「蒼風と雷光:第四の影・本体戦開戦
蒼い風が、世界を震わせた。
風の核層から戻ったユウトは、以前の自分とはまるで違っていた。
その姿を見たレオンは息をのむ。
「……これが、お前の“風”か」
ユウトの背で渦巻く蒼風は、光でも炎でも雷でもない。
しかし、空間そのものを震わせるほどの“圧”を放っていた。
怒りも、恐怖も、喪失も、願いも――
すべてを抱えて、それでも前を向く風。
第四の影が静かに揺れる。
【……変わったな、風の勇者
自我を三層越え、核層すら統合し、“線の外”へ踏み込んだ】
「そういう難しい言い方やめろっての。
わかりにくいんだよ」
【だが理解する必要はない。
ただ――この世界を“救う”と言うならば】
闇が、形を変えた。
白銀の線が走り、空間がゆっくりとめくれあがる。
巨大な幕を捲るように、世界の底が露わになっていく。
【証明してみせろ
その風が、本当に“世界を書き換える力”を持つのかどうか】
地面が白銀の粒子となって崩れ、
そこから――巨大な“線の塊”が姿をあらわした。
それは、何かの形をしているようで、していない。
人のようでもあり、竜のようでもあり、都市の影のようでもある。
どの角度から見ても、輪郭が安定しない。
ただ一つだけはっきりしている。
――そこに“世界を書き換える核”が存在するということ。
ユウトは息を吐く。
「これが……第四の影の本体か」
【名乗る必要はない。
私はただ、“壊れた世界の線”を元に戻す存在】
レオンが眉をひそめる。
「戻す? 破壊してるようにしか見えないが」
【“線を消す”ことも、戻すことの一つ
世界が間違って描かれたなら、白紙に戻すのが正しい】
「……ふざけるな」
ユウトの足元に風が集まり、蒼い光を宿す。
「間違っていようが、不格好でも、ぐちゃぐちゃでも――
世界に生きる俺たちが“選んで生きてる線”を、勝手に消すな!」
影が揺れ、空間が歪む。
【選んでいるつもりか?
線はただ描かれるだけ。
お前たちはただの“結果物”】
ユウトは笑った。
「いいじゃん、それで。
“結果物”があがいて何が悪い!」
レオンが隣で剣を構える。
「第四の影。
世界は白紙じゃない。間違いながら描くものだ」
ピリィが胸を張る。
『ピリィはユウトと描きたいです!!』
ゴルドが拳を鳴らす。
『白紙なんて筋肉が許さねぇ!!』
風が四人の背を押す。
ユウトは剣を前に掲げた。
「――行くぞ!!
第四の影、本体戦、開幕だ!!」
影の巨大な腕が、空気のように広がる。
【――輪郭を刈り取れ】
腕は形を持たない。
ただの“線の刃”だ。
触れた瞬間、“存在の輪郭”が削ぎ落とされる。
「来るぞっ!!」
ユウトが風を纏い、足を強く踏み込む。
「蒼風壁!!」
蒼い風が半球状に広がり、衝撃を受け止める。
ギギギギギッ!!!
風の壁に白銀の刃が突き刺さり、世界そのものが軋むような音が炸裂した。
レオンが叫ぶ。
「ユウト、持つか!?」
「余裕! 前より風、ずっと強ぇからな!」
影の波は広範囲すぎる。
ユウトだけで押し返すのは無理だ。
レオンが前へ踏み込み、剣を掲げた。
「雷断線!!!」
雷が走り、影の腕を斬り裂く。
線が切断され、空間へ霧散。
影がわずかに揺らぐ。
【……雷の勇者。
その境界、“覚悟”で研ぎ澄ませたか】
レオンは剣を構え直し、静かに言う。
「境界なんて関係ない。
俺は――ユウトの隣で戦うために剣を振るうだけだ」
ユウトの胸が熱くなる。
「……レオン、お前……ほんとカッコよくなったよな」
「誰のせいだと思ってる」
風と雷が、肩を並べた。
影の下部から、黒い穴が広がる。
重力ではない。
“輪郭の圧力”だ。
そこへ触れたものは、形を保てなくなる。
ピリィが叫ぶ。
『ユウト!! あれヤバいやつですぅ!!』
「わかってる!!」
ユウトは風を蹴り出し、飛ぶ。
だが、重力のような圧が身体を押しつぶそうと迫る。
(重い……!)
