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鈴音  作者: R a bit
鈴の音は遥か彼方へ
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番外3、灰神楽夢幻の灯火

とりあえず三章までは書ききりたいですが最近モチベがありません。正確にはこの作品を書くモチベがありません。

他人の生い立ちの話を、本人もきっと思い出したくないであろう記憶を、こうして特に関係のない人間が綴るということへの罪悪感を飲み込み、今私半田棘(はんだいばら)はとある少女の物語を回想する。例にもれず物語方式でだ。

短くなるかもしれないし長くなるかもしれない。

それでも私はこうして文字に彼らを書き起こさねばならない。これを読んでいる人の世界で魔法が存在しているとは限らないからだ。ただそれ以上に私は彼らが生きた証を残したいだけでもあり、あるいは彼の真似事をしているのかもしれない。認目綴(したためつづる)、彼の話をするには時間が足りないし今するべきでもない。話を戻すと(というほど長文を書くわけでもない)これはとある化け物が少女になる物語の始まりであり、少女が化け物として生きていく覚悟を決める話でもある。私の語りはここまでだ。








「…女か。しかし兄弟の誰かの子を産ませればいい話だ。よくやった(かんなぎ)、暫く休め。」

「はい…ではこの子をお願いします。」

(誰かが喋っている)

あの時確かに、私はそう感じた。

言葉をただの音ではなく、何か意味のある物だと認識していて誰かという自分以外の存在を認識していた。

てもそんな感覚は生まれたその時だけで、次に私が確かな生と自我の実感…というよりそれを覚えているのは一歳になるかならないかの時だった。

「今、何をした…?」

険しく、恐ろしく、厳かに顔の皺を濃くした父親が私の腕を掴んだ。

まだ腕力と言うのは弱々しすぎる子供の腕では、50近くの男性には当然逆らえず、持っていた玩具を落としてしまった。

なんてことないただのでんでん太鼓だった。

その当にでんでん太鼓だった物が、バラバラになって床に落ちた。

「ぁ」

何をしようとしたわけでもなく、反射的に抵抗しようと、何かもがこうと脊髄に身を任せただけだった。

力を込めて細くなった父親の目が、突如として丸くなって私の手を突き放した。

「誰か!夢幻を殺せ!!」

泣き喚く私にとても自分の娘を、人を見ているとは思えない目で父親は只管嫌悪を露わにしていた。

「うっせぇなクソジジィ遂にボケたか?夢幻はまだ赤児同然だろ、殺す事への賛否は別として、やるなら責任持ってテメェで落とし前つけろ。」

何故当時の私は泣いているのにここまで意識と記憶がはっきりしているのか、それはわからないが確かに私の兄である灰神楽紅炉がその場に現れた。

「紅炉か…コイツに触れた瞬間魔力が消失した、六恩を持っている可能性がある。」

「六恩だぁ?確かに目や髪は黒だが、陰属性に特化しているか、色が混ざっている可能性のが高いしそんなんで不吉さを家族に向けるなって言ったたのはジジィの方だろ。ジジィ魔力すくねぇし、癇癪起こした夢幻の魔力量に押し負けたんじゃねえの?」

その日から、私は家の一番奥にある狭い部屋に入れられ、時折母親が会いに来る生活を送ることになった。

3歳の誕生日を1人で過ごした次の日、誰かが襖を開けた。

燃えるような赤髪にオレンジの瞳、焼けた肌を強調する体中の筋肉、あの日以来会っていなかったが一目でその人物が兄の紅炉であると理解した。

「夢幻、静かにそのまま座ってろ。悪いようにはしない。」

紅炉は私にそう伝えると、襖に隠れて見えなかった誰かに目で前に出るように促した。

動いている筈なのに見えない影に疑問を抱くほど、当時の私は聡明ではなかったが、そのもう一人の人物が只者ではない事だけは確かに分かった。

おかっぱ頭で市松人形見たいな可愛らしい女性が、作り物のようなぱっちりと開かれた光のない目を少し細めた、わざとらしくて嫌らしい笑みをもって私を見下ろしていた。

「紅炉に妹が出来たって聞いて来てみたら、なんやこの娘ほんまに人間なんか?」

目の前の誰かは忌み嫌うようなセリフと表情のまま、ペットの犬や猫を撫でるように私に手を伸ばした。

「おい夢幻に触れるな、お前の場合最悪死ぬぞ。」

「ん?あぁそうやったね。でもうちとしては身を持って実験したいところなんよ、本当にこの娘が六恩の一つ無幻(むげん)を所有してるんならその効果がうちにまで広がる事はない。ムゲンの効果は本人の魔力にも適応するからね、実質的な魔力有効範囲は本人の体内に限定される。消化器官は別なんやけどね。」

