朝ごはん
静かな朝。
僕は自然に目が醒めた。
「ううん・・・」
目を開くと目の前に理科の顔があった。
すーすーと静かな寝息をたてている。
そうだ。昨日は理科と一緒に寝たんだっけ。
首だけ動かして窓の方を見ると、カーテンの隙間から一筋の光が差し込んでいた。
部屋の中は薄暗くて、やろうと思えばもう一眠りできそうだ。
ベットを通して伝わる理科の温もりもすごく心地いい。
最高の朝だな・・・
まどろみの中でしばらく理科の顔を眺める。
「んんっ・・・」
理科が目を開く。
「セツナ・・・おはよぉ・・・」
理科が小さく呟く。
「おはよ」
僕も返事をする。
「ふわぁ・・・うにゅむにゅ」
理科はまだ眠たそうだ。
僕は理科の目も覚めた事だし、眠気もおさまってきたので身体を起こす事にした。
そっとベットから降りる。
春とはいえ、この時期の朝は冷える。
冷たい空気が僕の身体を冷やしていく。
ベットの温もりが恋しくなったけど、ここでベットに戻ったら出られなくなりそうなので堪える。
枕元に置いてあるデジタル時計をみると9時を少し過ぎた頃だった。
理科が部屋に来たのが昨日の9時過ぎで、それから多めに見積もって1時間話していたとしても11時間も眠った事になるのか。
随分寝たな・・・
僕も理科も相当疲れていたし、二人で寝たから安心して寝られたのかもしれない。
顔を洗おうと洗面所に向かう。
水道の水はすごく冷たかった。
冷たい水を顔に叩きつけるとシャキッとして視界がクリアになったように感じる。
洗面所を出ると理科は身体を起こしてぽけーっとしていた。
ゆっくりとこっちを向くとにこっと笑って
「おはよう、セツナ。ありがとね。グッスリ眠れたよ」
と言った。
「そろそろ自分の部屋に戻るね」
そう言って理科はベットから降りてドアの方に向かった。
「わかった。あとでね」
僕はそう答えると窓のカーテンを開ける。
薄暗かった部屋が一気に明るくなる。窓を開けると爽やかな風が吹き込んできた。
後ろの方でドアを開ける音がして、理科が出て行ったと思った時、
「ひっ!」
小さな悲鳴が聞こえた。
僕は慌てて理科に駆け寄り、どうしたのと声をかけようとして理科が驚いた物の正体がわかった。
「あれ? 理科ちゃん? おかしいなぁ・・・こっちの部屋はセツナ君の部屋だと思ったんだけどなぁ」
木村さんだ。
ドアのすぐ横の壁に寄りかかっていた。
そりゃその位置にいたら驚くだろう。
「あ、あの。私たち昨日は一緒に寝たんです」
理科がそう言うと木村さんはオーバーな程驚いた。
「えぇっ! い、一緒に寝た・・・まだ中学生にもなってないのに・・・」
「「そういう意味じゃありませんっ!!!!」」
僕と理科の声が重なる。
何考えてんだこの人。
「そ、そうだよね。ハハハ・・・二人ともまだ12才だしね・・・」
木村さんも間違いに気付いたようだ。
「ところで何の用なんですか」
理科が顔を赤くしながら言う。
「ああ、そうだった。君たちを食堂まで案内しようとおもってね。ついでに西河先生の代わりに昨日の説明の続きもしようと思うんだけど、大丈夫?」
「ええ、大丈夫です」
そういえば朝食とかどうするのか聞いてなかった。
まだここの事全然知らないもんな。
説明というのは超能力についてだろう。西河さんもまだ説明することがあるって言ってたし。
「そうか!じゃあはいコレ。昨日君たちが着ていた服。洗濯しておいたよ」
と、服を服を手渡されて気付く。
「僕たちって着る服はどうすればいいんですか? まさか毎日同じ服っていう訳にもいかないでしょうし」
と尋ねると木村さんは、
「君たちの部屋が決まったら、君たちの家から家具も含めて持ってくる予定だし、研究所の中でも買えるから心配しなくても大丈夫だよ」
へぇ〜。
服まで研究所の中で買えるんだ。
すごいなここは。
「じゃあ着替えてきます」
僕たちは着替えを受け取ると、それぞれの部屋に戻っていった。
「おおっ・・・・・・!」
「すごいね・・・・・・」
僕と理科は感嘆の声をあげていた。
なぜかと言うと、木村さんに連れてきてもらった食堂というのがすごく立派だったからである。
「好きな所に座って。バイキング形式だから好きなものを取ってきていいよ」
すごいすごい!
バイキングだって!
ホテルの食堂なんてテレビとかでしか見たこと無かったけど、大人たちはこんな所で食事をしているのか!
なんて羨ましい・・・!
