解放、拡大
「配信者ってやつですか」
国頭で見つかった事故の処理で遺品を調べていると、伏谷守のものは完全に破損しており確認出来なかったが、風間啓介のスマホは奇跡的に生きていた。中身を確認すると当日現場で撮影を行った動画が残っていた。
「こいつら生きてたら逮捕でしたね」
動画内の発言を聞く限り、完全に器物破損の目的で国頭を訪れていた。全く今の若者の思考や倫理観というのは理解できない。
「にしても、これはちょっと面倒ですね」
時上は顎をさすりながら訝し気に動画を見る。
『あーあ、完全に壊れてるな』
『何が見えてんのかな、”あの人”には』
『大丈夫かよ。あのおっさんいる前で』
『あの様子じゃ問題ないだろ』
『むしろ良いスパイスになる』
『え、あの人も映すのかよ? 許可なしで?』
『許可なんて取りようもないし、そんな事気にしても仕方ねえだろ。ほら映しとけ』
『確かにな』
「こいつら誰の事言ってんですかね?」
俺は思わずこめかみを抑えた。
時上の言う通り、伏谷と風間の言う”おっさん”という存在はどこにも映っていない。
動画用に演技をしているようにも見えない。
となると、これは完全にオカルトだ。
「困ったな。終わりかもしれん」
「はい?」
時上の怪訝な顔が俺の方を向く。
「どうした?」
「終わりかもしれんってどういう意味すか?」
確かに俺はそう口にしていた。だが何故そんな事を言ったのか自分でも分からない。一人で部屋にいる時、何も考えずに勝手に独り言が漏れてしまうような、そんな感覚だった。
「……さあな」
動画に視線を戻す。やはりそこには二人以外の存在はない。
『カエルノ?』
耳の中なのか頭の中なのか、今自然と流れた子供のような声が何なのか、そんな事は俺にも分からない。