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今を生きるセツナ  作者: たい
第一章 超能力との出会い
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ユーリの研究室

「ありがとうございます! すごく勉強になりました!」

「いえいえこちらこそ。いやー、すごいね。さすが西河先生の娘さんだ」


はぁ・・・


満足そうな二人を横目にため息を吐く。

あの後、理科と木村さんのやりとりを聞いていたのはいいけれど、だんだん内容が難しくなってきて話についていけなくなった。

それでも二人の話はさらにエスカレートして、なんと3時間以上も質疑応答を繰り返していたのだ。


そんなわけで時刻は午後1時30分。

朝食を食べていたはずが、もう昼食の時間をすぎている。

朝食を食べた時間が遅かったからお腹はすいてないけど、理解できない話を延々と聞かされるこっちの身にもなって欲しい。

そんな僕の考えがわかったのか木村さんが声をかけてくれた。


「ごめんね。セツナ君には退屈だったかな?」

「知識が増えた時のこの気持ち・・・! なんでセツナは理解できないかなぁ」


理科が残念そうにうなだれる。

やっぱり天才とまで言われるようになると思考回路が普通の人と違うようだ。


「この後はどうしようか? 一応今日は研究所内を案内しようと思うんだけど、どこか行きたい所はあるかい?」


うーん、行きたいところかぁ・・・

そもそもどんな所があるのかしらないしなぁ・・・


「そういえば研究所 研究所って言ってますけど、ここって本当に超能力の研究しかしてないんですか?」


理科が問う。

言われてみれば、確かにこの研究所は能力者の研究と隔離のためだけに造ったとは思えない程に大きい。

例えば、杉城さんに会った時は効果範囲の検査をしたあのビルからあの白い建物まで行くのに10分位かかった。

特にゆっくり歩いた訳でもなかったし、道はまっすぐだったからそれなりの距離があったんじゃないだろうか。

最初に研究所に来いと言われたときは、病院くらいの大きさに機械を詰め込んだような建物を想像してたのに、これじゃあまるで小さな町だ。


「うーん・・・実はね、まだ超能力の研究すら始まっているとは言えない状況なんだ」


え?どういう事?

理科と顔を見合わせる。


「今のところ研究と呼べるようなものができてるのは杉城君だけ。それ以外の11人はみんなセツナ君達と同じ日か、その前日にここにきたばかりなんだ。つまりセツナ君以外の能力者もみんな、こんな風にこの研究所の説明を受けてる最中だからとても研究どころじゃないんだよ」

「そんな・・・じゃあこんなに広い土地があるのに何もしてないんですか!?」

「しょうがないんだよ。この研究所は出来たばかりなんだ。建物を建て始めたのが約1年前。人員や機材、データなどの移送が完了したのが2ヶ月くらい前。それから君たち能力者の受け入れ準備を整えて、やっと3日前に杉城君をこの研究所に連れてくることができたんだ。」


で、その次の日に他の能力者の受け入れ、と。

うーん・・・僕の想像よりだいぶ違ってたな・・・

でもまあ考えてみれば超能力者の隔離施設なんて物が最初からあるわけないもんな。


「それに全く何もしてないという訳でも無いんだよ。

そうだ! ちょうど理科ちゃんに紹介したい所があるからそこに行こうか!」





そんなこんなで連れてこられたのは、入口に「第一総合研究ラボ」と書かれた建物だった。


「このラボ内のいくつかの場所はもう研究や実験を始めてるところがあるんだよ。理科ちゃんはこういう実験をする所とかが好きだって西河先生から聞いてたから、喜んでもらえるかと思って」


それを聞いた理科は、


「ありがとうございます! 大好きです! こういうところ! ぜひ案内してください!!」


すごい。

なんか「嬉しくて仕方がない」っていう感情を全身で表現してる感じだ。

科学が好きで科学関連の本を読みあさる理科にとって、この研究所という場所はきっと夢のような場所なんだろう。

だってほら。目が輝いてるもん。


「わかった。順番に回って行こう。場所によっては入れない所とかもあるから気をつけてね」





で、理科にとって夢の場所なのはいいけど、僕にとっては訳のわからない話を聞かされる朝食の時の悪夢の続きなワケで。

まあクローン野菜の研究してる所では、親切な研究員さんが僕にもわかるように教えてくれたから楽しかったけど。


「ここはすごいです! ここの研究所が本格的に動き出したらこんな研究があっちこっちで行われるんですか?」

「まあね。いくら超能力者とはいえ、たった14人のためにこんな大きな研究所は作れないからね。

超能力者達を外界から隔離するついでに研究施設を集めて、あわよくば超能力者の能力で通常ではできない特殊な実験を、っていうのがここをつくったお偉いさん達の思惑なんだとおもうよ」


なるほどー。

そうすれば超能力者も隠せて研究も進んで一石二鳥ってわけか。

うまいこと考えるもんだなぁ。


その時、実験中の部屋を探していた理科が立ち止まった。


「あれ? この部屋はなんの部屋なんですか?」


そういって理科が指差す先には「ユーリ」と書かれたプレートのかかっている扉があった。


「あ、ここは、えっと、その・・・」


あれ?木村さんの歯切れが悪い。

なんだろ。触れちゃいけない場所だったとか?


