第五話
☆前話と時を同じくして、視点は月影ルナに移ります
早朝。まだ朝日が昇る前。普通の中学生であればゆっくり眠っている時間だが、ルナは本日校外学習ようの弁当を自分で作るとして早起きしていた。これはルナの母親からの提案であり、一緒に作ってみない?と誘われていた。
「えーと、こんな感じ?」
「そうそう。やっぱり上手ね。もっと上手になればオオバミ君の胃袋もがっつりつかめるわ」
「頑張る!」
もくもくと弁当箱の中に料理を詰め込んでいく。彩もよく、栄養のバランスもいい。さらに言えば、今回は冷凍商品もない。普通に考えてこの年で作れる弁当のレベルから考えると相当高いものになっている。実は、小学生のころからルナの母親はルナに料理を叩き込んでいた。
「もうだいぶ時間がたっちゃったわね。荷物はしっかり準備してる?」
「昨日のうちにしっかり準備しちゃったからね。あとはお弁当と水筒と・・・今回はスマートフォン持ち込み可なんだって!景色がいいって聞いたし、いっぱい写真撮ってくるね!」
「楽しみにしてるわ」
そういって、ルナはリュックを背負い玄関から出かける。学校までは徒歩で15分ほど。それほど遠くないが、駅前なので朝から車の通りも多く、少し早めに出ておけば何があっても心配は少ない。しかし、時期はまだ春前。手袋やマフラーがなければまだ寒い。白い息を吐きながら足早に学校へ向かう途中、クラスメイトと合流した。
「ルナちゃん!おはよう!」
「おはようみぃちゃん」
ルナに話しかけたのは、桐上見代。ルナからはみぃちゃんと呼ばれる女の子である。きりっとした美人系のルナと比べると、見代はユルフワかわいい系女子といったところか。二人はクラス・・・というか、学年の中でも相当レベルの高い女子である。普通に狙っている男子は多い。そして、見代はそう言った事にあまり知識がないためルナが守る、といった形でいつも一緒に移動している。
「おはよう月影さん!桐上さん!」
「おはよう」
「あ!おはよ~」
そしてここにも、狙っている男子。二人を見かけて手を振ってアピールをする姿は人によってはあまりに必死に見えるだろうが、中学生の恋愛などこの程度の物なのだ。さらに言えば、まだ周りの人間に行っていないだけで、ルナはオオバミと付き合っている。それを知った人物が見れば、さらに滑稽と思うだろう。
ちなみに、ルナは適当に、ぶっきらぼうに挨拶を済ませて学校に到着しているバスに乗り込んだ。隣はもちろん見代。キャッキャと会話をしていると、時間がたち、出発の時間となる。
「そういえばみぃちゃん、私ね・・・彼氏できたの」
周りに聞こえない小さな声で、見代にそう伝える。見代は少し驚いたような表情を浮かべるが、にっこりと笑って『おめでとう!』と自分のことのように喜んでくれた。
「彼氏さんって、どんな人?」
「えっとね、すごく優しい人なの!家の近くのスーパーでアルバイトしてた人なんだけど、声もかっこいいし、私のことを思って色々行動してくれてるし・・・私の好みそのものなの!」
「いいね!写真とかってないの?」
「これ!バイトしてるところなの!」
そういって差し出した写真は、完全にアルバイトをしているオオバミの姿だった。だが、少し待ってほしい。オオバミと付き合ってからまだ一週間と立っていないルナが、なぜオオバミのアルバイト中の写真を持っているのか。以前のオオバミの発言を思い出してほしい。前日のデートまでの間で、彼は一度もアルバイトに入っていない。よく写真の撮られた日付を確認してみれば、二人が付き合う数日前の写真である事が分かるだろう。
しかし、二人の関係を深く知らない見代にとっては、頑張っている彼氏を撮った一枚と思えるあろう。
「おお!優しそうな人だね」
「でしょ!昨日もデートしてね!」
そうして、バスでの道中はあっという間の過ぎ去っていった。目的地に到着し、二人は移動の班に分かれる。班のメンバーは男女二人ずつ。クラスメイトのためある程度の関わりはあるが、そこまで深くはない。今回の班分けは名前の順となっているため、一番仲のいい見代と一緒になることはできなかったのだ。
「まずはあっちのほう行ってみよう!」
「わかった」
男子の指示を聞き歩き始める。周りは普段家の周りでは見られないような自然あふれる公園。今日は晴天のため近くの山がきれいに見える。それを一枚、パシャリと写真を撮るとそのまま歩き続ける。
男子たちがちらちらと、会話の機会を探っているが、ルナは凛とした態度で見ているためなかなか話しかけづらい。最も、ルナが元から話をまともにするつもりがないためどれだけ勇気を出してもその覚悟はすべて無駄になるのだが。
「はぁ・・・オオバミさんときたかったなぁ」
