まさかの伝説級⁉️
俺の名はユウト・ナガセ。
異世界に転生して勇者になった男……のはずなのだが、ステータスは壊滅的に低い。
攻撃力5、防御力3、俊敏2、運1。どの数値も見なかったことにしたい。
唯一の救いは、「モンスターの心の声が聞こえる」という奇妙なスキル。
それだけで命をつないできた、最弱勇者である。
そんな俺の前に、今日またしても事件が起こった。
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「……なあユウト。空、光ってねえか?」
『あれ……魔力が空気を割ってる。やばい気がする。』
見上げると、雲の切れ間から金色の光が差していた。
それはどんどん強くなり、やがて形を成していく。
そして現れたのは——眩しいほどの美女だった。
「ユウトさ〜んっ! お久しぶりですねぇ♡」
「げっ! お前ぇぇぇぇ!!」
『だ、誰!? なんで空から女が降ってきた!?』ゴルドが叫ぶ。
『まぶしい! 溶ける! スライム的に限界っ!!』ピリィが泡立ちながら叫ぶ。
「落ち着け! こいつは俺をこの世界に送り込んだ、女神だ!」
『こいつって言うなぁ!』女神は頬を膨らませた。
「みなさん初めましてっ! 私は“転生管理課・女神リュミエル”ですっ♡」
『……役所みたいな名前だな。』
『天界って書類仕事あるんだ……』
「お前らツッコミ鋭いな。」
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「で、今回はなんだ?」
「実はユウトさん、本来は“伝説級の全能勇者”になるはずだったんです!」
「………………はい?」
『“全能”? それって……世界最強ってことか?』
「そうですっ♡ 本来のユウトさんは、攻撃力9999、防御9999、俊敏9999、運9999! 神すら超える勇者になる予定だったんです〜!」
「な、な、なんだってぇぇぇ!! じゃあ俺のこのゴミみたいな数値は!?」
「パソコンにコーヒーこぼしちゃったんです♡」
「お前ら天界、仕事ナメてんのか!!」
『え、神様ってパソコン使うの?』
『……書類よりカフェ事故が原因ってどうなんだ……』
「細かいことは気にしないでください♡ 今から修正しますね〜!」
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リュミエルが杖を掲げる。
まばゆい光が俺を包み、世界が震えた。
【再設定開始:勇者ユウト・ナガセ】
体の中を、熱いエネルギーが駆け抜ける。
筋肉が膨張し、視界がくっきりして、世界が俺を中心に回っているように感じた。
「うおおおおおお!! すげぇ……力が……! 指パッチンしたら山動きそう!!」
『空が震えてる!?』『ピリィが蒸発しかけてるぅぅ!!』
「ははっ、これが伝説級の勇者の力か! 竜王でも誰でも、かかってこい!!」
俺は拳を握りしめ、空に突き上げた。
——その瞬間、リュミエルが顔を曇らせた。
「ん? どした?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいね? おかしいな……スキル欄に空白が……」
「スキル? そんなの後でいいって!」
「えっと……“モンスター思考読取”ってやつ、どこいっちゃいました?」
「え?」
「おいおいおい! それ俺の唯一の生存手段だぞ!!」
『ユウトさん、それないと本当にただの人!』
『人どころか、装備してないモブ!』
「それは今までのユウトさんで、全能勇者なんだから、いらないでしょ♡」
「いや、俺そういうのじゃなくて! そっちが俺のアイデンティティなんだよ!!」
「え、アイデンティティって……そんな残念な方向でいいんですか……?んー、それじゃあ、特別に何か別のスキル付けときますね♡」
「いいんだよ!! っていうかやめろ! そのボタン押すな!!」
「えいっ♡」
【転送シーケンス開始】
「おい、今の“えいっ”って言ったな!? 軽すぎだろ!?!?」
『ユウト!?』『ま、また光ってる!?』
「次は絶対うまくいきますからぁぁぁ!!」
——そう言い残し、リュミエルの声が遠ざかっていった。
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光が消え、目を開けると……そこは暗く巨大な洞窟。
岩肌が赤く光り、熱気が肌を刺す。
そして頭上から、重い声が響いた。
『……人間、か。珍しい。ここに来るとはな。』
闇の中で、紅い瞳が二つ、ゆらりと開く。
息をするだけで、胸が圧迫されるような威圧感。
「うわ……まさか……」
『名乗れ。』
「ゆ、ユウト……勇者です。」
『また勇者か。飽きた。焼き払うか。』
「ちょ、待っ、落ち着け!!」
その声を聞いた瞬間——頭の中に“思考”が流れ込んできた。
『……面倒だ。今日も眠い。焼くのも億劫だ。』
「え……?」
脳内に、確かに竜王の“心の声”が響いた。
だが、それと同時に、空中に赤い警告が走る。
【エラー:スキル競合検出】
【全能モードと思考読取の干渉により、優先スキル:思考読取】
【再起動中……】
「おい待て!? またバグったのか!?!?」
【全能データ破損。初期設定に戻します。】
「戻すなぁぁぁぁぁぁ!!!」
再び光が弾け、体から力が抜けた。
たった今まで世界を支配できるほどの力が、煙のように消えていく。
『……ふむ。なんだこの哀れな気配は。』
「ですよねぇ……俺もそう思います。」
『さっきまでの力はどこへいった。貴様、なにをした。』
「いや、俺も知りたいわ。」
力は消えたが、心の声だけは残った。
どうやら、俺は“また最弱”に戻ったらしい。
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「ま、まあ、最強より最弱の方が俺っぽいし……」
『……貴様、恐れぬのか? 我を前にして。』
「怖いけど、話せるしな。」
『話せる……?』
「お前、ほんとはあんまり人間殺したくないんだろ?」
『……なぜ、それを。』
「聞こえてんだよ。お前の“めんどくさい”って心の声が。」
『…………。』
竜王は長い沈黙のあと、ふっと息を吐いた。
『くだらぬ勇者だ。だが、悪くはない。』
「だろ?」
『面白い。少し、見物させてもらおう。』
炎のような瞳が、少しだけ柔らかく光った。
俺は苦笑しながら呟く。
「……結局、俺はこうなる運命なのかもな。」
——こうして、
全能勇者になり損ねた“最弱勇者”と、
世界最強の竜王との、奇妙な関係が始まった。