長々と語る目の前の人物に呆れてか、紅炉は私に小さな石を投げた。

綺麗な弧を描いて私の手の平に落ちたそれは、魔力を圧縮した魔石だった。

「夢幻。それに魔力を流す事はできるか?」

当然隔離された私は魔力の扱いなんて誰からも教えられてこなかった。魔力を体外に出すなんて到底やり方を知らない。

紅炉は黙って困惑する私から魔石を取り上げて、優しく頭を撫でてきた。

「今度特別に剣の稽古をつけてやる。俺はな、娘を迫害するような老害の思う通りに行くのが一番癪に障るんだ。そこで夢幻は灰神楽の一人だってアイツに知らしめてやろう。な?」

紅炉は見たことのない笑顔でそう言った。

その時には既に、さっきの誰かは居なくなっていた。

その誰かを思い出すのは私が家を追い出された3年後だった。


あの日から3日後、紅炉がもう一度私の部屋を訪ねた。

「あんま派手にやると彼奴等にバレるし、最初だから素振りくらいしか出来ないな。取り敢えず思うように持ってみろ。」

紅炉は私に無理やり半分に折って短くした木刀を渡した。灰神楽家の伝統として、刀を初めて持つ時の持ち方で才能を見定めるなんて物があるらしいが、今まで誰の剣を握る姿を見てこなかった私にはてんで意味のない儀式だった。

取り敢えず適当に両手で握って、予想外の質量に流されてそのまま転ぶように木刀を振るった。

剣の英傑として名を馳せた灰神楽の子供としては零点の様子に、紅炉はまた珍しく息を切らせて笑っていた。

「いいじゃねぇか!野球選手としては満点だ。」

「やきゅう?」

「あぁ良いんだ気にすんな。」

それが気に入ったのかは分からないが、その日から私は紅炉に剣と灰神楽に伝わる体術を習うことになった。

10の種類と無数の技を持つ灰神楽式の剣技舞十技(ぶとうぎ)の全てを覚えるには、その名の通り10年の歳月がかかると言われたが、二年で私と紅炉の稽古は終了した。

舞十技の十番目最後の技を習得したとき、紅炉は私に初めて真剣を渡した。

「そいつは俺の知り合いと、その妹に打ってもらった…まぁ売ってもらったでもあるが、お前の魔力にあわせて作ってある。流してみろ。」

刀を試すため、恐らくそれだけではないのだろう。

彼は最後に知りたかったのだと、私はそう思っている。

私のこの力は六恩によるものなのか、自分がしてきた事は正しかったのか、自分の妹は人間なのか。

紅炉はいつかの魔石を指で弾いて私の方に飛ばした。

以前は何かも分からぬまま手に落下したが、回転している様子がゆっくりに感じた。

その魔石をあえて切らないように刀身の側面に当てるようにして上に弾くと、魔石に閉じ込められた魔力がその場に留まれず周囲に発散された。

紅炉は何も言わずに私の頭を撫でてその場を去った。


その日の夜、長年静かだった時間帯に聞いたことのない怒声が当に青天の霹靂のように轟いた。

「夢幻は天才だ!現にこの家の誰よりも早く舞十技を習得した。それにあいつの髪が黒だからって二年間家族の誰とも会わせないなんて!それが娘に対する対応か!?」

「ならんと言ったらならん!!」

私の部屋から家族が暮らす部屋までは体感100メートル程ある。当然廊下を歩いた場合であり直線距離で言えばそこまでの距離だった。

周囲の家に住む隣人たちへの思いやりを一切感じない程の怒声は、二年前の記憶が波のように押し寄せた。

悲しいというわけではない。悔しいでもない。

それでも、何かが足りないという渇望と消失感が入り混じっていた。その異物感は二年間言いつけを守り開けてこなかった、ただの襖に手をかけるには十分過ぎるものだった。

丁度隙間風が強く感じれるようになったとき、私の脳内に知らない誰かの記憶が断片的に流れ込んだ。

「こんな夜更けに小さな女の子が何をしようというんだい?」

湧き出る記憶に飲まれた意識が、プリズムのように複数の色を反射する髪を月明かりに照らす何処かで見たことがある女性によって呼び戻された。

「貴女は、誰?」

「私は夏の国70代目国王、春間(はるま)輪回(りんね)。君と六恩の一つ、無限(むげん)無幻(むげん)を分かち合う者、言わば君と同じく化け物側の人間さ。」

そう艷やかに呟く目の前の隣国の王を名乗る人物は、手に持っていた恐らく酒が入っている瓶を下へ傾けた。

こんな場所でも数年暮らせば愛着が湧くというのか、単純に隔離されたと言え育ちの良い家庭の中で育ったからか、あるいは生物的なものか、ここ最近の成果の一つである異常なまでの反射神経と瞬発力が、無意識にその勢いよく流れ出る液体を手のひらで受け止めようとした。

