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真守葉摘が微笑む時   作者: モモル24号
真守葉摘が微笑む時 不器用な完璧超人編

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リベンジャーと不器用な完璧超人・2


 それから一週間ほど過ぎた。平穏な大学生活の日々が続いた。葉摘や啓斗たちは学業をサボる事なく講義も受けている。研究会では葉摘や理沙の淹れた紅茶を愉しみながら、都市伝説の調査報告書を手分けしてまとめる。警戒はしつつも変わらぬ普段の生活が続く中で、事件の数々は過去のものになりつつあった。


 しかし⋯⋯その日常は突然破られた。ある日、小雨がパラパラと降る午後だった。啓斗が大学から一人暮らしのアパートに戻ると、郵便受けに奇妙な封筒が入っていた。


 封筒に差出人はない。中身は啓斗と葉摘が心霊スポットで犯罪者たちを罠にかける瞬間の写真だった。二人の顔は鮮明に映っている。そして写真の裏には、赤いインクで下品なマークと、達筆ながら汚い言葉が書かれていた。


「次はおまえたちの、真守葉摘のお嬢様暮らしをめちゃくちゃにしてやるよ」


 品性のない下卑た笑い声が聞こえて来そうなわずかな一文に、啓斗の血の気が引いた。記されていた下品なマークは、彼ら性的犯罪者グループが、アクションを起こす合図のかわりに使う象徴のようなものだったからだ。これは単なる脅迫ではない。明確な逆襲の宣戦布告だった。


 彼らは刑務所の中、あるいは共犯者が外部にいて動いているのか。啓斗は急いで葉摘に連絡を取ろうとしたが、電話は繋がらない。メッセージも既読にならない。啓斗は焦った。彼自身に届いた以上、彼女に脅迫めいたメッセージが届かない理由はあるだろうか。わざわざ彼に知らせる以上、葉摘にも差出人不明の手紙が届いているはずだ。彼女のことだから能力で解析をしているかもしれない。


「先輩⋯⋯」


 嫌な予感がした啓斗は、葉摘の自宅へ向かうことにした。罠にかけたのは葉摘の発案で、啓斗自身は何も知らなかった。だが送られてきた写真は、何も知らず殴られ気絶した自分が、まさに殺人を犯しているように鮮明に映っていたのだ。


「無事でいてくれよ、先輩⋯⋯」


 彼女はいつも落ち着いているが、今回は自分だけでなく、大企業の令嬢という彼女の社会的地位までもが狙われている。写真が合成やAIの作り出したものでも、バラマキによる信頼損失のダメージが大きいのだ。


 啓斗は自分の原付きバイクで真守邸までやって来た。葉摘の自宅は厳重なセキュリティで守られた超豪邸で、邸に入る前に入邸チェックが必要だった。だから啓斗はアポもなくインターホンを押すことはせず、事前に葉摘から教えてもらっていた非常時の隠し連絡先へ電話をかけた。


「啓斗、そんなに慌ててどうしたのかね」


 電話はすぐに繋がった。連絡するという動作そのものは本来必要ないようだ。念波ダイヤルのようなものがあるらしく、彼女自身が認識し、緊急を要する相手の思念を受けとるための儀式みたいなものだった。


 葉摘の声は電話越しでも冷静だった。敬愛する先輩の声を聞いた──それだけで安心するのは早かったが、啓斗の意識に彼女の元気な様子が流れ込むようで、不安の曇りが急に晴れた。


「は、葉摘先輩!これ、これを見てください!」


「落ち着きたまえ啓斗。わたしの能力なら見ることは可能だが、電話越しにする行動ではないぞ」


 啓斗はハッとなって、慌てすぎて間抜けな行動を取った事を恥じる。相手が超能力者だとしても、常人のつもりで対応しないと悪い癖がついてしまう。


 啓斗は一旦端末の電話を切り、封筒の外装の様子や脅迫文の写真を撮って、葉摘へと送った。


「脅迫状が届きました。狙いは先輩の⋯⋯大企業の会長としての社会的な破滅です!!」


「ふむ、わたしのもとに来たものと同じもののようだな」


 葉摘のもとにも届いていた。無駄に律儀なのは性格のためか、そんな葉摘の呟く声が電話越しに聞こえる。最悪なのは彼らにとって事件のでっちあげの事が、捏造だとバレてもダメージが少ない事だろう。嫌がらせのようなもので、真守グループ全体の信頼を落とせば、大きな損害になるのがわかっている。


 電話の向こうで、葉摘は少し考え、息をのむ音が聞こえた。


「⋯⋯そう。やはり動いてきたかね。リーダーはまだ刑務所だったな。仲間に指示を出しているのか、あるいは指揮をとる仲間がまだ他にもいて、迷惑な鼠が増えていくと言いたいのだろうか」


