No.29、風は雅やかに何かを揺らす
ギアス、結構お気に入りなんですけど出番ないんですよね。
涼しい風の吹く草原に、私は一糸纏わぬ姿で立っていた。
なんでこんなことになったのか、
それは私の名前に音という字が入っているから
私のこの身体が、魔族のものだから。
私が六恩を持っているから、
夢幻さんに使用を禁じられていた力を
六恩を使って文殊の三人を助けたから
それが春間輪回にバレて
思い出せば単純なことだった。
でも忘れてしまうから複雑になる。
憂う事なかれ、何時でも世界は保存されている。
世界が廻っている間は。
「思い出したか?」
耳を通ったのは、聞き慣れた声だった。
長い黒髪の刀を携えた女性。灰神楽夢幻。
「どのくらい時間経ってますか?」
何をしたのかは覚えている。
何故か夏の国防衛団の団員に狙われて
その理由を思い出そうとして鈴音を使ったんだ。
「約246分だ。」
四時間も。
道理で空が茜色に染まっているわけだ。
寝ていた訳では無いが視界が少しぼやけている。
いや、これはきっと泣いているんだ。
「夢幻さん、私は文殊の三人を救えたのでしょうか。」
聞かなくてもわかる問。
それでも問わずにはいられなかった。
聞きたかった。私は凜の意思を継げたのか。
「おそらく、次の任務でウィンドは死に、バーンライトは右腕を失うだろう。」
やはり、そうなるのか。
この世界はなるべく、いやなるべくして均衡を保とうとする。
凛の世界で起きた出来事
凜の世界で起きた出来事
私の世界で起きた出来事
これらの結果は限りなく近いものになる。
凜が半田棘に依頼されたのは、その均衡を崩す事であったが、世界は凜の中にある凛の記憶を消す事で均衡を保った。
無理やり記憶を持ち出している私
無則姉妹や半田棘、春間輪回、修羅小路遥夏などの明確な全ての世界での記憶を持つ超越者である彼女たちにしか、結果を捻じ曲げることは出来ないのだ。
所詮私も、この世界の成分の一つでしかない。
「そう悲観的になる必要はない。防衛団以外にも就職先は十分にある。それに、ナイトはフィー婆とも仲が良かった筈だ。ウィンドは遥夏、バーンライトは棘が雑用にでも雇ってくれるだろう。」
「そうですね…」
私は涙を押し込み、確かに広がる夕焼けの空を見つめる。
それに少なくとも凜ができなかった事を、ギアスから文殊を守れたんだ。
それで十分という事だろう。
感傷的な気分になる私と違い、夢幻さんは常に冷静だった。
「取り敢えずだ。目先の目標は棘とノートを味方につけることだな。」
そうだ。未だ今の問題は解決していない。
ただ一つ気になる点があった。
「夢幻さん、その言い方だとアイシスさんはやっぱり。」
夢幻は少し顔に影を宿したが、努めて冷静に返答した。
「そうだ。現状、お前の死刑に賛成しているのは防衛団無関係の一般市民と大多数の団員。要注意人物はアイシス・ハルマ、春間輪回、雪宮綾命、風鳴風雅、夜叉小路遥夏だ。」
やはりアイシスさんと関係のある人物は敵対勢力みたいだ。なるほどこれはノートさんと棘さんの力を借りる必要がある。
「作戦は至極単純、最速で接触して攫う。
行動開始時刻は今からだ。」
そう言って灰神楽夢幻は足元に茂った草花を揺らし、風に乗って消えてしまった。
しかし困った。
夢幻さんがどちらに向かったのかが不明だ。
ノートさんの方だろうか。
いや、夢幻さんが望んでノートさんの所に行くとは思えない。ならばどうすれば。
こういう所が抜けている人だ。
一人で戦えるだけに他人に言葉を伝える事が苦手なのだ。
兎にも角にも突っ立ってるのが一番良くない。
既に陽の角度は二桁ギリギリだ。
直ぐにでも夏の国へ…
その瞬間、正に刹那の一時
フォンッ!という聞いたことのない鋭いものが空間を割いた音が耳元で鳴った。
風に乗って少女の声が微かに流れてくる。
「風見鶏。」