受け止めようとして、それは失敗というには余りにも奇妙な結果だった。

酒が同じ場所を滝のように流れ続けている。

決して地面にたどり着くことはなく、決して枯れない滝。そんなものが目の前に現れた。

「不思議かい?これが無限の力だ。正確には無限の器として与えられる『輪回(りんね)』の名指の力だけどね。あぁ触れちゃだめだよ、君の力は当然私の輪回にも影響する。その感じ夢幻は常に発動したままなのだろう?ところで灰神楽のお嬢さん、これは無限に酒が落下し続けているわけだけど、これは何を無限にした結果だと思う?」

今答えを自分で言わなかったか?という疑問を一度押さえ、灰神楽夢幻は手を顎に当てる。

『無限の体積を持つ酒』だとしたら、一つの空間に許容量を超える液体がとどまっている事になる。その場合『無限の容量をもつ空間』も同時に作っている。そうしたとき能力を解除すれば洪水が起こる可能性は捨てきれない。一国の王が隣国の英傑の黒歴史と会うだなんて、もしバレでもすれば号外どころか戦争に発展しかねない。

そんなリスクを崩壊しかけた夏の国を再興した賢王がわざわざ冒すだろうか、答えは考えるまでもない。

だとすれば、繰り返されているのは何になるのか。

「液体が落下するという現象…ですか?」

何処までその名指が作用するのかは分からないが、何でも出来る能力ではないという直感に基づいたものだった。

「合っているようで少し違う、私が繰り返しているのは歴史だよ。過程とそれに伴う結果、振り出しに戻るまでの因果、そのすべてを総括して繰り返す。時間をある一定の区域だけ切り取って張り付けてるみたいなものだね。」

ところでと輪回は遂に能力を解除し落ちきった酒を受け止め、それを飲み干しながら話を続けた。

「私はねこれを自分自身にもかけているんだ。だから私は老いることも病めることも無い、そして記憶も常に失われていく。それでも私は君を知っているし君がこのあとどうなるかも知ってる。まだ子供の君には難しいかも知れないが、この世界はね何重にも重なっているんだよ。私はその世界線全てで同一人物として生きている。もう一つの世界で私が見たものを私は知っているが、もう一つの私はそのことを記憶から消してしまう。私も当然記憶を消すが、これは脳細胞すらも一定間隔でもとに戻るからだ。ならば次元を超えた記憶は何が覚えているのか、それは魂であり春間輪回という存在そのものだ。だからこの世界の私はこの世界のこれからを知らない。でも限りなく似た結末をたどる別の世界のこれからを知っている。長くなったからまとめるとね、私はこのあと君が君の父親である灰神楽戦慄(せんりつ)に殺されるのを知っている。それじゃ少し都合が悪いんだ、だから私は悪い大人の女性として幼気な君を唆しに来たんだよ。」

当時5歳の灰神楽夢幻はその輪回の言葉を全て理解できていなかった。ただ一つの衝撃だけが重く重く夢幻の心を揺らしていた。

「私は、お父様に殺されるの?」

疑問ではなく確認の意を強く孕んだ言葉は、冷たい春の匂いを運ぶ夜風にさらわれることなく重力を持って蔓延した。輪回は困る様子も見せず只管不適に笑っていた。

「君には選択肢と新しい結末を用意してあげたんだ、何せ同じ六恩を分かち合う存在だからね。」

輪回は人差し指と中指を順に立てた。

「一つはこのまま灰神楽戦慄に殺される結末、もうひとつのはこの灰神楽の大結界凪の水面(なぎのみなも)を破壊しこの家を出て自由に暮らす結末。君はどうしたい?」

輪回の提案は決してここで死ぬか長く生きるか。なんて単純なものではなかった。そも結界術というものは外付けの魔力有効範囲という扱える人間の少ない技術であり、凪の水面は四季国がかつて一つの国だった時の国王修羅小路(しゅらのこみち)聖冥(せいめい)の4つの結界と同等と呼ばれる効果を持つ。そのレベルの結界はただの魔力有効範囲の延長ではなく、辺り一帯のマナの流れの中心となる。その上結界自体にも信じられないほどの魔力が込められている。あえて未来の話をここでするならば、秋の国が跡形も無いクレーターと化したのはその大結界が崩壊した影響でもある。つまり、結界というものを下手に壊すのはとても賢い選択ではないという事だ。

