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鈴音  作者: R a bit
鈴の音は遥か彼方へ
53/57

No.33、梅雨最前線

ん〜中々思い通りにいかない。

やっぱ漫画が描ければそれに越したことはないですね。初めは某海賊漫画の◯の国編みたいに戦場をころころ変えていくつもりだったんですが、これは想像より長い戦いになるかもしれません、私にとっても鈴音たちにとっても。

春の国と夏の国の狭間で轟音の轟く6時間程前。

灰神楽(はいかぐら)夢幻(むげん)の邸宅にて、その弟子たちとかつての仲間は縁を組むようにして座っていた。

「今回の春夏戦争だが、互いに一つの懸念点がある。」

地図を広げ、夢幻は春の国の中心から少しズレた場所に指を差しながらそういった。

「それが灰神楽の存在だ。自分から言うのもなんだが、この世界で私を殺せる存在はそう居ない。それと同時に春の国最高戦力、元人類最強の異名を持った私の父親、灰神楽戦慄(せんりつ)。彼一人で夏の国が崩壊しかねない。」

「つまり、両国共に切り札を持っていてそれを感づかれずに敵国に送りたがっていると。」

鈴音がふと思ったことを言葉にすると、その向かいに座っていたアイシスが明らかに顔をしかめた。

「そんなリスキーな事は出来ない。本来ならルーク、ビショップ、ナイトでクイーンを抑えるところを、クイーンで止めざるを得ない。と言っているんだ。」

アイシスは何処からか取り出したチェスの駒を弄りながら鈴音の隣に居る夢幻に視線を向けた。

それに気付いた夢幻は何かアイコンタクトを送り、諦めたようにため息を付いた。

「分かっているさ、念には念を入れておくよ。じゃあ輪回(りんね)からの伝言を伝える。緊張感のないことを言えばトーナメント表のような物だ。何度も言う通りこの戦争は個の強さをぶつけ合う事になる。心して聞け。」


──そして6時間後。

春の国に侵入した三人の人物の内の一人。

灰神楽夢幻は、これから戦争に向かうとは思えないほど優雅に静かに歩いていた。

それも其のはずだろう。彼女にとってそこは戦場ではなく実家へと続く帰り道なのだから。

そうして夢幻は一般的な一戸建ての家が10軒並んだような広さの豪邸の前に立つ。

塀につけられた表札のような物には、何時のものかも分からない霞んだ字で【灰神楽】と書かれていた。

「さて、他の奴らもそろそろ接敵する頃だな。私もいい加減にこの親子喧嘩に終止符を打たなけれ──」

未だ上手く見れないその家を確かなものにしようとした時、灰神楽夢幻はその場に居るはずのない人物を見かけた。赤い紅い燃えるような髪色、屈強な肉体。伸び切った無精髭に清潔感を感じないシミに塗れた汗臭い服装。

見間違える筈もない、唯一自分に対する態度を一貫した男であり20近く年の離れた兄。

紅炉(こうろ)っ!?」

しかし、その巨漢灰神楽紅炉は陽炎のように何処かへ消えた。

夢幻は暫く動くことが出来なかった。

それは久方振りに兄妹に出会ったからではなく、同じく春の国に侵入している二人の弟子の安否を思っての事だった。助けに行こうと思えば紅炉ならば殺すことは不可能ではない。だが紅蓮(ぐれん)円火(まどか)が足元にも及ばない事もわかりきっていた。

そうして1秒かけて自らの頬を叩き、各所に散る仲間を信じて夢幻は灰神楽邸の門に手を近づけた。

「止まれ。」

夢幻にそう高圧的に言った声の主は門を挟んで向かい合う形で立つ。

「今更何をしに来た、夢幻。」

「嫌だな巳早(みはや)。一人娘が父親の御老体を心配して来てやっただけさ。」

灰神楽巳早。夢幻の弟であり末っ子でもある。

明らかに機嫌が悪く見えるのは元からか、はたまた戦争の最中だからか、先程まで厄介者が居たからか。

恐らく全て当たっている。

「貴様が最も理解しているだろうが、ここは気高き英傑の家系、灰神楽の領地だ。余所者(よそもの)が侵入する事は固く禁じている。故、場合によっては実力行使に移らせてもらう。それを承知であるならば存分に自ら死地を選べ。」

刀を抜く巳早に対して、夢幻は一向に動こうとしなかった。それどころか両手を上に上げている。

「どうした!何もせず降参か!?」

怯えか苛立ちか、声を荒げる巳早を冷たく見据え、夢幻は目を瞑って小さく呟いた。

「ハンディキャップ?ってやつさ。片仮名は苦手でね、使い方が合っているかは分からないがね。」

「貴様!灰神楽を愚弄する気か!!」

夢幻はそれ以上何も言わず黙って巳早を見つめる。

巳早はその視線が一瞬の瞬きによって途切れると同時に、刀を夢幻の喉元へ伸ばした。

夢幻の瞼が上に上がる刹那の間、偶然その場を国内を巡回していた一人の兵士が曲がり角から現れる。

その兵士が見たのは、粉々に砕かれた巳早の刀と灰神楽邸一帯を囲んでいた結界、そして白目をむいて倒れ伏す巳早の姿だった。

兵士は絶句し、そのまま門を通り過ぎる夢幻を見つめることしかできず、夢幻もまた向かれ慣れた畏怖の眼差しを振り切るように前だけを向いて歩みだす。

夢幻はその時、凡そ15年振りの帰省を果たした。

実は3章も終わりが見えつつある中、どうせ長引くんだろうなぁって思ってる中、そろそろ書くことなくなりそうないつものやります。


ちこっと小話のコーナー。

皆さん覚えていますか?流蓮の存在を。

どうせ隠すこともないので言っておくのですが、流蓮が何処で何をしているのかはきちんと水面と道理〈承〉でヒントを記しています。最終話(一応3章の)でその設定を出すか出さないか迷っているので、『どうせいつか作者が答えを教えてくれるさ』なんて考えていたら迷宮入りします。

私は見る人によって結末の変わる作品を目指しているので、『無理に私の意図に気付け』なんて言いたくはないんですが、考えずに与えられた情報を事実にしていく事程愚かな行為はそんなに無いとも思っているので何となく考えてみてください。でも多分『聞いて聞いて!僕こんな伏線張ってたんだよ!!』ていう悪い癖がいつか出るので思い立ったが吉日だと騙されてください。

小説、というか本という物は思想の共有です。私の作品をクリックしたという事は見えない利用規約『作者の思想に付き合います』に同意したとみなすので宜しく。

あ、それと前回の前書きを書き直したんですがもしかしたら直す前に見てくれた人なら前書きに仕込まれた小ネタ?法則性?に気づけるかもしれません。


次回予告

次回番外3、灰神楽夢幻の火種

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