風が潰される。
(でも――!)
ユウトは拳に風を凝縮し、真下へ叩きつけた。
「蒼突風!!」
風が逆流し、押しつぶされる力を破り、影の核へ向けて突き進む。
だが――
【甘い】
影の本体から、別の腕が伸びた。
――ガッ!!
ユウトの身体が弾き飛ばされる。
「うおっ!?」
背中が空間に叩きつけられ、白銀の粒子が飛び散る。
レオンが叫ぶ。
「ユウト!!」
ユウトは歯を食いしばり、起き上がる。
「大丈夫だって! 風が……俺を守ってる!」
彼の身体を蒼風が包み、傷を最小限に抑えていた。
影が興味深げにユウトを見下ろす。
【……なるほど
その風はもう“自我”を越えている】
「当たり前だ。
俺の風は仲間が支えてくれた風だ」
レオン、ピリィ、ゴルド。
そして――リュミエル。
ユウトを勇者にしたすべての声が、ユウトの風を強くする。
第四の影が大きく揺れる。
【では――試そう
世界の中で最も強い“線の圧力”を】
ブランクライン城の床がめくれあがり、白銀の空が落ちてくる。
視界全てを覆う破壊の波が迫る。
レオンが叫ぶ。
「避けろユウト!!」
しかし――ユウトは動かなかった。
動けなかったのではない。
動く必要がなかった。
ユウトは静かに息を吸った。
「レオン、ピリィ、ゴルド。
――少し、下がっててくれ」
蒼風がユウトの背で、ゆっくりと形を変え始める。
風の翼。
羽ばたくたびに、空間の線が揺れる。
影がわずかに震えた。
【まさか――
“風を世界に上書きする気か”】
ユウトは口角を上げた。
「そうだよ。
俺は、勇者だからな」
蒼風が膨れ上がる。
核層で手に入れた“風の真核”。
怒りも恐怖も願いも優しさも――
全部まとめて、“蒼い風”として解き放つ。
ユウトは剣を構えた。
「行くぜ――第四の影!!」
蒼い風が、世界そのものを震わせる。
「蒼風絶嵐――
《アジュール・テンペスト》!!!!」
蒼風が――世界を塗り替えた。
白銀の刃も、深圧の穴も、影の腕も、
すべてが風に飲まれ、輪郭を削がれ、空へ散る。
第四の影が真の声をあげた。
【――――ッ!!!】
巨大な身体が大きくのけ反り、
核が露出する。
レオンが雷を纏い叫ぶ。
「今だユウト!!!」
ユウトは風を纏い、地を蹴った。
蒼風の線が背で輝く。
「――この世界は、俺たちが描く!!
消させねぇよ!!!」
剣が影の核へ――届く。
だが、その瞬間。
影の核が奇妙に歪んだ。
まるで“笑った”かのように。
【……風の勇者
お前が核層で見たものが、全てだと思うな】
ユウトの動きが止まる。
影は低く囁く。
【お前の“始まりの記憶”には、まだ欠けているものがある】
ユウトの目が揺れる。
第四の影は世界を震わせながら告げた。
【――次の層で会おう
“リュミエルの真実”と共に】
白銀の亀裂が爆発し、城全体が崩壊を始める。
ユウトは咄嗟にレオンの手を掴む。
「逃げるぞ!!」
レオン、ピリィ、ゴルドが後に続く。
第四の影の本体は霧散しながらも、笑うように揺れた。
【風の勇者よ
次は――“境界の外”だ】




