閑話 始まりの物語 「心霊スポットの罠」
大学生になった進藤啓斗は、友人の滝田伸之とともに、オカルト研究会に入る事になる。
研究会の会長を務めるのは、一年先輩の真守葉摘。美人の先輩につられて入ったはいいが····。
公式企画、夏のホラー2023の八作品目の投稿作品を収録したものとなります。
まずは自己紹介をさせてもらおう。俺、進藤啓斗はとある大学のオカルト研究会に所属している大学一年生だ。
研究会には二年生の先輩、真守葉摘という美人の会長、それに同輩の滝田伸之がいた。
俺と滝田は高校時代の同級生で、仲が良く趣味も良く合った。学校の成績も似たようなもので、近いからという理由でこの大学へと進学したのだ。
ぶっちゃけオカルト研究会なんて、興味はない。いまどき幽霊だ、怨霊だなんて話はバカバカしいと思っている。
じゃあ何でオカルト研究会に入ったんだって?
それは始めに言ったように、美人の研究会会長────葉摘先輩に誘われたからだ。真守葉摘という先輩は頭もいいし、スタイルも抜群だ。断れるヤツはいないだろう。
ただ彼女はオカルト狂いという名の⋯⋯病気だ。オカルトなんかにハマっていなければ一流大学にいてもおかしくない。いや、あえて俺のようなやつが入れる自由な大学に来たのだろう。
俺と滝田は、オカルト先輩の勧誘にあっさり乗った。こんな機会でもないと、彼滝田の考えはわからないが、俺はこのままだと、彼女どころか大学生活も寂しい野郎二人になりかねないと思ったからだ。
「⋯⋯ちょっと先輩、これだと俺がかなり悲惨じゃないですか」
オカルト研究会の目玉は映像だ。説得力のある写真や映像を撮って、サイトに配信する。その手の映像はこの世にいくらでも溢れているし、最近ではCGやAIまで駆使したリアルなものまである。それらに比べるといくら生々しく撮ろうとも、刺激は弱い。
「何言ってるの。男、進藤啓斗のデビューだよ。生い立ちはカットするんだから、もっとこう闇女に好かれそうな表情を寄越しなさいな」
「闇女って、病みかよ」
研究会を止めていく者が多い理由がわかっただろうか。闇に好かれそうな顔ってなんだよ。ただ真剣な葉摘先輩の顔が好きで、思わずニヤける。
「良い表情、出来るじゃない」
邪な妄想が表情に出た。滝田のやつ、音声に入らないように引き攣りながら笑いを堪えてやがる。似たもの同士だから、俺が何を考えたかわかったんだな。
俺達は葉摘先輩の下調べをした資料を元に、朽ち果てた廃屋のあるひと気の少ない山道を進んでいる。いわゆる心霊スポット。部屋で撮っていたのは導入部分に使うわけだ。
この心霊スポットでは、最近物騒な噂が流れており、夜中に怪しい物音が鳴り響くらしい。葉摘先輩はカメラで撮影役を、滝田は照明と荷物持ち、俺はストーリーテラー役を任せられた。俺より、葉摘先輩がやった方が配信でも稼げるのに。
そんなわけで雰囲気を出しつつ、廃屋までやって来たのだ。田舎の山の中とは言っても、あたりには人が住んでいるので一応街灯は点いていた。
俺達は暗がりで転ばないように注意しながら進む。廃屋は随分古くて、ドアが壊れ中に入れた。
「先輩、これ不法侵入になるんじゃないの」
法律に詳しくないのだが、廃屋とはいえ他人の敷地。大学生にもなって知らなかった、ごめんなさいは通らないと思う。
テレビの撮影や有名な配信者なら、事前に土地の所有者などに許可を取っているものだ。俺達は正統派のオカルト研究会なので、アポなしの迷惑配信者のような振る舞いはマイナスになる。
「許可は取ってあるよ。だから安心して逝きなさい」
「言葉ではわからないがディスったよな」
「真守先輩、そういう所ですよ」
俺と滝田は苦笑いを浮かべる。こういう場所で、そういう言葉を発するから新入り会員が引いて逃げるのだ。最近辞めた新入生はガチで泣いていたよ。
廃屋の中に入り、雰囲気のあるそれらしい所を見つけては怖がって作り笑顔ならぬ作り怖顔で使える画を撮る。
リアル配信とはいいつつ、時おり先輩が配信をジャックする形で状況を説明している間に、滝田が仕込みをしたものをそれとなく動かす。
今回は火事にならない程度に紙片を燃やして煙を発生させて、俺へと煙を流すことにした。
