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「蒼風と雷光、ほっと一息」

ブランクライン城が崩壊し、第四の影本体も退いた。


世界はまだ揺らいでいるものの――

今だけは、“ほんの少しだけ風が落ち着いた時間”があった。


そしてユウトたちが辿り着いたのは、城のふもとに広がる小さな村だった。



風が穏やかに吹く。

草木は白銀化の後遺症で色が薄い部分もあるが、村にはどこか温かい空気が残っていた。


「……生き返る~~~……」


ピリィがぽよんと地面に寝転がり、草の上で体を広げていた。

ふわふわした丸い体が、風で転がりそうになっている。


『ユウト~……休むですぅ……もう動けないですぅ……』


「丸いと転がってくの危ねぇだろ、お前……」


レオンが苦笑しながら拾い上げ、ピリィを抱える。


「お前、休むと言いながら風で飛ばされる気満々だろ」


『レオン……やさしいです……』


「お前は軽すぎるんだよ」


ほんのり照れくさそうにしながらも、レオンの表情は柔らかかった。


ユウトはその様子を横目で見て、ふっと笑う。


(……いいな。こういうの)


戦いばかりだった。

影との圧倒的な対峙、精神断層、核層――休む暇もなかった。


けれどこうして村の空気を吸うだけで、胸の中にあった重さが抜けていく。



村長の家は、桜のような薄桃色の屋根をした家だった。


「いやぁ、勇者様たち……助かりましたよお!」


と、にこにこ笑う温厚な老人が出迎えてくれる。


「いや、助かったってほど何もしてないけど……」


ユウトが言うと、村長は首を振った。


「第四の影の震動で畑や井戸が揺れましてな。それがピタッと止んだんですわ。

……勇者様の戦いの余波だったんでしょう?」


レオンが答える。


「俺たちが倒しきれてはいない。だが、一時的に収まっただけでも意味はある」


「はぁ~~~雷の勇者様まで……!

こんな小さな村にお二人が来てくださるとは……!!」


村長は感動で鼻をすすりながら、玄関を指さした。


「まずは、腹ごしらえしましょう。

うちの嫁が、久しぶりの来客だからと腕によりをかけてますわ!」


ピリィが一気に復活する。


『ご飯です!?』


ゴルドも分厚い腕を組んでにやり。


『待ってましたァァ!!!』


ユウトとレオンは顔を見合わせて笑った。


「……行くか」


「ああ」



村長宅・食卓


テーブルの上には、湯気の立つ料理が所狭しと並べられていた。


・風味草と白魚のスープ

・蒸し芋と香草焼きの皿

・もっちりした丸パン

・採れたてのホロ根野菜のサラダ

・そして巨大な肉のロースト


ピリィは跳ねる。


『なにこれ! 天国!!』


ゴルドは一瞬で肉に手を伸ばす。


『うおおおおお!!! この肉、やわらけぇぇぇ!!!』


村長の奥方が嬉しそうに笑う。


「よく食べる御方は見てるだけで幸せになりますわぁ」


レオンも、久しぶりに戦闘以外の顔になっていた。


「……うまい。

久しく、こんな“普通の飯”を食べてなかったな」


ユウトはスープをすすると、身体の奥まで温かくなっていく。


(ああ……こういうのだよな。こういう世界を守りたいって思ったんだよな、俺)


と、不意に胸の奥がじんわりした。


すると、奥さんが声をかける。


「おやおや勇者様……泣いとられますか?」


「え!? あ、いや、こんだけうまいと感動で……!」


レオンが吹き出す。


「お前……」


「言うなレオン。これは風のせいだ。風が目に入ったんだ」


「はいはい」



食後


食事を終えたあとは、村の子どもたちが集まってきた。


「ねぇねぇ勇者さま!」

「どうやって影を倒すの?」

「雷の剣見せてー!」


レオンは少し照れながらも、子ども達の前で小さな雷を弾いて見せる。


「おおおお!!」

「すげー!!」

「かっこいー!!」


レオンは、ユウトの方をちらりと見る。


(……お前ら、俺じゃなくて風の勇者に行けよ)


という顔だ。


しかし子どもたちは、次はユウトへ。


「風の勇者さま!!」

「風で飛べるの!?」

「さっきの蒼い風すごかった!!」


ユウトは照れながら、そよそよと優しい風を子供の髪に当てた。


「おお~~~~!!」

「風がしゃべってるみたい!!」

「すごい……!!」


「しゃべってはないぞ? ただの風だぞ?」


「え~? 勇者さまの風は特別なんでしょ?」


ユウトは一瞬だけ目を細め、風の音を聞いた。


(……“ありがとう”って言ってる気がするな)


本気でそう思ってしまう自分がいた。



夕方 村外れの坂道


夕焼けに染まる村を見下ろしながら、ユウトとレオンは並んで座っていた。


レオンがぼそっと言う。


「……悪くないな、こういう時間も」


ユウトは笑う。


「レオンがそれ言うとさ、なんか嬉しいな」


「なんでだ」


「お前、精神世界の時ずっとハードモードだったからな」


レオンは苦笑して、軽く肘でユウトを小突いた。


「お前だって十分ハードだっただろ。

……でも乗り越えた。だから今がある」


ユウトは夕日に目を細めた。


「また戦うことになるけど……こういう時間があるなら頑張れるよな」


「――ああ。俺たちならな」


背後からピリィが転がってくる。


『ユウト~!! レオン~!! 村の人がデザートくれたですぅ!!』


ゴルドが皿を持って叫ぶ。


『甘いもんだぞぉ!! 食うぞ!!』


ユウトとレオンは思わず顔を見合わせる。


「行くか」


「ああ。腹が減っては戦はできん」


ユウトは立ち上がり、夕風を背に微笑む。


(守りたいものが、確かにここにある)


その思いが、風を温かくした。



その夜、村には風と笑い声がやさしく流れた。


第四の影が潜む闇の向こうには、まだ続く戦いが待っている。


だが今だけは――


ユウトは胸を張って言える。


「こういうひとときのためなら、いくらでも戦ってやるよ」


蒼風が、やさしく吹いた。



     夜の村・村長宅の裏庭 


夕食後、村長がニコニコと嬉しそうに言った。


「勇者様方、よろしければ……村の自慢の“薬草風呂”に入られませんか?」


ピリィ 『ふ、ふ、ふろ……!?

