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「怒れる風:もう一人のユウトとの対峙」

     断層世界 ―第二段階― 


世界は――風の無い嵐だった。


白銀と墨色の線だけで描かれた“風の断層世界”は静まり返っているのに、

肌を刺すような圧力が常に吹き荒れている。


ユウトの前に立つ“もう一人のユウト”は、

まるで別人のような鋭い眼光をしていた。


怒りを押し殺しているのではない。

怒りそのものを“力”としている表情だった。


影の声が薄く響いた。


【怒りは風を荒らし、風は怒りを増幅する。

 それもまた、お前の“可能性のひとつ”だ】


ユウトは拳を握りしめる。


「……お前、俺なのか?」


もう一人のユウトは鼻で笑った。


「そうだよ。俺は“お前が見ないふりをした感情”だ。

 怒ってる、悔しい、許せない。

 でも全部押し込めて、軽いふりして、風みたいに誤魔化してきた……

 そんなお前自身だよ」


ユウトはすぐには返せなかった。


図星だったからだ。


異世界へ来てから、どれほど“悔しさ”を飲み込んできたか。

自分が選ばれた理由に悩んだ夜。

救えなかった人たちの顔。

レオンに追いつけなかった焦り。

仲間を守れなかった自分への苛立ち。


――全部、風に流してしまったふりをしてきた。


怒りのユウトはゆっくり歩いて来た。


「俺は、お前の中でずっと叫んでたんだよ。

 “もっと強くなりたい”ってな」


「それは……俺もだ」


「違ぇよ!!」


怒れるユウトが拳を振り下ろす。


――ズガァン!!


地面が爆裂し、白銀の線が四散した。


ユウトは距離を取りつつ、肌に走る衝撃を噛み締めた。


(速い……! さっきの無貌のコピーとは比べものにならない!

 本物の俺の感情が力になってる……!)


怒れるユウトは拳を構えたまま言う。


「“強くなりたい”って願うだけじゃ足りねぇんだよ!

 俺たちは、誰かを守れなかった! 失った!

 それでも笑ってごまかしてきた!

 俺たちは怒ってるんだよ、ユウト!!」


強烈な風が吹き荒れた。


いや、これは怒りそのものが風へ変わった力。


「俺たちは……もっと怒ってよかったんだ!!

 もっと泣いて! もっと叫んで!

 その力で前に進むべきだったんだよ!!」


ユウトは自分の胸が締め付けられるのを感じた。


怒れるユウトの叫びは、どれも――自分が言えなかったこと。


「ああ……俺は怒ってた」


死にかけたとき。

仲間を危険に晒したとき。

勇者と呼ばれたくなかったとき。

レオンに置いていかれたと何度も感じたとき。


「悔しくて、涙が出るほど……悔しくて……

 でも、その怒りを“面倒だから”って飲み込んでた」


怒れるユウトは低く笑った。


「そうだよ。

 その“面倒くさいからやめとく”が、お前の弱さなんだよ」


影の声が静かに告げる。


【風の勇者は“心の揺らぎ”を力に変える。

 怒りもまた風のひとつ。

 それを否定したままでは、風の本質には辿り着けぬ】


ユウトは拳を握り、ゆっくりと一歩踏み込む。


「……怒りは、大事なんだな」


怒れるユウトが鼻を鳴らす。


「やっと気付いたか。

 怒りは弱さじゃない。

 “守りたい”“負けたくない”“立ち向かいたい”って気持ちの核だ」


ユウトは拳を握った。


「なら――お前も、俺だ」


怒れるユウトがニッ、と笑った。


「来いよ。“本当の風”を見せてみろ」



怒りのユウトが疾走する。


白銀の地面を蹴った瞬間、断層世界全体が振動するほどの衝撃。

ユウトは風で加速しつつ、ギリギリで拳を避ける。


――バンッ!!!


避けたはずの風圧で、ユウトの肩が裂けた。


白銀の線が飛び散り、肉体の輪郭が削られる。


(やばい……! こいつ、分身の影よりずっと強い!!

 怒りを全部力に変えてるからだ……!)


怒りのユウトは低く告げた。


「俺はな――お前が逃げた“怒りの先”だよ!」


怒号とともに、怒れるユウトがさらに速度を上げる。


風衝突ゲイル・クラッシュ!!」


拳が来る。


ユウトは反射的に風で身を浮かせた。


「くっそ……!! やるしかねぇだろ!!」


ユウトは風を集め、拳に乗せた。


風衝撃エア・パルス!!!」


――激突。


爆風の中心で風と風がぶつかり合い、断層世界の空が割れた。


ユウトの拳は押し負け、弾かれ、身体が後方へ吹き飛ぶ。


地面に転がる。


痛みで視界が白く染まった。


怒れるユウトがゆっくり歩いて来る。


「まだ本気じゃねぇだろ。

 “怒りの力”から逃げてるからだよ」


ユウトは歯を食いしばって立ち上がる。


「ああ……俺は怒ってる。

 怖かったし、悔しかったし、悲しかった。

 でも……それを“見たくなくて”風に逃がしてた」


ユウトは深呼吸をした。


そして、自分の胸に手を当てた。


「――怒りってのは、俺が前に進むための“風”なんだろ?」


怒れるユウトの足が止まる。


ユウトの風が、静かに吹いた。


怒り、哀しみ、悔しさ、焦り。

全部混じっていた。


だが――


ユウトはそれらを否定しなかった。


「それが俺の力だ。

 なら、お前と一緒に行く」


怒れるユウトはわずかに驚いた表情をした。


「……一緒に、だと?」


ユウトは言葉を続ける。


「怒りを拒絶してたのが俺の弱さだ。

 でも、お前を受け入れたら……

 本当の意味で“風”になれる気がするんだ」


怒れるユウトはしばらく沈黙し――


ふっと、笑った。


「ようやく言ったな。

 じゃあ……見せろよ、ユウト」


怒れるユウトは構えを解き、拳を降ろした。


「俺を、受け止めてみせろ」


ユウトは歩み寄る。


二人の距離が縮まる。


ユウトが両腕を広げ、怒れるユウトを抱きしめるように――


風が一瞬、止んだ。


次の瞬間――怒れるユウトの身体が光に包まれた。


「……これが、俺たちの“風”だ」


怒りのユウトは静かに消え、光はユウトの胸へと吸い込まれた。


胸の奥に熱が灯る。


これまでにない――嵐のようで、優しい風。


影の声が低く響く。


【怒りを抱きしめたか。

 ならば、お前は次へ進める。

 自我の第三段階――“風の核層”へ】


断層世界が深く沈む。


ユウトの視界が暗転しかけたその時――


遠くから、レオンの声が聞こえた。


『ユウト!! 聞こえるなら返事しろ!!』


『ユウトぉぉぉ!!!』


『ユウトさーん!! おきてぇぇ!!』


ゴルドとピリィの声も届く。


ユウトは薄く笑った。


「……みんな、待ってろよ」


断層の奥へ――ユウトは落ちてゆく。


次の試練へ。

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