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真守葉摘が微笑む時   作者: モモル24号
金星人シリーズなど

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26/41

たまご探偵物語6 エージェントのリュウは、暖炉の前でたまごと静かに佇むことになる ※ イラストあり


 ────私は某国のエージェントをしていたリュウという者だ。この国で言う忍者や草──笑い草の意味ではなく⋯⋯いわゆるスパイというもの。スパイ活動を行う組織の中で、私は武力行使を伴う任務(ミッション)を中心に動いていた。


 武力を伴う行為といっても、暴力的な殴る蹴るの類いだけではない。口外されていない機密扱いの施設の破壊工作、要人誘拐実働部隊なども行う。監視社会においては、むしろそれが主流の仕事になりつつある。私の所属する組織も、国から入る依頼は控えめなものばかりだった。



 私の回想──自己紹介が過去形になるのは、とある作戦に失敗して死んだ事になっているからだ。


 作戦が実施された理由など、私にはわからない。我々は依頼が入れば、行動するのみ。私情も感情も挟まない。「やれ」 と言われれば「了解」 シンプルに応じ、動くだけなのだ。



 私の失敗した作戦のターゲットは、金星人の社長が営むビール会社の女秘書だった。それまではミスなく任務をこなして来た私だったが、すまない⋯⋯前言を翻す事になる。ほんの少しだけ意味がわからず戸惑ったのを覚えている。戸惑いがミスに繋がった、そう受け止められても言い訳出来ないが、当時──私自身ミスを犯した覚えはない。


 異星人の存在は、私も一応理解はしていた。オカルトネタ好きな一般人が面白可笑しく想像し、創り上げた架空の存在と認識していたためだ。


 スパイ活動において、潜入先の一般常識というものはゼロから教わるため、そうした空想話があるのは理解していたつもりだった。だが⋯⋯冗談ではなく、組織は異星人の存在を現実として捉えており、彼らと関係性の深い人物の確保を目論んでいたのだ。


 ターゲットとなる女性は、白幡 由希子(しらはた ゆきこ)という、大人しい地味な会社員だった。映像からわかる見た目や装いは控えめ。目つきは悪さは警戒心の強さなのだろう。渡された資料によると勤め先の会社では能力を隠し、かなり雑な扱いを受けていたようだ。


 コード・ネームは「ジーコ」。金星人の社長が付けたというが、サッカーの神様の一人の名前を付けるとは、なかなか興味深いものだと思った。機械のように任務をこなすだけの私だったが、今回の依頼については、何となく楽しみを感じたのだった。


 私は海外の赴任地から帰国したサラリーマンを装い、日本の地へと降り立つ。任務につくため金星人らしき者たちが拠点としている地へと赴いた。冬には雪が降り積もる景色が美しい地方の都市。


 それにしても……この事務員の由希子(ジーコ)という女は只者ではないようだ。なにせ隙がない。顔を動かす事なく視線を向けており、絶えず周りの息遣いを気にしているせいで、不用意に近づくと面が割れる。


 ここまで資料通りなのも珍しい。ターゲットの相手が警戒心の強い人間など、任務(しごと)ではよくある話だが──組織⋯⋯つまり我々の国の中枢において、利害ある関係のものが、無警戒の小者なはずがない。


 首都圏に比べて人の数は少ない地方の主要都市圏。人が集まる以上、通勤ラッシュは世界共通のもの。そんな朝の憂鬱な混雑の中でも、彼女は恐ろしいくらい正確に到着する電車の席を確保していた。毎朝の通勤日の全ての日において。


 時計仕掛けのように正確な日常のサイクルを築く相手の懐へと入り込むのは、容易ではない。いくら潜入に長けた我々でも、染まりきった景色の世界に新しい色を溶け込ますのは時間がかかる。


 町中での行動は危険(リスク)がありそうだ。我々がもたもたと機会を伺う間に、彼女の環境が目まぐるしく変わる。彼女は別のエージェントの手にかかり、勤めていた会社を辞める事になった。


