「女神リュミエルの真実ー世界が欠けた日」
――光が落ちる。
ユウトの視界は、一瞬で塗りつぶされた。
風の感覚も、声の気配も、仲間の存在も、すべてが遠のいていく。
(……リュミエル……?
なんで“来るな”って……)
意識が沈み、どこか柔らかい場所へ溶けていく。
次の瞬間——
音のない空間。
白と黒の線だけで構成された、世界の“裏打ちの部屋”。
その中央に——
少女の姿をした光が、壊れた彫像のように佇んでいた。
「……リュミエル……」
ユウトが歩み寄ると、光の輪郭がわずかに揺れた。
【……ユウト、さん……】
声が震えている。
以前の明るくて抜けた声ではない。
どこか、痛みを必死に隠している声だった。
ユウトは息を呑み、目を見開く。
(……本当に……欠けてる……)
リュミエルの身体は輪郭が“所々消えている”。
髪、腕、胸元……
まるで存在を削り取られたように、線が破断している。
以前ユウトが見たリュミエルの姿は、
明るくて、温かくて、少しドジな女神だった。
しかし今の彼女は“元の形を保てていない”。
ユウトは震える声で問う。
「……お前、どうして……」
リュミエルはかすかに微笑んだ。
【だいじょうぶ……
これでも、少しマシ……なんですよ……?
ユウトさんと……話せるくらいには……】
その笑顔が痛々しいほど、壊れた線で揺れる。
ユウトは拳を握る。
「誰が……リュミエルをこんな……!」
その瞬間——
空間に巨大な“線の波紋”が走った。
第四の影の声が響く。
【風の勇者よ
お前が知るべき“最初の事件”を見せよう】
白銀の床が砕け、記憶の断層が開く。
光が流れ出した。
そこに広がったのは——
美しい世界だった。
鮮やかな森。
澄んだ空。
人とモンスターが共存し、笑っていた。
そしてその中央で浮かぶ、完璧な光の女神——
【リュミエル】
今よりずっと強く、華やかで、神々しい存在。
ピリィの声も、レオンの雷も、ユウトの風も届かないほど遠い“昔”。
第四の影が語る。
【女神リュミエルはこの世界を創った
風も雷も火も水も生命も……
すべては“彼女の筆跡”だ】
ユウトは息を呑む。
完璧なリュミエルは、楽しげに世界へ線を描いていた。
【この世界は……
今日も良い風が吹きますように!】
筆を振るたび、大地が生まれる。
草が育ち、空が色づく。
ユウト「……すげぇ……これが……本当のリュミエル……」
だが——
その光景は急に歪み始める。
木々が揺れ、空が濁り、地面に“黒い点”が滲みはじめる。
【……リュミエル……?】
女神が描く線が震え、ペンのような光が手から落ちそうになっていた。
リュミエル(過去)
【……あ……れ……?
おかしい……線が……ずれて……】
第四の影の声が重なる。
【ここからが“世界が欠けた日”だ】
風が止まる。
世界が一度、完全に静止した。
そして——
――裂けた。
女神の胸の中心から、黒い“何か”が滲み出た。
ユウト「……っ!!?
影……だ!!」
第四の影は淡々と告げる。
【そう。
私——第四の影は、
“リュミエル自身の中から生まれた歪み”】
リュミエルの光が激しく揺れ、苦痛の声が響く。
リュミエル(過去)
【どうして……
どうして私の中に……“こんなもの”が……!?】
黒い影はリュミエルの身体を侵食し始める。
髪が欠ける。
腕が薄れる。
足が消え、胸元の線が砕ける。
世界全体が震え、
――空が崩れた。
大地の線が一斉に“白紙”へ戻ろうと歪む。
第四の影が続ける声は静かだが冷たい。
【リュミエルは世界を描く力を持っていた
同時に“消す力”も同じだけ抱えていた
私が生まれたのは必然だった】
ユウトは叫んだ。
「そんなわけあるか!!
リュミエルが……
世界を壊すために力を持ったわけじゃねぇ!!」
第四の影
【だが結果として
世界を壊したのはリュミエルだ】
ユウトの胸に痛みが走る。
記憶の中の女神は、崩れながらも必死に声を上げる。
リュミエル(過去)
【違う……嫌……嫌です……
私は……みんなを守りたいだけなのに……!
こんな……壊したくない……!!】
涙のように光がこぼれる。
でも黒い影は止まらない。
世界の輪郭が乱れ、
線が破断し続ける。
それを止めたのは——
ただ一つ。
【――浄化の儀式】
第四の影が説明する。
【リュミエルは自らを“分割”した
影を切り離すために
自分の力を幾つもの欠片にして世界へ散らした】
ユウトの目が見開かれる。
「……だから……
俺が出会ったリュミエルは……
本体じゃなくて……“欠片”だったのか……?」
第四の影
【その通り】
記憶の中で、
リュミエルは自分の胸に手を当て、光の欠片を取り出す。
リュミエル(過去)
【これで……世界は……続きます……
誰かが……いつか……私の代わりに……】
光は無数の粒となって散り——
その中心に残ったのは、
今目の前にいるような、“欠けた女神の輪郭”。
第四の影
【こうして、世界は生き延びた
だが同時に“完全な女神”はいなくなった】
ユウトの意識は現在へ戻る。
壊れた輪郭の女神が、切なげに微笑む。
【ユウトさん……
私は……この通り……不完全なままです】
ユウトは震える声で叫ぶ。
「そんなの……そんなのって――」
【……ごめんなさい】
その言葉は、
世界のどの謝罪よりも痛かった。
第四の影が呟く。
【女神の欠落は“世界の欠落”
そして……
その欠落を埋められるのは——
風の勇者、お前だけだ】
ユウト「……!」
風が激しく揺れた。
リュミエルの欠片が震える。
【ユウトさん……
もう……巻き込みたくなかった……
でも……あなたの風だけが……
“私を取り戻せる”】
ユウトの胸に強烈な痛みと怒りが込み上げる。
(リュミエル……
お前……全部一人で抱え込んで……
そんなの……許せるわけねぇだろ……!)
ユウトは手を伸ばした。
「リュミエル——
お前を必ず取り戻す!!」
女神の輪郭がわずかに震える。
【ユウト……さん……】
その声は、
今にも消えそうな光のかすれだった。




