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真守葉摘が微笑む時   作者: モモル24号
『悲嘆と歓喜のコントラスト』 〜 怪文書の秘密を探れ 〜
7/30

怪文書の謎を解け!

「まず先に有名な駅とある。つまりこれはホラーだよな。駅周辺を見回してパニックになりながら、少しずつ魂が削られていくんだ」


「いや、それは違うぞ敬斗。夜中に食べるラーメンというのは背徳感も加味された、最高で最悪な代物。主の店主は健康に害をもたらすものかもしれない。つまり誘惑でダイエットを妨害された恨みの詩かエッセイだよ」


「……二人共全然違いますよ。最後の文章を見て下さい。お金が消えてたってありますよね。つまりこれはぼったくりにあったって嘆く悲嘆の詩です。もしくは注意を促す啓蒙活動ですよ」


 何か面白い(ネタ)がないか、部屋のパソコンを起動してネットの情報を漁っていた時に見つけた謎の怪文。


 中二病臭い主の予言をモチーフにした詩的文章と、中年のおっさんが年中言ってそうな私的文章が合わさって書かれていた。


 都市伝説やら神話やら聞きかじったものやゲームなど好きなものならば、黙示録のラッパは耳にしたことがあるだろう。


 日本のみならず、世界的にも有名になったラーメンという食べ物は知らない者を探す方が大変だ。もっとも屋台のラーメンはキッチンカーに姿を変えてしまった。


 ネタはともかくだ。この詩を作成した人物が、誰に何を伝えようとしているのか気になる所だな。



 ────おっと、その前にまずは自己紹介から始めるべきだったな。


 俺、進藤 敬斗(しんどう けいと)は、とある大学に通っている。現在二年生になったばかりだ。大学に入ってすぐに一年上の先輩、真守まかみ 葉摘はつみに誘われてオカルト研究会に入った。


 サークルと言うより同好会という方がしっくりくる。真守グループのお嬢様だとか、複合超能力者(サイキッカー)とか、設定もりもりな上に、重度のオカルトオタクなもので、容姿や背景に誘われた連中はみんな逃げ出してしまった。 


 そんなわけで、ここは二人しかいない研究会だった。この研究会でやっている活動は、ホラー系や都市伝説系ユーチューバーの真似事ばかりだ。依頼を受けて怪事件の解決も行う。しかし大半はいたずらや嫌がらせ、それに先輩狙いの罠だった。

 

 そんな俺達がこんな怪しさを醸し出す話を探すのには理由がある。葉摘先輩と俺がいつものように研究会のある部屋に行くと、進学して来たばかりの新入生が待っていたからだ。


 彼女の名は、青木 理沙(あおき りさ)。青木 理沙は先輩と俺が解決した事件で出会った、霊が『視える』 娘だ。


 人と関わる事を苦手としていた子が、積極的になったというのは良い事だ。しかし、わざわざ葉摘先輩の所を選ぶのは中々ハードだと思う。


「だいたい重度のオカルト好きは先輩だけなのに、オカルト要素かすりもしない推測立ててどうするんですか」


「それを言うなら理沙君に言いたまえ。霊視持ちがお金に執着してはキャラがブレるだろう」


「敬斗先輩こそ真面目なふりをしたって、靡く女の子はここにいないのだから無駄ですよ」


 何気に理沙の毒が強くて、俺は泣きそうだ。そんな後輩の入会歓迎会がわりに、ちょっとした謎に挑む事になったのだ。


 そもそも我がオカルト研究会に送られて来る怪文書の大半は冷やかしだ。そのためにも大量の情報の中から、当たりを見つけ精査する作業が必要だった。


 俺がいくつかピックアップし、先輩が気にかかるものを選ぶ。そうして選ばれたのが、この怪文書だ。いまはこの文が伝えようとしているメッセージを、皆で頭を捻らせて解く様子を撮影していた。


