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「風が戻らない世界で」

風が――ない。


第三の影が誕生した瞬間、

世界は「呼吸」をやめてしまった。


森はざわめかず

草も揺れず

空さえ動かない。


音のない世界に、ユウトは立っていた。


レオンは膝から崩れ落ち、

今にも意識が断ち切れそうな状態で揺れている。


白銀の影――

「輪郭だけの怪物」が、レオンとユウトの間に立ち塞がっていた。


ユウトはその影に向かって叫ぶ。


「レオンを……返せ……」


吸い込まれた声が、世界に溶けて消える。

影が「声を世界から排除している」証だった。


ピリィが震えながらユウトの足にしがみつく。


『ユウト……風が……戻ってこないですぅ……

 音が……消えちゃうですぅ……』


「風がなければ……俺は何もできない」


その言葉を言いかけて、ユウトは自分の胸を殴った。


(違う……そんなの俺じゃない)


ゴルドが低く唸る。


『ユウト……第三の影は、

 お前が“風を信じられなくなる”のを待っている。』


「…………」


『風は頼るものではない。

 ――立ち上がる理由そのものだ。』


その言葉に、ユウトの心がざらつく。


視線の先――ぐったりとしたレオン。


(レオンが……あんなにも影に抗っていたのに

 俺がここで止まるのか?)


レオンは、確かに

ユウトの呼びかけに応えた。


だからこそ影は焦り、急いで形を手に入れたのだ。


ユウトの拳が震えた。


(レオンを……絶対に離さない)


ピリィが泣きそうな声で言う。


『ユウト……ユウトの中の風……

 まだ、生きてるですぅ……』


「…………そうだな」


ユウトは、胸に手を当てる。


風がない世界。

でも――自分の中には確かに“熱”がある。


第三の影がレオンを飲み込もうとするとき、

レオンの瞳に灯った青い光。


その光がユウトを見ていた。


(レオンが……俺を信じた)


ならば。


『――俺は、風を信じる。

 レオンを救い出すその瞬間まで……絶対に!!!』


胸の奥で何かが――弾けた。


止まっていた空気が震える。


音のない世界に、

わずかな“風のざわめき”が戻る。


ピリィが目を大きく見開いた。


『……風……戻ってきてる……!

 ユウトの心から……!』


ユウトの足元から、

薄く青い風が舞い上がった。


第三の影が初めて“焦りの動き”を見せる。


揺れる輪郭。

ざらつく空気。

白銀の目なき顔がユウトを向いた。


(感じてるな……俺が“風を呼び戻せる存在”だって)


ユウトは拳を固く握りしめる。


「レオンを救うためなら……

 どれだけでも風を起こす。

 ――それが俺の戦いだ!」


風はまだ弱く、心臓の鼓動に合わせて震える程度。

でも、それで十分だった。


風が“世界に戻り始めた”事実こそが――

第三の影にとって最大の脅威。


ユウトはゆっくりと一歩前へ。


風がその背中を押した。


第三の影は、

ユウトを“敵”と認識し直した。


そして世界が――ほんの僅かに息を吹き返す。


(ここからだ……!)


ユウトは風を纏い、第三の影へと向き合った。


風の勇者として——

本当の意味で、初めて。

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