第7話 ライアー・バスター 断罪の御旗
毬奈からの証言や証拠を武器に、緋音とララはそして新たに加わった毬奈は、すぐに行動を開始した。
彼女たちは役割を分担し、堂庵というネット世界の怪人を追い詰めるための反撃材料を着々と集めていった。
「わたしは最終的に裁定物語を書き上げるよ。もともと見出した責任もあるし、あいつは逆恨みするだろうから」
緋音も正直言えば精神的にはキツい。でも、ララという協力者が出来た事、毬奈に危機が迫っている以上、他の誰よりも堂庵浩二──ミスター・ホロウと対峙しなければならない。
「それなら私は堂庵が接触を図っている他の被害者を探して、直接話を聞いてみるね。私と距離感近い人なら、同じ不安抱えているかもしれないから」
直接害を受ける可能性の高い毬奈の言葉に、不安を感じている人は耳を傾けるだろう。
「吾輩は証拠集め‥‥デジタルタトゥーの収集と、分析担当するニャ。IPアドレスやタイムライン、複アカの相関関係……消去しても記録は消えない、嘘をつかないからニャ」
ララは冷静に答えた。ララと彼女のボスとの間にまた何かあったのか、吾輩言い出したのには緋音も毬奈もスルーした。
緋音達の行動は迅速だった。堂庵が悦に入りニヤニヤと陳腐な妄想話をチャラけて掲載する最中だ。彼が放っておいても、自分を勝手に持ち上げてくれる仲間達を軽く扱い始めた頃。緋音がまず仲間達に勇気ある告白の物語を打ち出した。
最初は当然仲間達から警戒された。しかし続いてララが動く。堂庵が送って来る、創作の庭と無関係なメッセージなどを公開して、迷惑極まりない不快な行動の数々を物語として告げたのだ。さらに毬奈の証言と、緋音自身に起きた危機と経験を正直に物語として話すことで、警告を発する。仲間達も堂庵から漂う自分中心の空気感を察し出した頃であり、三人へ緋音への信頼を取り戻していった。
「堂庵さんは、私にも個人的に『君になら心を許せる』って言ってました……」
「私も‥‥。家族を大事にしている人だって信じてたのに……」
毬奈も他のものも、実害まではないから被害者とまではいかない。それを持ってミスター・ホロウの罪とする事は出来ないだ事も告げる。あくまで自己判断。緋音達の狙いは、事態の透明化だ。包み隠さずぶっちゃける事で、どちらの言い分に誠意と整合性があるのか明らかになるから。そうして集まる声は、やがて堂庵の偽善を裏付ける確かな証言となっていった。
そしてララのデータ分析は、別の協力者の助力で核心に迫っていた。
「見つけた、決定的な証拠だニャ」
ララは画面に映し出された雑多なログデータを見ながら呟く。
ミスター・ホロウが「家族でリゾートランドに来ています!」 と、投稿したタイムラインと、毬奈に「今、駅の近くにいるんだ」 と、メッセージを送ったタイムラインが、完璧に一致していたのだ。家族がリゾートで楽しむ間、彼は良き夫を演じながら送迎を行い、隙間時間に毬奈との接触を試みた形跡が残されていた。
協力者の白幡由紀子から、堂庵に関する複数のアカウントのIPアドレスを辿ったデータを貰った。彼を擁護したり賛同意見を書き込んだりしていた複数のアカウントのいくつかが、同じIPアドレスからほぼ同時刻にログインされていたことの証明書だ。
「これは偶然じゃない。堂庵浩二によるネット世界の世論操作。彼が作り上げた『善人』のイメージは、すべて虚構の演出だったのよ」
緋音は集めた被害者たちの証言、ララが解析しまとめた決定的なログデータや資料を突き合わせた。以前‥‥言葉だけでは感情論と片付けられたが、目の前にある事実はもう隠しようがない。
「これで、奴の嘘を暴ける」
緋音の目に力が宿る。堂庵が作り上げた強固なミスター・ホロウという虚像と、彼を信奉する仲間達という対立関係に追いやられたが、ララ、毬奈と分かり合い、誓いを立て逆風から追い風に乗ることが出来た。
緋音はララと毬奈合図を交わし、堂庵のメインアカウントを一斉にブロックした。
気心知れた仲間たちもまた緋音達の意図を察して、堂庵から距離を置いたり、同じようにブロックを実行したりした。これは堂庵がソシオパスにナルシストな面を持つ非常に厄介で面倒なネットの怪人である為だ。
彼は自分があからさまに悪事を働いても、自分は悪く思わない性分なのだ。悪さをして窮地に陥ると、まったく無関係でも、たまたま因果を彼が結びつけた相手‥‥自分を苦しめたものへ、怒りの矛先を向ける。責任転嫁も甚だしいが、堂庵の中ではそれが正義だと世界が成立してしまうのだ。
創作の庭で緋音を中心に目を覚ましたもの達は、自分たちが彼の支配下にはないことを見せつけ、無視‥‥関わりを持たない宣言とも取れる、断絶の旗を振りかざしたのだった。