「でも私は、この家の子供。親を裏切ることは出来ない。」

「それが君の意思なら私はそれを尊重するよ、他の君に同じことをするだろうがね。まぁこの選択を選ぶ世界は数個しかないからね、この言葉を君にかけるのは他の世界の私かもしれないし、刻一刻と失われていく今の私かもしれない。」

何処かで襖が開いて、闇に包まれた小石に光が差した。

見なくても雰囲気と魔力で誰かわかる。

「輪回!?貴様夢幻と何をしている!!!」

紅炉とひと悶着あったのか汗をかき不機嫌を包み隠そうとしない灰神楽戦慄は、空気が歪んで見える程の濃度の魔力をうねらせ10秒スキップを連打したビデオ動画のような不自然で不可解な高速移動を用いて一瞬のうちに二人との距離を詰めてきていた。夢幻がその異常性と自らに訪れんとする危機に気付いた時、既に春間輪回は視界から外れかけており門の手前で私を待っているようにも見えた。猶予はもうコンマ数秒もなく、夢幻はそんな刹那の間でまさに今わの際と言える状態で選択を迫られていた。戦慄は夢幻へ強引に手を伸ばし輪回は何も言わずただ立っている。もし私がどこかの一般的で、世間体よりも自分たちの娘を優先して愛してくれる親ならば、そんな幸せな家庭に生まれたのであれば。そんな事を夢幻はふと考えてしまい脚は一瞬動きをためらってしまった。その一瞬を見逃すのであれば灰神楽戦慄は人類最強と言われることはないであろう。もしくはその場合は子の我儘を見届けるいい親と呼べるのかもしれない。

「夢幻!勝手は許さぬぞ、貴様の力は忌むべきものではあるが決して腐らせていいものでもない。私がそれを無駄なく使ってやる、貴様は黙って親のいうことを聞いていればいいのだ!!」

骨が粉々になる程の圧力が戦慄の指を介して夢幻の腕に伝わる。苦痛は顔を歪ませる表情筋とそれに浮かぶ汗となって現れた。その行為は手を握るなんて生易しいものではなく、肉食動物による獲物の捕獲そのものだった。今まで一度たりとも娘としての夢幻の手を握ったことはなかった。そんな戦慄はマナと魔力を反発する無幻の力の器を引き留めるため明けに過去5年のプライドを捨てたのだ。

(私は、どうしたい?このままここに居たって春間輪回の話が本当であるならばきっとこの力を利用された挙句お父様によって殺される。それでも凪の水面を私の力で消滅させれば春の国へあまりにも大きな傷跡を残すことになる。)

そこまで考えて夢幻はあることに気付いた。自分が夏の国の人間になれば春の国がどうなろうとさほどの違いはないのではないだろうか。たとえ生まれ故郷を裏切ることになろうと自分はこの春の国に愛着はあるだろうか、本当に故郷と呼べるのだろうか。

夢幻泡影(むげんほうよう)皆既月食の(かいきげっしょくの)(かた)。」

今度はすべてを排斥せんとす形容しがたい冷たい無幻を帯びた魔力が、夢幻の腕からそれをつかんでいる戦慄の体へと流れ込み、瞬間的に戦慄の体から魔力が消滅した。本来人間にとって魔力は生命活動上必須ではないが、長く自身の魔力と共に生きてきた人間ほどマナで生成した魔力からエネルギーを作ってしまう。それ故に実に60を過ぎた灰神楽戦慄の年輪に刻まれたその癖が夢幻を引き留める力を失う原因となってしまった。夢幻は力の抜けた父親の手を限りなく強く払い、輪回の立つ場所へと駆け出した。一時的とはいえ魔力を完全に失い、其のうえ飛燕を応用した夢幻の移動法に戦慄は為す術もなくその姿を見つめることしかできなかった。

「ふざけるな戻ってこい!お前の存在価値をいかんなく発揮させてやると言っているのだ!娘のくせに、いや化け物の分際で灰神楽に盾突くのか!!」

今は何が正しいのかは分からない。それでもきっと彼は親としては間違っている。それだけを信じて夢幻は灰神楽邸を囲む結界、凪の水面にてを添えた。

次はもう少し早く出す所存です。


次回予告

次回、No.34カノン

冬休みなんで一週間以内に上げるようにします

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