「旅立ち」
翌朝・村の広場
まぶしい朝の光の中、ユウトは荷物をまとめて村長宅の前に出てきた。
昨日のドタバタ風呂事件のおかげで、身体は軽いのに精神が妙に疲れる。
だが――今日からはまた第四の影の根へ向けての旅が始まる。
「……よし、出発準備は万端だな」
ユウトが伸びをすると、
『ユウトぉぉぉ……!』
ピリィが泣きそうな声で飛んできた。
『朝から村の娘たちがユウトのところに群がってるのですぅ!!
完全にあたしのライバルですぅ!!』
「いやライバルってなんだよ……」
と思いつつ周囲を見れば、確かに村娘たちが数人こちらを“ひそひそ”しながら見ている。
「昨日の勇者様、かっこよかったね……」
「風で髪乾かしてくれたの優しかった……」
「雷の勇者様も素敵だったけど……やっぱり風のほうが……」
ピリィの頬がぷくーっと膨らむ。
『ゆ、ゆ、ユウトはあたしの救世主で仲間で……
ええと、ええと……守護対象なんですぅ!!』
「肩書きが毎回違うな……」
怒り(?)と焦りを詰め込んだピリィは、決意の表情で村娘たちへ飛び込んでいった。
ゴルド「……なんか始まったな」
レオン「ユウト、お前のせいだ」
ユウト「なんでだよ!?」
そのころ、村の隅では――
ピリィと村娘たちが丸くなって座り、“女子会”がスタートしていた。
「ピリィちゃんって言うのね。かわいい……」
「ユウト様たちと旅してるなんて羨ましい!」
「どんな毎日なの?」
『あ、あ、あのですね……!
ユウトは、すっごーーーく優しくて、頼りになって、
しかもあたしのことを呼ぶときの声がですね――』
目がきらきらし始める。
村娘A「へぇぇ~……じゃあユウト様って、ピリィちゃんのこと好きなの?」
『す、す、す……』
村娘たちが期待の目を向ける。
ピリィは、真っ赤になって羽をばたつかせる。
『す――
好きですけど!?』
村娘B「告白した!!?」
『違いますぅぅぅぅ!! 仲間として!!
仲間として!!
大事で大事で……でも他の娘が近づくとムカムカして……』
村娘たちは顔を見合わせて微笑む。
「それって完全に嫉妬だよね」
『じっっっ……!?』
「可愛いね、ピリィちゃん」
『ち、ちが……う……ですぅ……』
村娘A「安心して。私たち、ユウト様を取ろうなんて思ってないよ?」
ピリィ『ほ、本当ですぅ……?』
村娘B「うん。だって――」
村娘たちは同時に言った。
「あなたみたいな子がそばにいるなら、
ユウト様はきっと幸せだもん」
ピリィの目が丸くなる。
『あ……』
ふわりと風が吹いて、ピリィの羽が揺れた。
村娘C「だから、ちゃんと守ってあげてね。
あの勇者様たちは、きっとこれからもっと危ないところに行くんでしょ?」
ピリィは胸に手を当て、ぎゅっと握る。
『……はい。
ユウトは、あたしが絶対に支えるです。
風の勇者ですから!!』
村娘たちは嬉しそうに笑い――女子会は和やかに終わった。
村長宅前
ユウト「ピリィ、大丈夫だったのか?」
ピリィは胸を張った。
『村娘たちは敵じゃないですぅ!
みんな、良い子でした!!』
レオン「お前が勝手に敵視してただけだろ……」
ゴルド『平和に終わってよかったじゃねぇか!』
ユウトは笑みを浮かべる。
「ピリィ、仲良くできたなら良かったよな」
その瞬間――ピリィはまた真っ赤になった。
『……ユウトは、いじわるですぅ……
そんな優しい声で言わないでほしいですぅ……』
ユウト「え、そんなつもりでは……」
レオン「また始まったぞ」
ピリィは羽をばたばたさせながら、胸を張って宣言する。
『ユウトは……あたしが守るです!!
ぜったいに!!』
ユウトは思わず苦笑し、
「また頼りにしてるよ、ピリィ」
と言った。
ピリィは爆発した。
『~~~~~~~ッ!!?
ユウトのバカぁぁぁぁぁぁ!!
優しくしないでほしいですぅぅぅ!!』
村娘たち(遠くから見て)
「がんばれピリィちゃん……!」
「恋は戦いよ……!」
「可愛すぎて応援しかできない……!」
旅立ちの時。
村長が深く頭を下げた。
「勇者様方……どうかお元気で!
いつでもまた、この村へ戻ってきてください!」
ユウト「ありがとう。
また来れる日があれば、必ず寄らせてもらいます」
レオン「次は静かな風呂を頼む」
ゴルド『あれはあれで楽しかったぞ!』
ピリィは村娘たちに手を振る。
『また来るですぅ!!
ユウトと一緒に!!』
ユウト「そこは言わなくていいぞ」
村娘たち「頑張ってねぇぇ!!」
風が吹く。
蒼風が、ユウトたちの背中を押す。
第四の影との戦いは終わっていない。
次は“境界の外”――見えない領域での闘いが再び動き出す。
だがその前に。
(……みんなが笑ってる世界を、守りたい)
ユウトの胸の風は、確かにそう語っていた。
「行くぞ、みんな!」
『おー!!』
こうして――
村での休息とコメディは終わり、
ユウトたちは再び旅路へと戻っていった。




