プレゼント
「万年筆?」
「うん、このメモ。インクの感じが万年筆のそれなんだよね。だから、誰かいないかなって。」
高校生の頃、お姉ちゃんから誕生日プレゼントとしてもらった万年筆。正確に言えば両親との合同で。
だけど、それでも選んでくれたのはお姉ちゃんだった。
それ以来、私はボールペンではなく万年筆を使っている。
だから、分かる。
「万年筆かぁ。見たことないかも。」
「俺も皆の文房具とか気にした事ないから分からないわ。
しんさんなら色々知ってるんじゃない?」
またしんさん。
やっぱり避けては通れないみたいだ。
「たしかに。ありがとう、聞いてみるよ」
そう言ってその場を後にした。
しんさんは、資材置き場の前でノートパソコンを開いていた。
「しんさん、ちょっといいですか?」
「おお、陽菜ちゃん。どうかな、ここは。気に入ってくれたかい?」
「はい、おかげさまで。ありがとうございます。」
「良かった良かった。もしダメだったらどうしようかと思ったよ。」
くしゃっとした笑顔。目は笑っていない。
「それで、何か用かな?」
「はい、いや大した事じゃないんですけど。この会に万年筆使ってる人って居ます?」
「万年筆?それまたどうして」
「いや、私普段から万年筆使ってて。思い入れがあるんです。だから、もし万年筆使ってる人いたら仲良くなれるかな〜なんて」
我ながら苦しいと思う。
この万年筆をこんな風に使いたくなかった。
「そっかそっか。それは積極的で素晴らしいね陽菜ちゃん。だけど、残念ながら万年筆使ってる人は居ないと思うなあ。僕が知らないだけかもだけど、少なくとも見た事はないよ。」
「そうですか、それは残念です。わざわざすみません、ありがとうございます。」
嘘がバレただろうか。
それともただの本心か。
どちらにしろ、こんなにも掴みどころの無い人は初めてだ。
「いやいや、このくらい大丈夫だよ。
また分からないことあったら何でも聞いてね?」
しんさんは、そう言うと一定の無機質なリズムでキーボードを叩き始めた。
言葉とは裏腹に、私とこれ以上話したくないらしい。
会話は、そこで終わった。
「ありがとうございました。次もよろしくお願いします。」
「うん、次も来てね〜。待ってるから。」
挨拶もそこそこに、地上へ。
結局、何も分からなかった。
蘇遺会とは名ばかりで、実態はただの傷の舐めあい。
少なくとも私にはそう見えた。
別に悪いことじゃない。あれで楽になれるなら別にいいと思う。
でも、私はそうじゃない。
どれだけ馴れ合っても、優しさに触れても、この溝はきっと埋まらない。そのはずだ。
ただ、特に辞める理由も無い。
せっかく入ったのだし、別に2週間に1回くらいなら行っても良いのかな。
街灯に照らされた夜道は、まだ熱かった。
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