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首無し、迷惑系

 群がる人々の間から見えるのは、一体の首のない死体。


 ”何? 事故?”

 ”死んでるの?”

 ”そりゃあの感じじゃ……”


 狭かろうが広かろうが野次馬という存在はどこに行っても一緒だ。自分だってその中の一人に過ぎない。

 だが、多かれ少なかれ悲痛な顔を浮かべる者達の中で、おそらく自分だけは違う。


 ーー敬三。これからどうなるんだ私達は。







「あああああああああああうぁああああぁあああ」

「あーあ、完全に壊れてるな」

「何が見えてんのかな、”あの人”には」


 はるばる辺鄙な村を訪れ目的の神社に着いた俺達を出迎えたのは、脳の大事な部分を壊されてしまったかのように涎を出しながらうめき声を上げ続ける男の姿だった。

 おそらく四、五十代ぐらいだろうか。夏が終わり秋の始まりに差し掛かり肌寒くなってきた時期ではあったが、だらしなく膨らんだ腹が目立つよれよれの半袖のポロシャツとパンツとサンダルで夜中にも関わらずよろよろと小さな神社の中をうろついていた。


「どうする?」

「もちろんやるよ」


 啓介の問いに俺は男に構わず鳥居をくぐった。

 俺達が国頭くにがみ神社を訪れたのは神社仏閣への興味などではもちろんなく、有象無象蔓延る配信業界の中で一旗上げる為だ。


 俺達は所謂心霊系配信者だった。様々な曰くつきの場所を訪れ撮影を行う。

 だがそれだけでは多くの配信者達と変わらない。突き抜けた存在になる必要があった。

 その為にどうするか。簡単だ。過激になればいい。それだけで無責任で馬鹿な視聴者達をたらふく引き付けられる。

 常識などいらない。常識に囚われたお堅い奴らに成功は訪れない。

 だから俺達はここに来たのだ。

 

 とは言え、俺達もこんな事をするのは初めてだった。

 あまり人目につかない方が良い。そんな時にたまたまこの場所を見つけた。

 これから俺達は変わるのだ。祠を壊し自分達を呪いの検証に差し出す。まあ結局今まで訪れた場所で完全に心霊だと思われる現象も何か不幸に見舞われるなんて事も一度たりともなかった。呪いなんて一切信じていないが、今回は完全に一線を超える。

 そう決心して訪れたのに、現地には思いがけない珍客がいた。


「大丈夫かよ。あのおっさんいる前で」

「あの様子じゃ問題ないだろ」

 

 男はゾンビのように呻きながら徘徊を続けている。


「むしろ良いスパイスになる」

「え、あの人も映すのかよ? 許可なしで?」

「許可なんて取りようもないし、そんな事気にしても仕方ねえだろ。ほら映しとけ」

「確かにな」


 俺達は男を無視して中を確認する。しかしそこですぐに異常に気付く。


「……ない」

「え?」

「ないぞ。祠」

「嘘だろ?」


 ネットで見た情報ではあったはずの、四角い石の上に乗せられていた小さな祠が跡形もなく消えていた。


「なんで……」


 近づいて確認してみると、所々に木屑のようなものが残っている。撤去したというより壊れてしまったような残骸に思えた。


「どうする?」


 啓介の問いかけに頭の中でどうにもできないだろと返答した。

 全く予期していなかった事態だった。

 神主もいないような静かで小さな神社。忽然と消えた祠。


 ーーまさか。


「ああああああぁぁあ」


 呻き声をあげる男を見る。


 ーーこいつか?


「……やってくれたな」

「え?」

「帰るぞ」

「え、ちょっと」


 もうここに用はない。さっさと帰ろうと鳥居をくぐった循環だった。


『カエルノ?』


 びたっと足が止まった。

 思わず振り返った先に、男が真っすぐこちらを見ていた。


 ーー違う。そんなわけない。


 聞こえた声は、まるで小さな男の子のような幼く甲高い声だった。こいつなわけがない。


「ねぇ、けいすーー」

『カエルノ?』」


 何も言わず俺は勢いよく駆け出した。


 ーーダメだ。終わった。


 無意識に頭に現れた”終わり”という言葉にまたゾッとした。

 

 ーー終わり? 終わりなのか?

 

 車に乗り込みエンジンをかける。


「……おい嘘だろ!」


 エンジンがかからない笑けるようなベタなホラー展開が今まさに俺達の邪魔をしていた。


「ふざけんなよ!」

「何やってんだよ啓介早く!」

「うるせえよ!」


 ーー何だこれ何だこれ。


 バックミラーをなんとなく見てしまった。

 境内の中で男は俺達の方を見て笑っていた。

 途端エンジンがかかった。


 ーーよし! 早くここからーー


 その瞬間、がくんっとアクセルを一気に踏み込んだように車が急発進した。


「は、えっ……?」

 

 思考がままならないまま、ハンドルをただ無意味に握る事しか出来なかった。


 ーーあ、やっぱ終わりなんだ。


 フロントガラスを突き破った固い感触が顔面に触れた強烈な衝撃の瞬間、全ての感覚が途絶えた。

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