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真守葉摘が微笑む時   作者: モモル24号
金星人シリーズなど

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ぼやき事務員8 ドロッどろの半熟たまごみたいな


「⋯⋯蕩けるような恋をしたいよねぇ」


 切実な心からの渇望が、ため息と共に吐き出される。いつもの居酒屋でダメな女二人がクダを巻く。


 全国探さなくてもよくある光景。令和の御時世⋯⋯すっかり陰を潜めた絶滅危惧種な酔っぱらいの私達の姿。酔っているから無駄にテンションが高い。



 ただのぼやき事務員から金魚ビールを作る謎会社の社長秘書とランクアップしたのが、私白幡 由希子(しらはた ゆきこ)と、黒いコスモスと呼ばれた和風美人社員の黒里 桜子(くろさと さくらこ)だ。


 年齢や生活の境遇や環境が似ていたせいか、私達はあっさり親友になった。


「マヤ社長ってさ、金星人だと言うだけあって金運はかなり良いけど──恋愛運は壊滅的だよね」


 私がぼやくとウンウンとうなずきながら桜子も追随する。給料に金塊を渡そうとするとか、常識も危ないのが私の雇い主達。


 そしてランクアップしても、他人の動向(悪口)でしか盛り上がれないのが、何とも情けない環境にある。だから愚痴が止まらない。


「真守会長も自分だけ恋人候補いるからって、惚気絡みがしつこくウザい」


 恩人でも色恋沙汰は別だ。お金もあって権力もあって彼もいるなんて、ムカつくだけじゃん。毎日のように相談メールが画面を埋め尽くすので、まじめに転職を考えたよ。


 金魚人の社員を除くと、社員数三十人程の会社。それなのに男女共に綺麗に全員既婚者だった。


 平穏で優しい家庭を持つ彼ら彼女らは、くだを巻かれるのがわかっているので、飲みに誘っても来ない。結局二人で飲むと他人への愚痴で盛り上がるしかないのが悲しい現実を物語っている。


 ただ解せないのは今や親友となった、黒里桜子。地味なだけの私と違い、桜子は影が薄い⋯⋯いや薄いのではなくて近寄りがたいだけ。彼女は背も高く、スタイルの良い黒髪和美人なのだ。


 元の会社で噂された、黒いコスモスは揶揄だったと言うけれど、美しい花って意味もあったと思うんだよね。


「よし、決めたよ。私の事は置いて先に行け作戦実行しよ」


「また頭の悪いぼやきを⋯⋯」


「なんでよ。桜子をこんな大衆居酒屋の片隅に添えるのは間違いなんだよ。せめてホテルのレストランよ。それも会員制の」


「ユッキー、酔い過ぎだよ〜」


「ええぃ、離せ桜子さまよ。そして話せ。善は急げ。拾うには福来たるだよ」


 酔った勢いで意味不明な言葉を口にして、私は取引先に一斉にメールを送信した。会社のメールの私的利用だが、重要名案件でもある。桜子に対して面倒事をかける迷惑メールだが、完全に私は悪酔いしていた。



 ──翌日、桜子の恋人募集の急な呼びかけに応えた人達が集まった。桜子のために至急集まれ⋯⋯それたけでやって来る隠れ黒いコスモスファンはいた。一人二人じゃない、かなりの人数が集まっていたのだが⋯⋯。


「予想通り、ほぼ近場の身内(会社関連)じゃん」


 私の力不足だ。ごめんよ、桜子。それにしても独身モブ男子達はともかくだよ⋯⋯和菓子屋のリュウさん、三日月商会の男の娘に、なぜ既婚者の男子三名女子二名までいる? あとは、たまご!?

 

「────我々は黒いコスモスを守る親衛隊だ」


「はい、却下!」


 私の先を見通す能力で、奥さん方と揉める未来が見えるよ。だいたいあんたら、かぐやんに貢いで滅茶苦茶叱られて懲りたはずだよね?


「────桜子様は男共に穢させない!」


「はい、却下〜〜〜」


 人妻共が何を言ってる。出掛ける前に旦那とチュ〜した口で、ほんと何を言うかな。自分達は良くて桜子は清くあり続けろなんて昭和一桁の親父か。


「私は────桜子様に蹴られたいのです!」


「はい、却下!!!」


 某国の元エリートスパイの外人さんで和菓子屋さん見習いに、それ以上余計な情報も属性もいらないんだよ。団子に恋して下さいな。


「ぼ、ぼっぼくは将来桜子さんと────結婚するんだ!」


 鳩ボッボな戦地に赴くならフラグ。だがこの子は三日月商会の令嬢だった男の娘のショタだ。有望株にしても、あと十年は待てん。


「……と、言うわけで関連会社にはろくな男がいない事がわかったよ、さく⋯⋯」



 ────ゴッ!!!!



 鈍い音が私の頭上に響く。下を向き怒りにフルフルした桜子に、頭頂部踵落とし(脳天割り)を喰らった。親友にも容赦ねぇ。酔ってなくても強さが解放されたようだ。


 薄れゆく意識。私の見た最後の景色は、場違いな姿(シルエット)のたまご⋯⋯。たまごはたまご。いや、なんでたまごがいるんだよ、帰れよ⋯⋯。


 一応手加減されていて、私のペラペラな小さな身体を桜子が抱きとめてくれた。悪酔いして、悪ノリしたけれど、我が行いに悔いはない。


 一昔前の親戚のおばちゃんのように、私の願いは叶った。


「面白いじゃないか。この件⋯⋯わたしが預るとしよう♪」 



 黒里桜子(親友)への「私の事は置いて先に行け作戦」 は、一番タチの悪い存在、真守葉摘会長預かりになった。大企業グループの会長という肩書きを持つ彼女のネットワークは幅広く、あっという間に全国の支社へと拡散される事になった。



「ユッキ〜〜〜どうしてくれるのよ〜〜〜!!」


 思っている以上に私が脆いのを知り、怒りの踵落としは封印してくれて助かった。ただ両肩を掴まれガクガクブルブルされて気持ちが悪い。


 マヤの会社のある雪山の街で、桜子を巡る催しが週一で行なわれる事になり、出場者や観戦目当てに謎の観光客達がやって来るようになった。マヤと地元商店街はホクホク顔で、ここぞとばかりに荒稼ぎをしている。


 情けない声で震えながらも、群がる男達を容赦なく蹴散らす桜子(わが友)は美しい。


 ごめんよ桜子。でも桜子(あなた)には幸せになって欲しいんだよ。


 それが私の望みだ。親友になれて、それだけでも誇らしい。


 和美人の桜子は古風で奥ゆかしい乙女なのだ。どろどろのとろけるたまごに、とろけるチーズを混ぜたみたいな恋をする彼女の姿を、私が一番見たいのかもしれない。




 お読みいただきありがとうございました。


 このお話は、公式企画なろうラジオ大賞5の投稿作品を改稿、大幅に加筆修正して再掲載しております。

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