「日本の友好国を騙る────B国の仕業か」

「いや、親会社の真守はともかく、あの会社に外資との直接関わりはないはず」

「裏上の連中に気づかれた⋯⋯そう見るのが正解だろう」


 そんな我々組織の参謀の驚嘆の声が聞こえてきそうだ。由希子(ジーコ)のその後の動きも早い。金星の種族の金魚人達の集う居酒屋で、ビール会社の社長──金城マヤと密会し、地味な事務員時代からは考えられないくらい重要なポジションを手に入れた。


 恐るべきは報復だ。不要となった前の会社を潰す徹底ぶりと、恩を与え使える人材を確保するマッチポンプな手腕も冴え渡っていた。


 彼女には手を出してはいけない⋯⋯そう思わせる相手だと、私は一層慎重に動こうと感じていた。


 だが⋯⋯しびれを切らした上層部は、我々の報告を無視して強硬手段に出る。B国の躍動に焦ったのだろう。B国の連中は一見理知的に見えるが、単純で強引な手段に出やすい傾向がある。ミスっても本国が脅せば有耶無耶に出来る、そう考えていそうだ。


 我々としても慎重になり過ぎるあまり、目の前で獲物を掻っ攫われてはたまらない────そう判断してのGOサインなのだろう。不安はあるが、情勢を考えるとこれ以上は悠長に構えていられないのは、私も同感だった。


「ターゲットが、雪山へ出かけるらしい」

「真守の別荘か」

「護衛は?」

「部下と、別荘の使用人だけだ」

「金魚人は寒さで動きは鈍る」

「罠の可能性は?」

「ある。だが⋯⋯それ以上に好機だ」


 機は熟した。冬の寒さが増し街中にも雪がチラつく季節となった頃に、誘いかもしれない都合の良い情報が、我々のもとにもたらされた。


 ターゲットであるジーコが、雪山の山荘に黒いコスモスと呼ばれる部下と二人きりで出かけると言うのだ。街中で仕掛けるよりも、人の少ない雪山の中ならば我々にはやりようはいくらでもある。


 指令が下され、実行部隊が編成された、

雪山にある真守の別荘には、一応たまごの管理人──護衛となる者がいるが、所詮はたまごだから数には入らない。上層部もたまごは問題ないと判断したようだ。


 ────総数二十六名。私も実行部隊のリストに名を連ね参加していた。一般人を囲むのに随分人数を集めたものだが、B国の躍動が確認されたため、更に十名が待機している。一筋縄ではいかないと言う警告と、強硬手段を遂行する以上、失敗は許されないと上層部同士の面子がせめぎ合った結果だろう。


 雪山へ、意気揚々と向かう女二人。会社へ向かうのと、さほど変わらないような随分と雪山を舐めたような軽装だ。毎年地元小学校で行われる冬の遠足の施設の先に真守の別荘があるが、ターゲットに凍死されても困るのだ。


 我々はいつものスーツというわけにはいかず、全員スキーウェアに身を固め、団体客を装い彼女達に気づかれないように吹雪の中、二人の後を追う。彼女達は風上、ウェアの擦れる音や雪を踏みしめる音は聞こえないようだった────


 

 ────襲撃は失敗に終わる。実行部隊が別荘の侵入路を探す間に、突然山荘が爆発したからだ。計算されたかのように次の爆発が起こり、狙ったかのように誘導されて雪崩が起きた。



 吹雪く雪の礫よりも真っ白い轟音。ホワイトアウトに意識を失う中、私の脳裏にはほくそ笑むジーコの影が浮かんだ。全ては彼女の手の内にあったのだとわかった。


 幸い私は主力部隊から離れていたので爆発には巻き込まれず、雪崩の余波に巻き込まれただけで済んだ。雪中深く埋もれてしまえば身動き出来なかっただろう。


 私はたまたま帽子を被ったお地蔵さまの近くにいたため、雪崩の脅威に対しても無事やり過ごせた。組織の焦りに、何となく危惧するものがあり、自然に身体が危険を嗅ぎ分けてくれたのか、お地蔵さまが助けてくれたのか⋯⋯?