とりあえず言われた通り座る席を探す。
理科が窓際の席に座ったので僕もその隣に座る。
窓からはオーシャンビュー・・・とはいかなかったけれど、目の前に山が見えた。
まあ目の前にビルの壁よりははるかにマシか。
それに大自然を見ながら食事なんていうのも新鮮でいいじゃないか。
「僕が座ってるから好きなものとってきなよ」
そう木村さんが言ってくれたので食べ物を取りに行く。
置いてある食べ物は様々だった。
お肉にサラダにスパゲッティにピザ。
プリンや杏仁豆腐、アイスまである。
バイキング自体、今までの人生で1回か2回しか行ったことが無かったからすごくテンションが上がる。
それは理科も同じようで、料理をみながらどれをとろうかすごく悩んでいる。
「とりあえずは・・・コレでいいかな」
僕はお皿の上にご飯を盛り、ソーセージとベーコンをのせる。
足りなかったら後で取りにくればいいんだし。
「あー! お肉ばっかりは体によくないよ、セツナ」
僕のお皿を見た理科が言う。
「そーゆー理科こそ、はじめからデザートはどうかと思うよ?」
理科のお皿の上にはアイスやらマシュマロやらが盛りだくさんだった。
「の、脳を動かすためには糖分が必要なの!」
「だからって摂りすぎると糖尿病になるよ」
「その分頭を使えばいいでしょ!」
多分理科はいろいろ口実をつけて、甘いものが食べたいだけだと思う。
なんで女の子ってこんなに甘いものが好きなんだろ。
それとも理科が特殊なだけかな?
そんなこんなでテーブルに戻る。
「木村さんもどうぞ取りにいってください」
理科が言う。
「いや、僕はもう食べたから大丈夫だよ。二人とも、ゆっくり食べていいからね」
僕は席に座り、ソーセージ口に運ぶ。
うん、おいしい。
「それじゃあ早速で悪いけど、説明してもいいかな?」
木村さんが話しかけてくる。
「はい」
僕は了承する。
「西河先生からはどこまで聞いた?」
記憶を探る。
「えっと・・・確か、超能力は4つの系統に別れていて、僕は精神感応系統の能力者って言うところまでだったと思います」
「そうか。じゃあまだレベルについては聞いてないんだね」
突然でてきた聞き覚えのない単語に首をひねる。
「レベル?」
「ああ。超能力者には、能力が届く範囲、いわば能力の効果範囲がある事がわかっているんだ。セツナ君がここに来て最初にやったあの検査はその効果範囲を調べるための検査だ。同じような検査をこの研究所にいる能力者全員に行っている」
そっか。あの変な動きをする機械はそれを調べていたのか。
「そして測った効果範囲の広さによって、レベル1からレベル3までに分けられる。
セツナ君はレベル1。効果範囲が1.5m未満の能力者ってことだね」
西河さんも僕は能力が弱いって言ってたし、そんなもんか。
「杉城さんのレベルはいくつなんですか?」
ちょっと気になったので質問してみる。
「そうか。杉城君には会ったんだね。杉城君はレベル3。効果範囲が30m以上の能力者だよ」
やっぱり。大体予想はついてたけど、さすが杉城さんってとこか。
「杉城君はすごいよ。150m離れた所にあるものにも力を伝えられるんだから。今のところ、彼の能力の効果範囲は広すぎて不明なんだよ」
よ、予想以上だ。広すぎてわからないとか、どれだけすごいんだ・・・
「レベル3の人って他には誰がいるんですか?」
身の安全のためにも聞いてみる。
もし杉城さんクラスの能力者がいるならやっぱり近づかない方がいいかもしれない。
「え、えっと・・・この研究所にいる、レベル3の超能力者は、杉城君だけ、だよ?」
なんだろ?なんか木村さんの返事がはっきりしない。
その時、今まで話を聞いていた理科が口を開いた。
「この研究所にいるレベル3がその杉城っていう人だけなら、研究所の外にはレベル3の超能力者がいるっていうことですか?」
「え!?いや、それは、その・・・えっと・・・」
図星なのか木村さんがうろたえる。
木村さん・・・わかりやすすぎる・・・
「くっ・・・その通りだよ。この研究所の外にもう一人のレベル3がいるんだ」
木村さんが話し出す。
「いま日本で確認されている能力者は全部で14人。そのうち13人はすでにこの研究所にいるんだけど、一人だけ、ちょっと事情があってこの研究所に連れてこられないんだ」
「その連れてこられない人がレベル3ってことですね?」
「そういうこと。ぜ、絶対に他の人には言わないでね・・・西河先生に口止めされてるんだから」
じゃあ言っちゃダメじゃん。
多分木村さんはおひとよしすぎて損するタイプだな。
「わかりました。ところで日本で確認されている能力者が14人てことは、海外でも能力者は確認されているんですか?」
理科が目を輝かせながら質問する。
あー。これはスイッチがはいっちゃったな。
理科の好奇心は底なしだ。多分気になることがなくなるまで木村さんを質問ぜめにするだろう。
「うーん。どうだろう?もしかしたら海外にも超能力を使える人はいるかもしれないけど、いたとしても多分日本と同じで隠してるんじゃないかな」
でも理科の質問に答える木村さんもなんだか楽しそうだ。もしかしたら木村さんは教師に向いているのかもしれない。
次々と質問を繰り出す理科とそれに答える木村さんを眺めながら、僕は二本目のソーセージを口に運んだ。