完全にやりにいった演出なわけだが、葉摘先輩はグッジョブとばかり指を立てた。オカルトマニアがそれでいいのかよ⋯⋯と最初は思った。ただ、そうやって出やすい環境を整えてやる事が、幽霊や怪物を呼ぶ助けになるのだそうだ。
「あれ⋯⋯なんか外から悲鳴のような音がしませんか」
「機械の音か⋯⋯?」
「車とかではないよな」
俺は先輩と滝田を見る。二人ともブンブンと、首を横に振っているから仕込みではないらしい。
「外に出てみようか」
率先して探りに動く先輩。女ながら、こういう時でも頼もしいんだよな葉摘先輩は。ただ俺達が外へ出ると悲鳴のような音は小さくなり、離れて行く感じがした。
「逃げられたんですかね」
滝田が音の正体を探ろうとあたりを見回す。古い街灯一つでは何も見えないに等しい。持っているライトは撮影の邪魔にならないように、演出に最適な光量の低い百均のライトだけだ。
「まあ収穫はあった。帰るとしようか」
画は取れたし街灯の近い廃屋よりも、何もない帰りの山道の方が暗くて危ないのだ。
撮影はすでに止めているのに、帰る足取りは重い。なぜなら遠のいっていったはずの悲鳴が、まるで俺達という獲物を見つけたかのように近づいて来ているからだ。
「先輩⋯⋯やばくないですか」
ひと息に近づいてこないだけマシかも知れない。暗い下りの山道で足を絡ませ、転んだ瞬間にバクっといかれないか、不安になる。
葉摘先輩はともかく滝田の口数が、少ないのは俺と同じ事を思っているのかも。俺たちは急ぎつつ、でも慎重に帰路についていたはずだった。
山道を降るだけなのに妙に長く感じるのは追いかけてくる音のせいかもしれない。幽霊なんか信じていないはずなのに、何かがいるかもしれないと思うと怖くてたまらない。
先を歩く俺は不意に何かに足を取られて転んだ。石か何かに躓いたのではなく、明らかに足が引っかかった。
その後ろを歩いていた先輩も足を取られ、倒れていた俺を踏みつけた。
「ゔぐっ」
妙な呻き声を出してしまったけれど、葉摘先輩が体勢を持ち直し、怪我をしないで済んで良かった。
「これは釣り糸か? 来る時はなかったよな」
転んだついでにしゃがんで、足を引っ掛けたものの正体を見つける。誰かの嫌がらせだろうか。そう思った瞬間、足音が耳に届き、頭を強く殴られ俺は意識を失った――――。
「────気がついたかね?」
葉摘先輩の声が聞こえた。病室なのだろうか。白い天井や壁と、俺の頭の近くに先輩の姿が見えた。ズキッと頭が痛む。いったい何があって俺はここにいるのか、あの心霊スポットの帰りの夜道を少しずつ思い出した。
「進藤君は暴漢に襲われたのだよ。今回は人数が多かったから焦ったんだね」
葉摘先輩がなにを言っているのかわからないので説明を求めた。
「君には申し訳ないけれど、心霊スポットを荒らす連中を潰すための、囮になってもらったわけさ」
「えっ⋯⋯あのやらせ配信は嘘?? どういう事ですか先輩。そういえば滝田は?」
葉摘先輩が無事なのは良かった。けれども滝田の姿が見えない。葉摘先輩は首を振り、神妙な面持ちで話し始めた。
「まず、あの場所が心霊スポットと言うのはデマだよ。監視カメラのないそれっぽい場所でそういう噂を立てて、肝試しをさせて犯罪を侵す輩がいるわけだ。今回は彼らのやり方を逆手に取って、私が心霊スポットを仕込んだわけだな」
葉摘先輩はろくでもない連中を罠にかけるために、あの廃屋を選んだ。悲鳴のような音は、暗視カメラを備えたドローンの飛行中の音だった。まず近隣の住人近くで何度かドローンを飛ばして、噂の下地を作ったそうだ。
心霊好きの検証犯があとは勝手に広めてくれる。検証の結果、悲鳴のような音は近隣の農家が害獣よけのサイレンの音らしいと事実を添えて。
あとはオカルト好き、肝試し好きの配信者が噂を聞き、ネタにして面白おかしく情報を勝手に広めて流してくれる。
「種は撒いたからあとは収穫するだけさ。助手がわりに誘った二人の内の一人が、退治したい本命の仲間だったのは想定外だったよ」
こうした心霊スポット好きを利用した犯罪に、オカルト好きの葉摘先輩は怒っていた。ブレない先輩があんな雑な演出するはずがなく、俺は逆に安堵した。
