No.35' 傾奇者らの宴
大抵のことは決めてるはずなのに何故か構想を練り直す日々
春の国には二つの王家と三つの英傑の家系がある。王家の方は言ってしまえば痴情のもつれのようなもので血筋で考えれば同じようなものなのであるが、英傑の家系は違う。第一次魔神戦争と第二次魔神戦争の立役者、灰神楽家半田家天道家ことスターレール家。其々圧倒的な武力、膨大な創造性、王家の一つ星海家の分家であり、神に最も愛された一族。三者三様の力を見込まれていた。政治の国である春の国に於いて、自衛力、経済力、国民をまとめるカリスマ。彼は役割が被ること無く半永久的に繁栄していった。その均衡が破られたのはとある人物の台頭だ。灰神楽叢雲。歴史に名を刻む事を拒まれた一体の化け物。彼によって春の国は完全なる軍事国家となり、使えないと判断された人々は国を追放された。そうして追放された難民により夏の国ができたのだ。長い月日を経て王族が政権を取り戻した後、次に均衡が崩れたのは背神の世代と呼ばれた時、灰神楽紅路、半田刀寿の生まれた年。彼らは従来の英傑の家系とは違い自由を求めた。国を去り、魔のものを殺し、好きに生きた。それが災いとなり二人は呪いを受けた。灰神楽紅炉は忘れてはいけない記憶を失くし、半田刀寿は仮名を失った。そして其々を補うように灰神楽紅炉は仮名を背負い、半田刀寿は大切な者に於いてのみ仮名を取り戻すことができた。これはそのうちの一人、半田刀寿の物語。
夏の国から5000km程北西、半田棘は燃える赤髪を振って草原を駆け抜けていた。彼女の役割は雑兵の制圧と春の国、ひいてはアスタリスクの封鎖だ。当然一直線に春の国を目指すのだが、後方から突如として発散された高濃度の『ナニカ』を感じ取りその時半田棘は脚を止めた。
(今のは神の御業?いや、神が人同士の戦争に介入する事は無い。じゃあ神秘?それも違う。いくら神に愛された人間であろうと多少は人の魔力が生じる。さっきのはそれが無かった。まさかアスタリスクの月弦弓が…そうなら尚更私がここで立ち止まるわけにはいかない。)
時間にして僅か5秒といったところか、その余りに長い間に見知った顔が目の前に立っていた。
「久しいな棘。あの時から何年経ったか、随分成長したみたいだな。」
「…半田刀寿?何か用。私はそんなに暇じゃないんだけど。」
「棘。お前は何を知ってるんだ?」
半田刀寿は何も持たない手持ち無沙汰な両の手を懐にしまい、敵意も殺意もなくただそこに立っていた。
「お前には何が見えている?俺にはそれがぼんやりとしか分からない。」
半田家は何も真実の神を信仰する家系ではない。寧ろ火之迦具土を信仰している。そんな中半田棘は真実の神トュラーの眼を持ち、契約という形で信仰している。故に半田家の人間が世界を知り得る事やましてや超越者になる機会が多くなる事は無い。しかし全ての真実を知る棘も一つ知らない事があった。それは『真実を知った事で自分は超越者になったのか』それとも『超越者だから全ての真実を知り得るのか』だ。もし前者が真実なのであれば、今半田刀寿は超越者になろうとしているという事だ。世界の均衡を、この瓦解した世界の均衡をまた乱そうとしているという事だ。
「貴方がそれを知る必要は無い。言いたい事は終わった?後ろが心配だから殺してでも前に行かなきゃなんだけど。」
「俺としても…ここを通すわけには行かない。お前には生きてやって貰わなければなら無い事があるからな。五体不満足になろうと後衛にお前を送る。」
そうして棘は地面に手を当て、刀寿は両の掌を合わせた。
「穿つ棘。」
「型破騎。」
棘の中心に地面から金属の棘が伸び、刀寿はそれをいつの間にか握りしめていた刀で斬り伏せた。
「これは何年か前に言ったが、俺より高い硬度と切れ味を持った金属を生み出せないのなら、どれだけお前が意地に根を伸ばそうと俺に届くことはない。」
夏の国最高戦力五騎の一人として、戦闘において最強の名を馳せた姿はそこにはなく。天敵に遭遇してしまった哀れな小動物が必死に牙を尖らせていた。
「前までならそうかもね。でも私は半田に縋る気はない。刀で勝負出来ないからアイシスから絡めてを学んだんだ。」
刀寿が足元の違和感に気づいたのは、そのセリフが言い終わった直後だった。いつの間にか刀寿の足は鈍色の何かによって固められていた。
「それは鈴、少し加工しているけど。私の魔力有効範囲内なら自由に液体と固体を切り替えられる。鍛冶師名乗るなら飛んできた金属の種類くらい直ぐに分かるようになることだね。」
刀寿は即座に持ち前の剣で足にまとわりついて固まった鈴を斬った。一流の鍛冶師である上一流の剣士、それの一連の動作は素人の棘が見ても美しいと思う剣筋だった。『大業物鳴日雀。』刀寿もまた全力で棘を止めようとしている事がわかる。
(あいつの名指しは同じ刀を永遠に作れるわけじゃない。鳴日雀を破壊すれば私のメタルピアスは対応出来ない筈。)
「曇天格子。」
棘は再度地面に手を置き、それと同時に辺りから金属の針が張り巡らされた。
「往生際が悪いな。」
刀寿も再度その鳥籠を切り捨てようとしたその時、棘の曇天格子は赤く光った。
「赫棘!」
糸は棘を中心に高熱を帯び始め、刀寿の刀である鳴日雀もその熱に溶かされた。だなんてそんな事は無く、ただ単純に、当たり前にそれらは曇りどころか雨となって降り注いだ。
「もう良いだろう。お前にはやって貰わなければ──」
刀寿が愛刀を鞘に納めたとき、彼は今までで最も強い魔力を感じた。目を向ければ棘の赤い髪は燃え、手にはとても刀とは思えないほど厚い剣が握られていた。
「あんたさ、最近まで冬の国に居たらしいね。あの時、冬の国が壊滅したとき、あんた何処で何してたの?」
その答えは、何よりも目が口程に物を言うのだった。
お久しぶりです、テスト期間だったものです。
今回と次回(もしかしたら途中で何か回想やるかも)で刀寿と棘の話は一区切り、というか構想通りなら終わるわけですが、多分この作品で最も設定を変更したのって棘と刀寿なので泣く泣く一話で終わらせるのを断念しました。中学生且つ初めて小説を書くので初期の話がどれくらい読者の皆様(という程の人数はいない)方に伝わっているかは分かりかねますが、初期構想のままなら刀寿は棘のカマセ要員で棘はまた別のカマセ要員になる予定でした。なんなら棘をさっさと殺して展開を進めようとしてました。棘の名指しも初期構想がだと『紐づける能力』でした。刀に髪の毛を媒介にしてその人の魔力流してあれです(確認面倒なのでしませんが多分「鋳造」あたりです)。それがいつの間にか液状の特殊な金属(鈴が主成分だが硬度は鋼くらい)を操るというものに。これも元々半田家相伝の魔法のつもりだったんですが、奇跡的に操る(あや蔓)という棘に意味がかかったので棘の名指しって事にしました。
次回予告、次回No.35α、鉄の傷名
の予定です。