     ユウトが……ふろ……!?』


レオン 「おい。お前、なんで震えてる」


ピリィはふらふらとユウトを見上げ、震える声で言った。


『だ、だってユウトが……ふろ……ですよ!?

 これはもう事件です!!』


ユウト「風呂は事件じゃねぇよ」


しかしピリィはすでに“あのモード”に入っていた。


――大暴走モード。



村の風呂は“露天式”


村の大浴場は、薬草を煮出した湯が木の桶に満ちている素朴な露天風呂。


夜空の星と湯気が混ざりあい、なかなか良い雰囲気だ。


村長「どうぞごゆっくり!

   ああ、お若い方は肌ツヤもよくなりますぞ!」


ピリィ (ブルブルブル)

『ユウトの肌ツヤ……!?(想像中)』


レオン「おい、やめろ。変な想像してるだろ」


ゴルド『ピリィ、鼻血出てんぞ!!』


ピリィ『はうぅぅ……!!』


ユウト「おいちょっと待て!?

    俺は普通に風呂入りたいだけなんだけど!!」



ユウト、風呂へ――


ユウトはタオルだけを持って風呂場へ向かう。


するとレオンがついてきた。


ユウト「レオンも入るのか?」


レオン「ああ。お前を一人で行かせたら確実にトラブルだ」


ユウト「俺だけのせいみたいに言うな!?」


レオンはため息をつく。


「……じゃあ予想してやる。

 “ピリィが突撃してくるに100ゴルドだ”」


ユウト「……当たりそうで怖い」



湯気もくもく・露天風呂


湯船に入ると、ユウトは息を吐いた。


「っは~~~……生き返る……」


蒼風の勇者として覚醒しようが、

風呂で出る声は普通の男子高校生である。


レオンも隣で肩まで浸かる。


レオン「……悪くないな。薬草の香りがいい」


ユウト「レオンって風呂似合うよな」


レオン「褒め言葉として受け取っておく」


しばし平和な時間が流れ――


(――ザザッ)


草むらが揺れた。


ユウト&レオン「……?」


次の瞬間。



ピリィ、乱入。


『ユウトの裸体ぃぃぃ!!!!!

 見に来たですぅぅぅぅうう!!!』


バサァァァァァッ!!


木の塀をぶち破って、まんまるピリィが突撃してきた。


ユウト「ちょっっっ!!? 来んなぁぁ!!」


レオン「来ると思ったァァァ!!」


ピリィ『ユウトぉ!!

    あったかい湯に入ってとろけた顔するやつ見せろですぅ!!』


ユウト「見せねぇよそんなもん!!」



レオン、災難開始


風呂に暴走突撃してきたピリィは、慣性の法則により――


ボフッ!!


そのままレオンの顔へ直撃した。


レオン「ぐぼぉっ!!?」


ピリィ『あ、レオンの顔柔らかいですぅ♪』


レオン「離れろォォォ!!」


バシャァァン!!!


レオンはそのまま後ろ向きに倒れ、湯船に沈む。


ユウト「おい! レオン!!」


泡がぶくぶく浮いてくる。


ピリィ『レオン死んじゃうですぅ!! 人工呼吸するですぅ!!』


ユウト「やめろおおお!!」


レオン(水中から)「やめろと言ってるだろォォ!!!」



ゴルド、乱入(事情を理解していない)


ゴルド『風呂だァァ!!!

    筋肉をほぐす時間だァ!!!』


ドガァァァン!!


裸で突撃してきた。


ユウト「お前も来るんかい!!」


レオン(ずぶ濡れ)「ゴルド……服は!?」


ゴルド『必要ねぇ!!

    風呂は裸が礼儀だ!!』


レオン「最低限の羞恥を覚えろ!!」


ピリィ『ユウトの裸~~~~!!

    ゴルドの筋肉~~~~!!

    風呂最高~~~~!!』


ユウト「お前だけテンションが別ゲーなんだよ!!」



事件は終わらない


結局――


レオンは三回おぼれ、

ゴルドは桶を破壊し、

ユウトはピリィに背中を全力で洗われ(※痛い)、

村長宅の塀は崩れ、

奥さんは大笑い。


そしてピリィはというと――


ピリィ『ふぅ……いい夜だったですぅ……

    ユウトの風呂、尊かったですぅ……』


ユウト「尊るものは何もないぞ」


レオン「(こいつ本当に手に負えない……)」


ゴルド『筋肉が限界を超えたッ!!』


ユウト「どういう意味だ」



その夜・村長宅


ユウトは布団に潜りながら呟く。


「……もう絶対一人で風呂入らねぇ」


レオン「正解だ。お前は危険物扱いだ」


ピリィ『ユウトと風呂……また行くですぅ……ぐふふふ』


ユウト「寝ろ!!」


こうして――

第四の影との激闘を越えた夜は、

全力のギャグと大混乱に包まれて過ぎていった。


だがこの騒がしい時間が、

次の戦いに向かう“勇者たちの本当の休息”だった。


蒼風は静かに、愉快に吹いた。

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