無数の風の槍が収束し、私の腹部向かって飛んできていた。
「疾風の太刀!」
私は素早く抜刀しこちらも風の刃を飛ばすも、威力が足りていない。
打ち消せずに直進してくる風の槍を、結局地面を転がりながら回避し、さっきまで私が居た地面が抉られているのが目に入った。
少なくとも人の身体では耐えられない。
風が飛んできた方を見ると、そこには一人の小柄な少女が居た。
名前を聞かなくてもわかる。
あいつが風鳴風雅だと。
彼女は右手を前に出すと、自分の横に向かってなにか話しかけている。
会話は終わったようで風雅はこちらを一目みて、微笑んでから風を飛ばした。
「風渡。」
今度はひたすらに強い風圧を飛ばしてきた。
「火縄銃・土!」
指で銃の形を作り魔力を飛ばす。
目には目を歯には歯を。と単純な火力と質量の勝負を試みたが、燃え盛る土や岩の塊の弾丸はいとも簡単に粉微塵にされ、跡形もなく吹き飛ばされる。
土属性の魔法が仇となり、砂埃となって目を開ける事が困難になった。
一先ずは居合で相手の位置を確認しなければ…
広範囲に魔力を展開し弾かれた部分を象る事で相手の位置を探ることのできる魔術だが、半径五十メートルにはいない。
逃げた訳ではないだろう。
一先ずは冷静になれ。
相手の魔法の属性は風、
魔法陣がなかったり虚空に向かって話す様からおそらくは精霊と契約する事で使役する精霊魔法。
少なくとも五十メートルから飛んできた魔法は、私の風属性の魔法や魔術より強い。
正面からはやりあえ無い。
取り敢えずは距離を取るのが先だ。
射程範囲によっては範囲外から攻撃が可能になる。
「氷山の一角!」
私と風雅の間に二階建ての一軒家と同じくらいの氷塊が発生した。
私の目が正常なら火縄銃の速度と風雅の精霊魔法の速度から考えて、初めに立っていた場所はここから80〜90m。
決して遠くないが、風魔法の基本は遠距離。
ほぼ確実に距離を詰めてくる事はない。
やることは単純、距離を詰めるそれだけだ。
同刻夏の国、水無月城にて。
「アイシス、これはどういうつもりだ?」
「どうせお前なら、ノートを味方につけようとするだろうと思ってな。眠らせておいた。」
いつも混雑するギルドの本部付近に人は居らず
人外が二人見つめ合い、人外が一人倒れていた。
夏の国且つ世界最強のパーティー五騎の五人の内三人
灰神楽夢幻は、同じく元五騎メンバーのアイシス・ハルマとその足下に倒れているノート・キーパーと遭遇していた。
二階や外は外野で埋まっていて簡単には出られない。
「今頃は風雅が鈴音と相対しているだろう。ここに来る途中で気付いたと思うが、棘は遥夏とだ。綾命は風雅の応援に向かわせている。」
夢幻は下唇を少し噛み、直ぐに冷静さを取り戻した。
間違いなく、出遅れた。
そう分かっていて尚夢幻もアイシスも同じ事を考えている。
これで対等だと。
夢幻は柄を握りしめ周囲の外野とアイシスに問いかける。
「邪魔をするならば切るぞ?」
同じくアイシスも片手にナイフを逆手に持って答える。
「俺がするのは正義の執行だ。」
念には念を。と外野の人たちが出入り口付近から離れた途端。
先ず観衆の目に映ったのは
約10回光った刀身と、爆発する大理石の床。
次に見えた光景は
体を打ち付けながら外に勢いよく転がり出る
アイシス・ハルマの姿だった。
「どうしたアイシス。いつもよりキレがないな。
ノートが近くにて遠慮したか?」
まるで抜刀していないかのように同じ場所に同じ構えで立ち続ける夢幻は、余裕綽々と優雅に語りかける。
「どうだろうな。そう思うならそこから出てくれないか?」
アイシスは受け身を上手くとったようで、外から見た限りダメージは受けていない。
やすい挑発であったが、夢幻は少し悩むふりをしてから
「あぁ。そうしよう。」
迷わず城の外へと出る。その丁度一歩目
