子と見た目幼稚園年長くらいの女の子の口げんかがものすごいハイレベルなんだけど・・・
クォークって何?フォークの仲間?
「じゃあ私からの問題ね! アインシュタイン・ローゼンブリッジの・・・」
あー! また訳の分からない口げんかが始まってしまう!
助けを求めて木村さんに視線を送ると、木村さんは苦笑しながらも二人を止めに入ってくれた。
「ほらほら。二人とも正解だし、どっちもすごいって事でいいんじゃない?」
「「たしかにすごいけど・・・」」
二人がお互いの顔を見つめ合う。
「私の方がすごい!」
「ユーリの方がすごい!」
やっぱりそうなるのか・・・
「じゃあ僕が問題を出すから、それに答えられた方がすごいって事にしよう!」
「・・・わかった! いいよ!」
「わかりました。それでいいです」
「OK。それじゃあ問題!」
二人の了解を得て木村さんが口を開く。
「ーーーこの世に幽霊がいる確率は?」
「えーと、えーと・・・今まで世界で死んだ人数が270億人だとして・・・・・・あーもうっ! こんなのわかるわけない!!」
「むむむ・・・ひとがつよいみれんをのこしてしんじゃうかくりつは・・・・・・わかんない」
二人ともさっきからずっと唸っている。
まだまだ答えは出なさそうだ。
でも実は、僕はもう答えに気がついている。
もちろん自信は無いけど、この答えならあり得るかもしれない。
ただ、本当にこの答えがあってたら、木村さんは相当意地が悪いと思う。
「それじゃあ二人ともギブアップって事でいいかな?」
「「こんなのわかるわけないよぉ」」
天才二人の声が重なる。
「ははは・・・ちなみにセツナ君はわかったかい?」
話を振られたので、予想していた答えを言う。
「もしかして、『いる』か『いない』のどっちかしか無いから50%なんじゃないですか?」
「「・・・・・・!」」
理科とユーリちゃんが「まさか!」って顔をしている。
「正解! その通りだよ。よくわかったね!」
木村さんが笑顔で答えた。
本当にあってたよ・・・
「というわけで、この中で一番すごいのはセツナ君という事に・・・」
「「納得できない!!!」」
また二人の声が重なる。
なんだ、息ぴったりじゃん。
でもそりゃそうだ。こんなの科学でも何でもない。納得できないのは当たり前だろう。
「それに、どっちも答えられなかったら意味が無いじゃないですか! 結局呼び方はどうするんですか!」
確かに、答えられた方がすごいって話だったのに二人とも答えられなかったらどっちがすごいかなんてわかりっこない。
「二人とも同じくらいすごいから、お互いに理科とユーリって呼べばいいんじゃないかな?」
木村さんが提案する。
「ユーリちゃんじゃなければいいんでしょ?」
「・・・うん」
「理科ちゃんも理科博士にこだわってるわけじゃないんでしょ?」
「・・・ちょっと張り合ってみただけなので」
「それじゃあ・・・」
「「・・・・・・」」
しばらくの沈黙の後、
「よろしく、ユーリ」
「よろしく、リカ」
二人の天才少女は手を握り合った。