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「本当にあった怖い話」シリーズ

水琴窟

作者: 詩月 七夜

 皆さんはお城やお寺、大きな博物館などにある「日本庭園」はご存じだろう。

 その造りは池を中心とし、その上に土地の起伏を生かす「築山」を築いて、自然石としての庭石や草木を配置し、四季折々の彩りを散りばめた景色を鑑賞できるように造型するのが一般的だ。

 そんな日本庭園には「手水鉢(ちょうずばち)」という手を洗う水を湛えるための器・鉢もある。

 本来は寺社仏閣で参拝前に手を清めるもので、これには常時清潔な水が注がれ縁から溢れる。

 この手水鉢とセットで設けられるのが「水琴窟(すいきんくつ)」だ。

 水琴窟は手水鉢の近くの地中に作りだした空洞の中に水滴を落下させ、その時に出る音を反響させる仕掛けで、手水鉢の排水を処理する機能を有する。

 造りとしては、まず掘り抜いた土の中へ底に穴を開けた(かめ)(つぼ)を逆さに埋める。

 すると、手水鉢から溢れた水が穴を伝って滴となって落下し、それが地面に落ちることで水滴の音が発生。

 それを甕や壺の空間内で反響・増幅(ヘルムホルツ共鳴)させ、その音を楽しむという何とも風流なものだ。

 江戸時代に庭園の設備として完成し、明治時代には盛んに用いられたが次第に廃れていった。

 しかし、80年代にメディアで取り上げられたことが切っ掛けとなり、広く知られるようになった。


 さて、そうした80年代にこの水琴窟を自宅の庭に作成しようとする人がいた。

 その人の自宅には立派な庭園があり、手水鉢もあった。

 なので、どうせなら水琴窟も設けて、もっと風流な庭にしようというつもりだったらしい。

 しかもケチだったその人は、あまりお金を使わない方法として日頃面倒を見ていた庭師を頼り、値切りに値切って水琴窟を整備させようとした。

 が、庭師も商売だし、生活も掛かっていたから、あまり値切られても困る話だ。

 なので、何とか正規の値段で請け負えるよう交渉もした。

 しかし、大地主で名士でもあったその人にゴリ押しされ、泣く泣く仕事を請け負うことになった(噂では、仕事の発注や紹介をネタに脅迫まがいの真似も受けたとか)。

 多忙な中、庭師は庭をいじり、水琴窟をこしらえた。

 途中、クレームまがいのやり直しを要求されたりと、本当に大変だったらしい。

 が、どうにか依頼をこなし、水琴窟を完成させた。

 庭の持ち主だった人はホクホク。

 庭師は安い賃金で酷使されたせいか、心身の具合が悪化し、他界してしまったという。


 そうしてしばらく経ったある時、庭の持ち主も体調を崩して倒れた。

 何でも幻聴に悩まされてノイローゼ気味になり、最終的には精神病棟に入院してしまった。

 そんな本人は、正常な時には例の水琴窟をいたく気に入っていたようで、来客にも自慢し、その風流な音色を楽しんでいたらしい。

 が、ある時を境に大のお気に入りだった水琴窟とその水滴の音色をひどく恐れるようになり、入院直前には水琴窟を撤去させてしまったという。


 後に聞いた話。

 水琴窟の撤去を行った別の業者は、作業を行って驚愕した。

 冒頭で触れたとおり、水琴窟の設置には甕や壺を逆さにして地中に埋めるのが普通だ。

 なので、その庭に設けられた水琴窟も同じような造りだった。

 しかし、ある一点だけ違っていた。


 何と、地中に埋められていたのは、大型の「骨壺」だったのだ。

 しかも、どうやらそれは使()()()()のものだったらしい。


 亡くなった庭師は、無茶難題を突き付けてくる庭の持ち主を余程恨んでいたのだろう。

 そして、最終的に精神を病んでしまった庭の持ち主は、果たしてその呪いに満ちた水琴窟から、どんな音色を耳にしていたのだろうか…?

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