 当たりというのは当然オカルト要素を感じられるかどうか。まあいたずらであっても、それっぽい作りになるのなら採用して調査する。


 今回の怪文書は暗号のようなもので、オカルト的にはハズレかもしれない。ただ新入生歓迎の会としては、和やかに推理し合う事が出来て良い案件だった。


 推理の様子は撮影している。あとで編集を行うので、今は三人とも自由に喋っていた。


「じゃれ合うのは止めにして、そろそろ真剣に考えようか」


 俺は編集の手間を考えて、推察パートの画を取ると促した。あくまで配信用に流す為のわちゃわちゃ演出も大事なひとコマなのだ。



 ────この怪文書はそれぞれ予言とラーメンについて触れた文が対になって構成されている。


 文面を見ると、内容が対比されてる箇所が多い。文章と文字数を重ねる事に意味があるのかわからない。


 出だしだけを見ると有名なホラー話を彷彿させる。だけど後に続く文章が、それを打ち消すかのようなグルメ話なので混乱するのだ。


「先輩、これはいたずらや冷やかしだと思いますか?」

 

 いくつかのネタから、この怪文書を選んだのは葉摘先輩だ。何か惹かれる要素があるに違いない。


「敬斗、君はもうギブアップかね。まあ……この怪文のタイトルからして、ミスリードを狙ってるようだから、いたずらと捉えるのも致し方ないね」


 葉摘先輩はもう答えが分かったようだ。悔しいが、後輩の理沙も何か掴みかけているようで、しきりと独り言を呟いている。 


「答え合わせの後、少々忙しくなるかもしれないね。敬斗、君は視聴者用の解説を別撮りで行いたまえ」


「えっ……いいですけど、リポーター役は理沙に任せた方がいいんじゃないですか?」


「嫌です」


「……だ、そうだぞ」


「即答かよ!」


 新入生で人見知りって嘘だろってくらいに主張が強い。美人の先輩か、可愛らしい理沙が進行役をしてくれれば、絶対にハネる。もったいないが安全性を考えると断ってもらって正解だ。


「そう言いながら、君も毎度懲りずに提案するね。さて、いまのやり取りはこの怪文を表すのに丁度いいね」


「どういう事ですか?」


「まあ、まずタイトルから読み解こう。敬斗はこの『悲嘆と歓喜のコントラスト』と付けられたタイトルを見てどういう内容を想像した?」

 

「……感情の振り幅、みたいな。ギャップの妙みたいなものですかね」


 有名ホラー作品のような入りと、グルメ作品のような入りの文章。怖さと旨さの同時進行で何も考えずに読めば恐怖の感情と食欲という本能の対比を、まさに味わうための作品だと思っただろう。


「このタイトルには、まさにその通りの狙いがあるわけさ。伝えたい事を告げるのなら、それぞれの文章をシンプルに分けて伝えた方がいい」


 ああ、そういう事か。リポーターに女の子を使うのは、安全面以外に視聴者の興味が散らかるデメリットがある。内容で勝負したいのに、色気はいらない。先輩は収益など考えないお嬢だから、ガチでオカルト狂いだよ。


「あえて重ねたのはタイトルを強調するための仕掛けなのさ」


 初めから読む側を騙すために、コントラストなどと銘打ったって事だ。


「一度頭の使い所を誘導されてしまうと、人間の脳は認知した通りの使い方をしてしまいがちだ」


 一度思考が凝り固まると、わかった気になって信じてしまう。この怪文書は、あえてそうして読ませるためのタイトルなので当然だ。誘導されたあとは、一文一文の内容なんて深く探らなくなると思われた。


 俺達が配信用の冒頭でやったように、ほんの少しだけ考察を楽しんで弄って終わりだろうな。


「暗喩、暗号文として読むのならば宗教的な文章も、ラーメンを語るための文章も意味が出てくる」


 宝探しのようなものか。黙示録にも似た文とラーメンへの情熱。リアルに考えると、別な世界観なのだが文字のパズルとして読み解く分には歪に絡み合う。


「この文章がオカルト研究会である我々の所へ送られて来た意味を、はじめは関係者の無念の二の舞いにしないでくれ……そう読めたのだよ」


「もったいぶらずに教えて下さいよ。怪文書は人物を指し示すわけですか?」


「半分正解だよ。理沙君、敬斗に浮かび上がった人物をまず教えてあげたまえ」


 悔しいが理沙の歓迎を兼ねているのだ。先輩として、俺も後輩に華を持たせてやらないとな。

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