軽い破裂音が連続して発生し、巻き上げれた砂煙で夢幻の視界を塞いだ。
「出た!アイシスの爆破付与だ!!」
「いつものやるつもりだぜ!!」
五騎の一人であるアイシス・ハルマ。
彼は春間輪回に傷を負わせた一人であり、対人、対魔獣、対魔族、多対一の戦闘全てにおいて最強格の人物である。
そんなアイシスには、一つの大きな欠陥があった。
彼の魔法は、彼が引き起こせる現象は、
攻撃が出来ないのだ。
故に自身の能力を向上させ、相手の能力を低下させる。
時には化学変化を応用した付与魔法すらも使う。
アイシス・ハルマ。学園時代筆記テストにおいて全て満点を取った彼だからこそできる芸当であった。
砂煙の中でまた金属が光を反射する。
「亜空。」
アイシスはナイフを空中に投げ、何も無かったはずの空間からもう三本ナイフを取り出す。
「跳弾。時間差。」
そのうち二本を投げ、空間に固定した。
そのまま両手にナイフを握り、夢幻へと突撃するが夢幻は一向に動こうとはしない。
寧ろ前方へゆっくりと歩み寄る。
「アイシスよ。」
夢幻は目にも止まらぬ速度でアイシスが振るう二本のナイフをいなしながら、余裕に満ち溢れた笑みで彼に語りかけ始めた。
その間もアイシスは二刀流に加え、落下してくるナイフの三本をお手玉のように投げ、普通の人間であれば必要な腕を超えた動きをする。
「増援蜂!」
先程空間に固定していたナイフもまた飛び道具として夢幻に襲い掛かるも、やはり夢幻は刀を抜いたことすら認識できぬ速度で弾き続けた。
「私の勝ちだ。
舞十技二番水の舞、高波!」
夢幻は身体を低く下ろし、鞘から滑るように尚且つ高速に刀身を抜刀した。
刀を抜いた衝撃によって砂煙はモーゼが海を割る如く、
あたかも煙を刀で切ったように両断された。
それは地面も、アイシスも例外でなく
アイシスは持っていたナイフと服に仕込んでいたプロテクターを破壊され、後方に吹き飛ばされた。
今度は受け身を取り損ね、咳をしていた。
只、アイシスは困惑していた。
攻撃を受けながら反撃してきた事でもない。
夢幻が勝ちを確信して放った攻撃が、余りにも弱かったからだ。
これは模擬戦や決闘ではなく、実戦だ。
アイシスは何度も実戦で戦う夢幻を見てきたが、この威力は実力の片鱗も感じさせない。
そう。夢幻はアイシスを殺す事を目的としていなかったのだ。
それにアイシスが気づいたのは、砂煙が完全に消え失せ、城の内部が見えた時だった。
ノートの姿が消えていた。
(やられた…夢幻の奴、端からノートを逃がすのが目的だったか。)
あくまでもアイシスが夢幻と戦う事を選んだのは、ノートを抑えたというアドバンテージがあったからだった。
それがなくなった今、アイシスがすべきことは一刻も早くここから逃げ出す事であった。
アイシスが逃亡を決意した丁度その時
風雅が遠距離攻撃故に時間がかかるのを防ぐため、雪宮綾命は鈴音の下へと走っていた。
足を止めたのは、ある人物を目撃したからだった。
「やぁやぁあやめん!元気!?私!?私はね、ちよっと機嫌悪いかも!」
輝く金髪、低い背丈、ワイシャツにショートパンツを合わせて上から黒のローブを着た少女のように見える女性。
ノート・キーパーだ。
いやほんと、ようやく話が動いたって実感できますね。
章分けする程ではないんですが3章は4つの大きなイベントで構成される予定です。今はその一つ夏の国内戦編ですね。
編っていうほど長くないですけど。
因みに一章と二章で出てきたキャラだけでなく、三章から登場するキャラも多くいます。
多分本当に初期の方に書いたと思いますが、春の国がお気に入りなのでそろそろ出番が控えていると思うとワクワクしている自分がいますが、多分次に書くのは他作品の方ですのでこっちだけ見てくれているという方は申し訳ありませんがほぼ確実に更新が遅れます。
え?テスト勉強?何だっけそれ?知らない現状だ。




