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第4話 勇者として歓迎される魔王、完全に逃げ場を失う

王都中央広場。

 俺とリムが転移した場所は、よりによって王国最大の人混みスポットだった。


「勇者アレクだ! 勇者様が戻ってきたぞ!」


「奇跡だ……本当に生きていたんだ……!」


 あっという間に人間たちが集まり、悲鳴に近い声で歓喜し、握手を求め、祈り始める者までいる。


「やばいやばいやばい……! 俺、魔王なんだけど!?」


「外見は完全に勇者様のままだからね。そりゃ人間たちは勘違いするよ」


「だからってこれは集まりすぎだろ!」


 リムは俺の肩に隠れるように立ちながら周囲を観察している。

 完全に観光気分か、こいつ。


 そんな俺たちの前に、騎士団の大柄な男が進み出た。

 銀色の鎧、鋭い目、肩章には“団長”の文字。

 ……よりによってトップが来るなよ。


「勇者アレク殿!」


「ひゃっ!? は、はい!?」


 なぜか敬語を使ってしまった。


「我らはずっと、生存の可能性を信じておりました! 本当に……戻ってくれたのだな……!」


 団長は感極まったように拳を震わせている。

 俺、何もしてないのに重すぎる歓迎だ。


「え、えっと……その……」


 何か言おうとした瞬間。


「勇者アレク様、お帰りなさいませ!」


「お慕いしておりました!!」


「アレク様! 勇者万歳!」


 民衆が四方八方から押し寄せ、ひっくり返されそうになる。


「リム、助けて!!」


「うん、わかった。……魔王さま、耳を貸して」


 リムは小声で言った。


「今のあなた、“勇者としての帰還”はこの国にとって最高のニュース。でも、あなたが魔王だと知れた瞬間、王都は戦争になる」


「つまり、この状況、絶対バレたら終わりってこと!?」


「そういうこと。だから“勇者アレクとしてのロールプレイ”をお願いします」


「ロールプレイって軽く言うな!」


 そんなやり取りのなか、団長がさらに前に出た。


「勇者殿、魔王討伐の続報をぜひ伺いたいのです!」


 ひいぃぃぃぃぃぃ!


 最悪の質問が来た。


 俺は魔王を倒さず、むしろ転生で魔王本人になってるんだぞ!?


 答えようとした瞬間、リムがスッと一歩前に出て微笑んだ。


「勇者アレク様は……記憶を失っておられます」


「は?」


「は?」


 俺と団長の声が重なる。


 リムは頬に手を当てて、プロの女優みたいな完璧な芝居を始めた。


「魔王との死闘の末、アレク様はひどい衝撃を受けたのです。

記憶の多くが霧のように……まるで“白紙”のように……」


 民衆:「なんと……!」


 団長:「そんな……勇者殿が……!」


 俺:「いやいやいやいや」


 リムは俺の肘を軽くつねりながら小声で囁いた。


「これしかないよ。あなたが魔王だなんて言えないんだから。記憶喪失は便利なんだよ」


 便利って言うな。


 団長は深く頷き、拳を胸に当てた。


「……勇者殿! ならば我々が、あなたの帰還を全力で支えよう。

 兵士総動員で護衛を付け、王城へご案内します!」


「ちょっ、護衛とかいらな……!」


「勇者アレク殿! 王様もずっとあなたの無事を信じておられたのです!

 今すぐにでも、王城へ!」


 周囲から大歓声。


「ゆうしゃさまーー!」


「アレクさまーー!」


「アレク様の復活だーーー!」


 逃げる隙間、ゼロ。


 リムは俺の袖を引っ張って小さく言う。


「魔王さま、観念したほうがいいよ」


「俺、王城に行ったら絶対バレるだろ!」


「大丈夫。人間たちは“勇者アレクを信じたい”気持ちが強いから、

 多少おかしくても全部“記憶喪失だから”で片付くよ」


 恐ろしいほどの説得力だった。


 団長は手を差し出す。


「勇者アレク殿、どうか……王城へ」


「…………行きます」


 もうどうにもならなかった。


***


 王城へ向かう馬車の中。

 俺は頭を抱え、隣のリムは落ち着き払って窓の外を見ている。


「……なぁ、リム」


「はい?」


「俺、魔王なのに勇者として王城に行くとか……普通死刑じゃない?」


「普通はね。でも魔王さまだから大丈夫」


「その理由が一番怖いんだけど!」


 溜息を吐いた俺に、リムは柔らかく笑った。


「安心して。魔王さまが“勇者としてどう振る舞うか”は……私が全部サポートするから」


 その瞬間、馬車が王城前に停まった。


 そして聞こえてくる、どよめくような人々の声。


「勇者アレク様のお帰りだ!」


「国王陛下がお待ちだ!」


 逃げ場は……完全に、どこにもなかった。

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