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「風の覚悟 女神を取り戻す誓い」

光が揺れる。


白と黒の線で満たされた“静寂の層”に、ユウトの風の気配だけが色を与えていた。


その中心で――

輪郭の欠けた女神リュミエルが、弱い光を放っている。


ユウトは彼女の前で膝をついた。


「リュミエル……」


女神の瞳は揺れた。

まるで触れれば壊れてしまいそうな“欠片の光”。


【……ユウトさん……ここに……来ては……いけませんでした】


声は震えていた。


“優しい女神”が必死に強がっている声だった。


ユウトは拳を握る。


「お前こそ、なんでこんな場所に一人でいたんだよ……」


リュミエルは目を伏せ、穏やかに微笑む。


【私は……“表の世界”に長くいられないのです

 欠けた私が世界に触れすぎると、線が乱れてしまう

 あなたがいる前では……隠していましたが】


本来明るくて、ちょっと天然で、グダグダなとこもある彼女が――

今は必死に自分を押し殺した微笑みをしている。


ユウトの胸が締め付けられる。


(なんだよ……それ……

 そんな状態で、俺を勇者に選んだのか……

 そんな状態で、俺を笑わせてくれたのかよ……)


リュミエルは静かに続けた。


【私は……ずっと欠けています

 力の大半は、世界の修復に使われ

 残った欠片だけが“リュミエル”としてあなたの前に現れていた】


「そんなの……!」


声が震える。


怒りでもなく、悲しみでもなく――

“気づけなかった悔しさ”が胸を焼いていた。


リュミエルは、崩れた輪郭の手をそっと胸に当てた。


【でも……それでも私は……嬉しかったのですよ

 ユウトさんが、この世界を歩いてくれることが】


「……」


【あなたの風は、この世界で最初に“私を見てくれた”風でした

 欠けていく私を……まだ女神として扱ってくれた……

 あなたが笑ってくれるたび……私は、少しだけ形を保てたのです】


ユウトはぎゅっと唇を噛む。


「俺……そんなつもりじゃ……」


【知っています

 あなたの優しさは……計算じゃないから】


リュミエルはかすかに笑ったあと、

少しだけ悲しそうな声を漏らす。


【だから……ユウトさん

 これ以上“私のために”戦わなくていいのです】


ユウト「……は?」


【あなたは勇者です。

 本当ならもっと自由で、もっとお気楽で……

 あなた自身のために旅をしてほしかった】


ユウトは立ち上がり、彼女を正面から見た。


「ふざけんなよ」


リュミエルの光がわずかに揺れる。


【ユウト……さん……?】


「俺は――勝手に勇者になったと思ってねぇよ」


ユウトは胸に手を当てる。


「最初にスキルミスって、

 最強じゃなくて“モンスターの心”なんて読める能力をもらった時……」


「お前が謝り倒してた顔、覚えてるか?」


リュミエルは、驚いたように目を見開く。


ユウトは鼻で笑った。


「あの時、思ったんだよ。

 ――このポンコツ女神、絶対悪い奴じゃねぇな、って」


【……ぽ、ポン……コ……?】


「今さら取り繕うなよ。

 俺は……俺が勇者になったのは、お前に頼まれたからだと思ってる」


リュミエルは言葉を失い、震える。


ユウトは一歩進む。


「だから、勝手に消えるんじゃねぇよ」


【……っ】


「“欠けたから仕方ない”なんて言うなよ」


ユウトの声は震えていたが、強かった。


「全部壊れても、世界に何が起きても、

 お前が欠けても……」


言葉が熱を帯びる。


「――俺が取り戻すって言ってんだ」


リュミエルの瞳に、ゆっくり光が宿る。


それは涙のように震えていた。


【……どうして……そこまで……

 あなたは……私のことを……?】


ユウトはゆっくり答えた。


「お前が俺を、この世界に呼んだからだよ」


静寂の層に、風が生まれた。


ユウトの風が、リュミエルの崩れた輪郭を包み込む。


「お前が呼んだんだ。

 だったら最後まで責任取れよ。

 女神が諦めてんじゃねぇよ」


リュミエルは胸に手を当て、震えながら言った。


【……ユウトさん……

 本当に……あなたは……】


「言っとくけど、

 俺は優しくもなければ、聖人でもねぇからな」


笑う。


でも、その目は真剣だった。


「ただ……仲間を失いたくねぇだけだ。

 俺は“お前の世界”を歩いてきたんだよ。

 お前が描いた線の上を。

 だから……お前まで消えたら許さねぇ」


リュミエルの崩れた輪郭が、光を放ち始める。


【……そんな風に……

 そんな言葉を……私なんかに言われたら……】


光が涙のように零れ落ちた。


【ユウトさん……私は、きっと……

 あなたに救われたかったんですね……ずっと】


ユウトは手を伸ばす。


風が、女神の欠片へ触れた。


すると——


白銀の空間の奥から、第四の影の声が響く。


【その覚悟を示すなら、風の勇者よ

 “女神を取り戻す試練”を与えよう】


ユウトは振り返り、睨む。


「上等だ。

 俺はここまで来て引き返す気はねぇよ」


第四の影は淡々と言った。


【だが覚えておけ

 女神を取り戻すということは、

 同時に“世界の線を書き換える”ということ】


ユウト「……?」


【つまり

 お前はこの世界の“再構築者”となる】


空間を満たす線が震える。


第四の影

【女神の力を引き継ぐ覚悟はあるか?

 お前が選べば、この世界の未来は……お前に委ねられる】


リュミエルが不安げにユウトを見上げた。


【ユウトさん……

 それは……あなたの人生を……奪ってしまうかもしれない……】


ユウトは小さく笑う。


「バカ言うな。

 俺はもうとっくに“人生二周目”だよ」


そして、真っすぐに答えた。


「選ぶさ。

 リュミエルを取り戻すほうを」


女神の瞳が大きく揺れ、光が溢れる。


【ユウト……さん……】


第四の影の声が静かに沈む。


【では——

 次の層へ進め。

 “女神の心臓”の欠片を取り戻せ】


風が爆ぜ、世界が裂けた。


光がユウトとリュミエルを包み込む。


ユウトは手を伸ばし、女神の手を掴むように言った。


「行こう、リュミエル。

 お前を取り戻す旅は、ここからだ」


光が走り、ユウトの風がうねった。


そして世界は——

新たな試練の層へと動き出す。

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