場所が場所なので、犯罪を侵しても証拠が残りにくい。暴行犯達を罠にかけるのは簡単だったようだ。
滝田のやつは⋯⋯つまりそういう事だ。始めから葉摘先輩目当てなのだけど、俺と滝田では目的意識に差があったようだ。仕掛けた側の先輩が無事だったとはいえ、憧れの先輩を穢されたようで悔しい。
滝田のヤツは俺を気絶させた後に、潜んでいた仲間三人と葉摘先輩を犯そうとしたようだ。先輩が無事なのは罠を張っていたくらいだから、それを想定して用意があったのかもしれない。
先輩側も警察や仲間を潜ませていたのかな。俺としてはやられ損、それに仕掛け人とはいえ、先輩一人残して気絶とか情けなかった。
「君がとても良い演技だったからこそ、掛かったのだ。誇っていい。ほら、君の勇姿もカメラに収めてある」
なぐさめのつもりなのか、俺の情けない姿を記念に撮って何度も見返したと喜ぶ先輩。
「あぁ、それでドローンなんですね。でも現場の証拠を映すのに、最新式なら音も出ないのあったんじゃないですか」
「あの金切り声のような音がちょうどいいのだよ。建物の中や静かな山間だとよく響くからね」
オカルト研究会の同士が辞めていく理由もわかった。毎回とは言わないが、こうした罠ありきのハードな撮影があるからだ。
「進藤君はタフそうだし、続けてくれると助かるよ」
少し冷たい小さく細い柔らかい手が俺の手をニギニギする。葉摘先輩に手を握られそう言われると、痛みを忘れて騙されたくなる。でも証拠がないからと殺される可能性がある役回りなんだよな。
「捕まった奴らは傷害と婦女暴行未遂程度だから、すぐに出て来ちゃいますよね」
また狙われるかと思うと憂鬱だ。報復もあるかもしれない。しかし⋯⋯俺の質問に葉摘先輩がキョトン? とした顔をしている。
「滝田とか、捕まったんじゃないんですか? もしや⋯⋯逃げられた?」
犯罪者側は人数もそれなりにいたようだから、全員捕まえるのはさすがに無理があったのだろう。
「なにを言ってるのだね、進藤君。一緒に帰った証拠は撮ってあるのだよ?」
葉摘先輩と会話が噛み合ってない。いや、この人わざと言葉を濁している?
真守葉摘は何のための証拠を残そうとしたのか。普通に考えれば、オカルトファンを襲う暴行魔を退治するために映像を撮るだろう。
だけど⋯⋯彼女は違った。あくまで葉摘先輩はオカルト好きであって、ホラーはそれに付随するだけの認識だ。神秘性を感じる場所に、心霊的なものが加わるのはよくある事だと理解もしている。
暴行魔を退治出来れば、彼らがその後どうなろうが、さして興味はないらしい。葉摘先輩を襲った滝田以外の連中は廃屋で焼死体の姿で見つかった。別のホラー系配信者が、撮影しにやって来て見つけたという。
あの時、煙の演出は行ったが廃屋は燃えていない。俺はしっかり消火も行った。殴られた後の記憶は当然ないが、あの短時間で、その場で燃やすのも難しい。外部から運び入れたのだとしても、どうやって崩れやすい遺体を運びこんだのかさえ謎の状態だったらしい。
俺は出血はあったものの二日ほどで退院した。そのまま変わらずにオカルト研究会に残り、葉摘先輩の助手を務めている。あの件⋯⋯どう考えても脅し、拒否ればどうなったのか知りたくはなかった。ただ俺自身、この事件を機にオカルトに興味を持ったのは事実だ。
死んだ連中によって被害を受けた人達がたくさんいる。人知れず亡くなった方もいると思うと、俺ごときで善悪の判断など出来ない。
────滝田はあれから姿を見ていない。連絡のつかない事で不審に思った家族が、捜索依頼を出していた。警察関係者と共に一人暮らしをする彼のアパートへも行ったらしい。
部屋はもぬけの殻、消息不明の滝田の手がかりは残されたパソコンだけ。
警察に預けられ内部の情報を調べた結果、闇サイトへのアクセスと暴行魔達とのつながりが見つかる事になった。
廃屋の焼死体の身元は判明したが、消息不明の滝田が犯人かどうかは現在も捜索中とのことだった。
お読みいただきありがとうございます。この【心霊スポットの罠】 は、真守葉摘シリーズの原点となった作品となります。




