長い一日の終わり
西河さんがホテルに泊まるようなものだと言っていた通り、来客用の部屋というのは本当にホテルのような部屋だった。
というかホテルそのものだった。
ベッドも大人用なので小学校を卒業したばかりの子供が寝るには広すぎるくらいだ。
部屋にあるものは自由に使っていいと言われたので、シャワーを浴びて広すぎるベッドに寝転ぶ。
となりの部屋には理科がいるらしい。ずいぶん静かだけど、部屋の防音がしっかりしているのか、それともやっぱり理科も疲れているのだろうか。
僕も静かに目を閉じた。
今日は本当にいろいろな事があったなぁ・・・
理科に追いかけられて、誘拐犯に襲われたと思ったらその人は西河さんの部下で、これからは研究所で暮らしてほしいと言われ、車に乗って数時間かけて研究所まで来て、そこで君は超能力者だと言われて・・・
今日一日でどれだけ僕の人生は変わっただろう・・・?
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・眠れない。
目を開く。
身体は疲れているけど、慣れない場所でうまく寝付けない。
さっきはホテルそのものなんていったけど、いままでホテルどころか外泊した事も無かったもんなぁ・・・
少し、家が恋しい・・・
研究所で暮らしてくれと言われてそのまま来ちゃったけど、これでよかったんだろうか。
少し考えさせてほしいと言ってみればよかったんじゃないだろうか。
優しい西河さんのことだし、考える時間くらいくれただろう。
そうすれば理科にあんな急に選択を迫ることも無かったはずだ。
もう少し、よく考えるべきだったな・・・
天井を見る。
見慣れない天井は何か物足りなかった。
ーーーーーコンコン
しばらく目を瞑って寝そべっていると誰かが僕の部屋をノックする音が聞こえた。
誰だろう、こんな時間に。
と思ったけど時計はまだ9時を少しまわったところだった。
扉を開けようとベットから降りる。
「おっとと」
身体がふらついてしまった。
やっぱり肉体的にはかなり疲れているみたいだ。
ガチャリ。
扉を開ける。
「・・・理科?」
そこに理科がいた。
パジャマ姿で。枕を抱えて。
「そ、その、眠れなくて・・・だから・・・さ。一緒に寝よ?」
理科は部屋にいれてほしそうにこちらをみている。
部屋に入れますか?
はい いいえ
ってやってる場合か。
「ぼ、僕も眠れなかったから。うん、い、一緒に寝よう」
理科を部屋に入れる。
理科はベットに枕をおいて布団に潜り込む。
僕も枕をずらして布団に入る。
二人とも恥ずかしいからかお互いに背中を向けている。
「こうやって一緒に寝るのって何年ぶりだろうね?」
理科が話しかけてくる。
「さぁ・・・何年ぶりだろ。昔は毎日一緒に寝てたのにね」
「ふふっ。そうだね。あの頃はそれが普通だったもんね」
理科が笑う。
「なつかしいな・・・そういえば夏場は寝てる時に理科に布団を独占されて肌寒かったなぁ」
昔の記憶で少しからかってみる。
「そ、そんな事言ったらセツナだって、夜中に寝ぼけて私に抱き・・・ついて・・・きて・・・」
段々理科の声が小さくなっていく。
「僕が・・・何だって?」
「なっ、なんでもないっ!!」
怒られてしまった。
「・・・・・」
「・・・・・」
その後しばらく沈黙が続いた。
もう寝てしまったんじゃないかと思い始めた頃、
「ねぇ、セツナ」
理科がふと話しかけてきた。
「セツナが超能力者って本当・・・?」
「本当らしいよ」
後ろでゴソゴソと音がする。理科がこっちを向いたようだ。
「・・・らしいって?」
「僕もいまだに実感が湧かないんだ。言われてみても自分が超能力を持ってるなんて信じられない」
僕は思った事を話す。
理科とは物心つく前からの付き合いだし、兄妹みたいな感じだ。
思った事も気兼ね無く話せる。
「じゃあセツナは何も変わってない?」
「うん。別に変な実験をされたりもしてないし、変わってないと思うよ。超能力があるって言われても、自分の意思じゃ使えないし。今までと同じだよ」
「そっか・・・」
理科が小さく呟く。
「よかった・・・セツナは超能力者で、その研究のためにここに連れてこられたんだって聞いて、今までの私が知っていたセツナが嘘だったような気がしてきて・・・」
理科の声がかすかに震えていた。
僕も理科も同年代の友達なんていなかったし、周りからも浮いていた。
僕達は兄妹じゃないけど、だからこそ、もしかしたら本当の兄妹以上にお互いに依存し合っていたのかもしれない。
そんな相手がもし変わってしまったら。
すごく不安で、悲しくなるだろう。
僕も理科の方を向いた。
理科と目が合う。
「でもほんとによかった。セツナはセツナのままで。なんにも変わってなんかなくって」
そして理科はにこっと笑った。
その笑顔も、僕が知っている理科と何も変わらなくてとても安心した。