 この時の記憶を辿ろうとすると、頭の中が真っ白な雪のように染まり、思い出せなくなる。


 雪山で起きた爆発は当然伏せられ、雪山によくある雪崩事故によりしばらくこの辺りは立入禁止となるはずだ。


 私は埋もれた雪の中から這いずり出て、帽子のお地蔵さまに礼を言う。そして重たい足取りで吹き飛んだ山荘の方へと向かう。生き残りは私だけなのか、他の部隊員の姿は見えない。B国の連中の姿もないのは幸いだった。


挿絵(By みてみん)



 既に吹雪は落ち着き、陽が傾いていた。薄っすらと雪を照らす三日月の明かりを頼りに、私はゆっくりと足を進める。


 ようやく辿りついた山荘は、雪崩で建物が完全に倒壊していた。残された暖炉の前で何故かただ一人生存し、静かに佇むたまごの姿がやけに美しく感じた。


 ⋯⋯たまご?


 いや、よそう。このたまごが何物なのか、今の私にはどうだっていい。ターゲットのジーコはどうなったのか。調べる気にもならないくらい、山荘は吹き飛び、雪に埋もれていた。


 私は何も言うことが出来ずに、小さな炎をあげる暖炉の前に立つ。不思議な暖かさだった。帽子のお地蔵さまと同様に、何か特別な力でもあるのか、暖炉前だけは雪が溶けて消えていた。


 たまごは無言で、私にたまご酒を振る舞ってくれた。長い事この国に潜入してわかるのは、人の心の暖かさだ。こいつはたまごだったが。


「⋯⋯⋯⋯生き返るようだ」


 ────あたたかい。フゥッと息を深く吐き出す。空腹と寒さに、染みるようなたまご酒に、思わず声が出た。


 人の温かさに触れるのは、エージェントに加わる前────もう五年以上も前か。


 作戦に失敗した私は、もうあの頃には戻れない。親しくはなかったが、同じ祖国のために任務についていた仲間たちを大勢失った。偶然たまたま私一人生き残り、事の成り行きを話す役割が残っていたが、報告を最後に死を与えられるに決まっていた。


「最後にたまごに会えて良かったよ」


 功を焦り判断を見誤るような組織に未来はない。私は彼らに始末される事より、自ら幕引きをはかろうと思った。


 誇りを胸に人らしく尊厳を保ち、己の生命を絶とうとした────その時だ。



 たまごが私に向かってスッと差し出したのは……一本の串。


 白い泥とした塊。甘い香りが焦げ臭い暖炉の臭いと混じる。


 暖炉の炎に焼かれ別な焦げ臭いが鼻をくすぐる。串先の白い雪のような食べ物は、丸くフワフワ。甘く柔らかく蕩ける美味さ。

 

 そうか⋯⋯祖国はもう私を必要としていないのだな。無謀な作戦は裏切りの首切り。私は封印して来た感情を取り戻した────


 そして私はエージェントとして死を迎え、老舗の三日月堂で、マシュマロを使った和菓子を作る見習いになったのだった。


挿絵(By みてみん)


 二度の爆発と雪崩で大量のエージェントを失った母国は、B国と裏で手を組む事になる。強力なパートナーを得た彼らは、再びこの地を脅かす存在になるだろう。


 私は和菓子を美味しそうに食べる子供達のため、そしてあの人の笑顔のために、この地の平和を守ると心に誓ったのだ。


 ────老舗の三日月堂で働く私の存在など気づいてもいなかったように、かつてのターゲットの女⋯⋯白幡 由希子(しらはた ゆきこ)と、彼女の親友で私にとって愛しの対象となった黒里 桜子(くろさと さくらこ)がやって来る。明るい笑顔に私の心は雪が解けるように癒された。


 あの爆発と事故、そして雪崩が起きても傷一つ負うことなく生還している二人と我々では格が違うのだろう。完全に敵対していたのなら、組織より先に私は消されていたはずだから。



 ────結局あのたまごが何者だったのか、私にはわからないままだった。



※ この作品は、なろうラジオ大賞5にて投稿した作品を元に連載版に加筆収録したものを、なろうチアーズプログラム投稿用に大幅に改稿、加筆した作品となっております。


※ この作品のリュウは元々リーでしたが、リュウへと変更しました。


※ 話数を合わせるために、このお話を割り込み投稿しております。

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