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今を生きるセツナ  作者: たい
第一章 超能力との出会い
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研究所

車に乗っていた。

見慣れた景色が後ろへ流れて行き、初めて見る景色が段々増えていく。今思うと僕はあまり町の外に出たことが無かった。いつも同じ景色の中で同じ人達と一緒に暮らしていた。それがあたりまえだった。でも、もうそんなあたりまえの日常には戻れないのかと思うと少し不安になった。

まあ仲のいい友達なんて理科くらいしかいなかったけど。

車の中には真ん中の席に僕と理科、運転席に男、その隣の助手席に西河さん、そして後ろの席にもう一人の男の5人が乗っていた。

車に乗ってからはみんな無言で、僕と理科はお互いに窓から外の景色を見ていた。しばらく走ると見慣れた景色は完全に見えなくなった。


「「はぁ……」」


僕と理科のため息が重なる。

しばらくすると助手席の西河さんが運転席の男と後ろの席の男に声をかけた。


「木村君、佐藤君、そろそろ準備してくれ」


木村君と呼ばれた運転席の男は、運転席の下辺りに手を入れると白いビニール袋を取り出し、


「二人とも、これをつけてくれるかな?」


と僕らに渡してきた。


「木村さんって言うんですね、知りませんでした」


僕がそう言うと、


「ああ、木村(きむら) 義行(よしゆき)だよ。よろしくね」


と返してくれた。

最初は誘拐犯かと思ったけれど、どうやらいい人らしい。

渡された袋の中には黒いアイマスクが入っていた。


「それをつけろ。つけたら研究所に着くまではずすな」


後ろの席の男が身を乗り出しながらぶっきらぼうに言った。


「すいません、あなたは?」

「俺は佐藤だ。西河さんの護衛として来た」


なるほど。たしかに佐藤さんはすごく体格がいい。ついでに顔もいい。

でもなんでたかが僕らを連れて行くのに護衛が必要なんだろう。

そう思いながらも言われたとおりアイマスクをつける。

視界が暗くなって車の走る音だけが聞こえる。

佐藤さんはアイマスクがきちんとついている事を確認すると、後ろの席に戻った。

しばらくすると辺りに森というか自然が多くなって来たのが分かった。それを西河さんや木村さんに伝えたけれど、誰も返事をしてくれなかった。ただ理科だけが「え? そうなの? え? えぇ?」と不思議そうな声を上げていた。





町を出てからどのくらい経っただろうか。


「もう外していいよ」


木村さんにそう言われてアイマスクを外すと、車の窓には遮光シールが貼られていた。なんか警察が犯人を移送する時の車みたい。

前の方には門があった。恐らくあれが目的地である研究所だろう。そして、これから僕らが暮らす場所。

車は門をくぐり少し走ると辺りで一番高いビルの前で止まった。


「着いたよ。降りてくれ」


西河さんに言われた通り車を降りる。

辺りの空気はすごく澄んでいた。ずっと車に乗っていたので空気が美味しい。


「こっちだ。ついてきてくれ」


西河さんがそう言いながらビルに入っていき、木村さんもそれに続く。僕らもそれに続き、佐藤さんが後ろからついてくる。

……ん?車の中では気づかなかったけど、佐藤さんが腰に提げているのって……まさか拳銃!?

すご……本物初めて見た……ってそうじゃなくて。

まさか僕らが抵抗した時のために拳銃を持ってる訳じゃないだろう。拳銃が必要なほど危険な任務だったんだろうか、僕らの移送は。

ビルに入ると、まず目に入ったのは噴水だった。それから高い吹き抜け。なんか大企業のビルみたい。

西河さんがエレベーターに乗ったので僕らもついていく。それなりに広いエレベーターで5人乗っても窮屈ではなかった。

エレベーターを降りると、清潔そうな白い廊下が伸びていた。

エレベーターは下へ降りていたから、ここは地下だろう。


西河さんは一つの部屋の前で立ち止まると、僕らに向き直った。


「二人とも、ここまで来てくれてありがとう。無茶な申し出だった事は心得ているつもりだ。それこそ人生を左右するような。だが、研究所の中では不自由な生活をさせるつもりはない。そこは安心してほしい」


その顔は真剣だった。

僕もきちんと答えないといけないかな。


「いえ、僕には今まで育ててもらった恩がありますし、こんなの引越しだと思えばなんてことないですよ。ちょっと引越し先が特殊なだけで」


少し冗談めかして言う。


「私だって全然問題ないよ。そりゃあ少し驚いたけど、それだけ。特別仲のいい友達なんてセツナくらいだしね」


理科もそう答えた。


「そうか。私もそう言ってもらえると気が楽だよ」


そう言って西河さんは微笑んだ。


「さて、疲れているだろうがセツナ君にはこれから様々な検査を受けてもらう。検査が終われば約束通り君をこの研究所に連れてきた理由を話そう」


そっか、理由を教えてもらえるならなんの問題ない。


「理科も念のため検査を受けてもらう。いいかい?」


理科は頷く。


「検査はこの部屋で行う。入ってくれ」

そう言って西河さんは部屋に入っていった。





部屋に入ると白衣を来た一人の男性が話しかけてきた。

「はじめまして。あなた方の検査を担当します、冨樫(とがし) 好義(よしあき)です。よろしくお願いします」


相手が手を差し出してくる。


「こちらこそ、お願いします」


その手を握り返す。

部屋は廊下と同じく清潔そうな白いしていて、部屋の真ん中辺りには灰色のパネルが四枚、中心に向けて置いてあった。


「真ん中の印の上にたってください」


冨樫さんに言われて四枚のパネルに囲まれた所にある赤い二重丸の上に立った。


「次はこれを頭に着けてください」


と言って冨樫さんは突起のついた白いボウルの様な機械を取り出した。

言われた通りその機械を頭にかぶると意外と重たかった。


「セツナ君はそこに立っていてくれ」


そう言うと西河さんや冨樫さんは理科や木村さん達と部屋を出ていってしまった。

一人で部屋で待っていると、頭上のスピーカーから


「これより検査を開始します。印の上から動かないでください」


と冨樫さんの声がした。

……ゥウンと音がして頭の機械が起動する。

特に変な感じはしないけれど、脳波でも測っているのだろうか。

しばらくすると4枚のパネルが動き始めた。僕から少し離れて止まり、また少し離れて止まり。かと思うと今度は少し近づき、また離れる。不思議な動きだなと思いながら数分待っていると、


「ありがとうございました。検査は終了です」


と冨樫さんの声。

西河さんが部屋に入ってくる。


「二人で話そう。君の人生を変えるであろう話だ」


手に持っていた装置を冨樫さんに渡し、エレベーターで上に上がる。一階に来ると西河さんは辺りを見回し、「あそこでいいか」と噴水の端に腰掛けた。僕もその隣に座る。

背中からザーザーと噴水の音が聞こえる。


「……検査結果を言おう。君をこの研究所に連れてきた理由だ」


西河さんが話し始める。

ついに理由が聞けるのか。どんな理由だろう。


「あらかじめ調べていたので分かっていた事だが、今の検査で確認した。君は……」


少し間をおいて西河さんは言った。




「君は、超能力者だ」




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