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ピンポーン。ピンポン、ピンポーン____

何度も、何度も押される呼び鈴は、的確に自律神経を刺激してくる。

それにしてもうるさい。

いい加減警察でも呼んでやろうか。

そんな事を思いながら、枕元のスマホに手を伸ばした。

ブルーライトの眩しさに瞳孔が縮まる。


...これはダメだ。

私は急いでカレンダーを1枚剥がす。

その間にもドアのノックは止まらない。

ペリペリと線分の接合部を離すと、丸めて押し入れへと放り込んだ。

そして、ドアを開けた。




「陽菜、心配したのよ?」

おっとりとした口調で話す母。

しかしその口調とは裏腹に頬はこけ、指先は乾燥しているように見える。

それとも、やつれて見えるのは私が成長したからだろうか。

「ごめん、ごめん、まだ寝てて。」

嘘は吐いてない。

だが、時計は本日2周目に入っていた。

「全く...夏休みだからって夜更かしばっかしてるんじゃないよ。」

「はぁーい」

「それで、今日は何か用でもあったの?」

「いや?特にこれといった用は無いけどね、たまたま近く寄ったから元気かな?って思って。だけど、いくらメッセージ送っても既読が付かなきゃ返信も来ないもんだから不安になっちゃって。」

「もっと前から言ってくれたら色々用意したのに...」

母は昔からどうしようも無く心配性で優しい。

それをウザく感じる事もあれば、ありがたみを感じる事もあった。

今は前者だ。


「でさ、どこに行ってたの?」


口に出した瞬間、しくじったと思った。


机の向こうの母の顔に影が落ちたからだ。


「...夏帆のお見舞い、行ってきたのよ。」

まるで独り言を呟くかのように喋る母は、酷く憔悴しているようでいたたまれない。

「あぁ...うん。」

「お姉ちゃん、やっぱり中々良くならないのよ。でもね?先生が...先生が、もう1回、やれば...やれば治るんじゃないかって。」

最後だけ母の声が上ずる。

会話しながらいじる指先に、白い皮膚が混じっているのを、私は直視できなかった。


「でも...それってお姉ちゃんをもう一度殺すって事だよね?」

母の目がよろめく。

「まあ...そうなるわね...。でも、どっちみち夏帆をあのままにしておく訳にも行かないわよ...」

「うん...」

言葉にならない。

だけど、私は知ってしまったんだ。

「お母さん!落ち着いて聞いて欲しいんだけど...」

口が乾く。息が詰まる。

「なによ、そんなかしこまっちゃって。」


「あ、あの、えっと...」


自分の息遣いが、はっきりと感じられる。

押し入れからカサッと軽い音が鳴った。

思わず背中が跳ねてしまった。


「陽菜?」


心配そうな視線が痛い。





私には、母まで失う勇気が無かった。

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