一人愚痴る。しかしそのつぶやきは誰にも聞こえない。というか、聞かれたらまずいので静かに言うようにしていた。
「時間になったので1時30分まで昼休憩とします!各自持ってきている弁当を食べてください」
「俺たちはここら辺にするか。レジャーシート引くから誰か手伝って」
「手伝いますよ」
そっとレジャーシートの端を持ち、リュックを置いて重し代わりにする。広いレジャーシートは班メンバー全員が座れるほどだ。各々置いたリュックから昼食を取り出す。ゆっくりと食べ始めたルナはふと思い出したようにスマートフォンを取り出すと、昼食と風景を撮る。
そして、『オオバミさん!これ、今日のお昼御飯です!自分で作りました!』と送る。さっきまでの雰囲気とは大違いで、明るい雰囲気の文面。ニコニコで連絡をするルナに気が付いた班の男子は話しかける。
「月影さん、風景撮ってるの?お弁当もおいしそうだね!」
「え?ああ、はい」
「あ、うん」
そして、会話が終わる。話しかけた瞬間ニコニコ笑顔が剥がれ落ち、スンとした表情になる。話が終わると、またニコニコ笑顔を取り戻す。どう考えても、男子に興味がないとわかる態度に話しかけた男子はがっくりと項垂れた。
そのまま連絡を終えると、風景を眺めながら自分で作った弁当を食べきる。内心で『我ながら上手にできたなぁ』といったことを考えていた。
「午後は少し見回って帰ることになります!なるべく思い出に残るように。あまり何度も来れる場所ではないので、最後まで楽しんでください」
残念ながら、ルナからしたら殆ど一人で回っているようなものなので、あまり楽しめないが、今度オオバミと改めて来たいなぁ~と考えていると、時間になる。あまりに早くたった時間に若干驚きながらも、まあこんなもんかとバスに乗り込む。
「ルナちゃん!楽しかったね!」
「そうだね。良い景色が一杯取れたよ」
「そうなの?見せて!」
二人でスマートフォンに取った写真を見合わせる。女の子らしくキャッキャとしていると、ふと思い出したようにルナは調べごとを始めた。
「ねぇ、運転免許って何歳からとれるんだっけ?」
「え?わかんないよ」
「そうだよね・・・あ!18歳だけど、これ・・・わかりづらいな。誕生日の何か月前とか、もっとわかりやすく書いてくれればいいのに」
「でも急にどうしたの?車運転したくなったの?」
「ううん、オオバミさんって免許持ってるのかなって。それで、免許が何歳からとれるのかなって思って」
「そこに書いてる感じだと、オオバミさんはもう持っててもおかしくない年齢ってこと?調べるより直接聞いたらいいのに」
「オオバミさん、今日はバイトだし色々話しかけたらずっと話したくなっちゃうの。だから、聞くのは明日にする。でも・・・やっぱり会いたいし家に帰ったらジュース買いに行く!」
見代は内心で、『やっぱりこの子、愛が重い・・・』と。普段からぽわぽわしている性格だが、人の内心を見抜く能力はそれなりにある。そして、そこそこの付き合いが長いルナの、時々見せるメンヘラに近い行動を彼女は面白いと思っている。
「私もルナちゃんみたいに大好きになれる彼氏が欲しいなぁ」
「みぃちゃんなら多分告白はいっぱいされると思うよ。でも、変な人もいるから、しっかり見定めないとね」
「うぅん、できるなら私から見つけたいなぁって」
女の子談義が進み、帰宅する。荷物を片付け弁当箱を洗うといい時間になる。この時間なら、うまい事隙をついてオオバミのレジに並べる。いつも飲んでいるジュースを片手に並ぶと、予想通りオオバミのいたレジに並べた。
そんな楽しい一日が、今まで出会った誰よりも愛しい人との毎日が、ルナにとってかけがえのないものになっていく。決して失いたくない。決して手放さない。そう決心したルナはスキップしながら自宅に帰っていくのだった。
ルナちゃんは(精神的に)重い女の子です。でも、作者的にそういう子が好みです。
さて、いやな行動するお客さん二号は「聞けないおじさん」です。
妖怪みたいだって?いやいや、マジでいるんですよ。うちのレジ、セミセルフっていうスタンスなんですがこれがまた厄介なんです。特定の支払い方法はすべてレジの隣に並べてある精算機に回されるんですが、これの使い方が分からないお年寄りは、ずっと精算機の前に佇むんですよ。音声ガイドもあるのに、使い方が分からないからって。
わからないなら聞いてくれよ!そんで「使い方教えましょか?」って聞くと「早く教えてくれよ」という始末。もうなんというか、こういう大人にはなりたくねぇなって思う瞬間です。
良いですか?わからないなら、わからないと言いましょう!聞くことは恥ではありません。質問し、しっかりと理解し、次につなげることが一番大事です 以上、作者の体験談その2でした!