「⋯⋯どうするんですか?」


「私の居室に入り込むのは不可能だ。まあ能力者は別だが、わかっているから覗きはしないだろう⋯⋯。彼らの狙いは我々との物理的な接触ではなく、啓斗の想像する通りだな。私の生活、名誉、そしてグループ会社の信用を地に落とすことだ」


 葉摘の声のトーンが低くなった。


「彼らが持っている証拠は、あの日の夜の写真だけではないはず。わたしたちが彼らを『罠にかけた』という事実を歪め、偽証がバレた後はこちらを悪趣味な人間であると事を強調して貶めるつもりだろう」


 アリバイがあろうと、事前に現場に居合わせた事実だけで陥れるつもりだ。嘘ではないから、一方的に攻撃が出来る。


「自分たちの卑劣な犯罪が明るみに出ようと、注目させる事が目的なのだな。たちの悪いテロだよ」


「そんな……」


「心配いらないさ。啓斗、そこは冷えるから裏門の送迎車の車庫に来たまえ」


 葉摘の声には、啓斗への気遣いと奇妙な自信が満ちていた。作戦を練るため、啓斗は真守邸への入場を許可された。啓斗は裏門へ回り、警備員に葉摘の許可を得たと話す。すでに葉摘から連絡が回り、啓斗はすんなり敷地内へと入る事が出来た。


 車庫は客用の送迎車が停められていて、中は無人だった。ひとまずバイクはそこに停める。来客予定があれば休息所に運転手たちが集まって休んでいるが、いまは誰もおらず、啓斗が入っても注意をはらう者はいなかった。


「⋯⋯!?」


 啓斗は突然フワッとした感覚に襲われる。そして不安定な足元にバランスを崩す。


「この研究室ならば安心して話せる」


「誘導されたのでおかしいと思いましたよ。舌噛んだりしたらどうなるのか⋯⋯」


 ニコニコ顔の葉摘に出迎えられて、ブツブツと啓斗は呟いた。


 瞬間転移⋯⋯ではなく、ただの落とし穴だった。着地場所には柔らかなマットが敷かれていたが、葉摘の待つ車庫下の地下室までかなり深いように啓斗は感じた。


 葉摘はオカルト好きなだけではなく、からくり屋敷のような仕掛けも好きだった。傘下にある会社近くの雪山の別荘も、爆発し雪崩で埋もれてしまったが、仕掛けだらけだったと聞いている。


「先輩の研究室って、大学の研究室と変わらないじゃないですか」


「現実はそんなものだよ」


「はぁ‥‥」


 啓斗は初めて案内された女子の部屋に、憧れを持っていた。真守グループのお嬢様となれば、期待値が跳ね上がるに決まっている。現実は青年の夢見がちな妄想を簡単に破る。


 ただ──飾りたてた美しい居室よりも、雑多な怪しげなものに溢れた研究室の方が彼女の本当の姿を見せている。使い込まれた飲みかけのカップを見て、啓斗は嬉しく思った。お嬢さまとして、ありかなしかといえば断然なしだと、啓斗は心の奥で泣いた。


「わたしには彼らの思考回路が読める。彼らは復讐という感情に支配されているからこそ、行動が単純なのだよ。わたしたちを貶め、追い詰めたと思わせることで必ず油断する」


「思考回路というか心情推理ですよね」


「わかっているじゃないか。つまり彼らの本当の欲望は目の前でわたしの破滅を見る事さ」


 葉摘はすでにサイコメトリーの能力で、手紙から対象人物のリーディングを行っていた。語りはしないが、込められた情念を知ってなお立ち向かうつもりなのだ。


 啓斗はそれ以上何も言えなかった。欲望に身を染めた親友が葉摘に向けた情欲の果てを示す形を思うと、彼らの望みが何であるのか嫌でもわかる。


 復讐者(リベンジャー)として、捨て身の怖さがあり、受ける被害は一方的で大き過ぎる。それにも関わらず真守葉摘の自信はどこから来るのか揺るがない。


「彼らの作戦を⋯⋯仕掛けてくるであろう罠を逆手に取るということですか?」


「そういうことだ。彼らが私たちを陥れるために用意した次の『舞台』に、私たちはあえて乗る。そしてその舞台こそが、彼ら自身の墓場になるわけだ」


 葉摘はサイキッカーとしての直感を研ぎ澄ませていた。彼女には刑務所の鉄格子の向こうから発せられる、黒く渦巻く怨念の波動が感じ取れていた。それは復讐に燃える犯罪者たちの最後の悪あがきであり、同時に、彼女が完全に彼らを葬り去るための唯一のチャンスでもあった。


 啓斗は葉摘の言葉に迷いながらも、その強い意志に引き込まれていった。


「わかりました、先輩。僕も一緒に戦います」


 二人の静かな──しかし確かな逆襲が始まろうとしていた。

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