「いや・・・でも理科ちゃんにはむしろ紹介した方が・・・よし!」


なにかぶつぶつ呟いた後、納得したようにドアにむかった。

いや、なんの部屋なのかっていう答えもらってないんですけど。


コンコン


木村さんがドアを叩いて数秒後、ガチャリと音がしてドアが開いた。


「どちらさまですか〜? ・・・あっ! よっしーだ!」


開いたドアかなひょこっと顔を出したのは、サイズの合っていないダボダボの白衣を着た小さな女の子だった。


「やあユーリちゃん。今日はこの二人をユーリちゃんに紹介したいんだけど、いいかな?」

「いいよ!さーさーどうぞおはいりください!」


ユーリと呼ばれた女の子に招かれて部屋に入ると、部屋の中は結構スッキリしていた。ただ、テーブルの上にはよくわからない道具や機械が置かれていてそこだけすごく散らかっていた。


「はじめまして!ユーリのなまえはユーリといいます。このけんきゅうじょでけんきゅうをしてるのでユーリはかせとよんでもいいです」


そういってユーリという女の子は胸をはる。


「彼女は冨樫(とがし) 有理(ゆうり)ちゃん。冨樫博士の娘だよ。あ、ちなみに彼女の言う研究所っていうのはこの部屋の事だからね」


なるほど、能力の効果範囲を測る検査をしてくれた人の娘か。

あの人は結構年をとってるように見えたし、年齢差からみると孫って言う方がしっくりくるけどな。


「ユーリちゃんはどんな研究をしているの?」


理科がユーリちゃんと同じ目線までしゃがんで優しく話しかける。


「ユーリちゃんじゃなくてユーリはかせってよんで! ユーリはけんきゅうしてるからはかせなの!」

「はいはい。ユーリ博士はどんな研究をしていらっしゃるのですか?」


ユーリちゃんは見たところ6、7才くらいに見えるし、研究といってもお遊び見たいな物だろう。

と思っていたのに、


「うーんとね、さいきん はつめいしたのはこれ! レーザーポインター!」


そういって彼女が取り出したのは、人差し指くらいの長さの銀色の棒にコードとコンセントがついたモノだった。

つくりは結構しっかりしてそうだ。


「レーザーポインターって、先から光が出て指差し棒とかねこじゃらしの代わりとして使えるあれ?」

「そーだよ。みててね。すごいから!」


そういって彼女はレーザーポインターをコンセントに差し込み、先を少し離れたテーブルの上に置いてある木のブロックに向けた。


「ポチッとな!」


いいながらボタンを押すと、木のブロックの右上に赤い光の点が現れ、木のブロックを貫いた(・・・)

そして赤い点はそのままブロックの左下まで斜めに移動し、木のブロックを切断した。


「「「・・・・・・」」」


その場にいた僕と理科と木村さんの三人は切断されたブロックを見て声が出せなかった。


「ごめんごめん、しゅつりょくのおおきさ まちがえちゃった。ほんとはこうなるんだよ」


もう一度彼女がボタンを押すと、今度は切断されたブロックの表面を赤い点が動き回る。

確かにすごい。すごいけど、問題はそこじゃない。

切れたよね!? 今、木でできたブロックが半分に焼き切れたよね!?


「・・・い、いやほら、今の木はベニヤだから。加工しやすい事で有名な木だから!」


木村さんが誰にともなく弁解する。

いや、いくら加工しやすいって言っても「焼き切れる」って・・・


「ゆ、ユーリちゃん・・・?」


理科が掠れた声で問う。


「だからユーリちゃんじゃないってば! このレーザーポインターのすごさがわかんないの? ユーリはこんなすごいのつくれるから「ユーリちゃん」じゃないの!」


いや、レーザーポインターのすごさは嫌というほどわかったから。

問題はそのすごいレーザーポインターを、頑張っても小学校1年生くらいにしか見えない小さな女の子が作った事だ。


「し、信じられない」


僕が呟く。

木村さんは苦笑しながらこの場所の事を教えてくれた。


「この娘はこの研究所の副所長 冨樫 好義博士の娘、冨樫 有理ちゃん。そしてここは有理ちゃんの部屋、通称『ユーリの研究室(あそびば) 』だよ」

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