No.4、青くて淡くて荒くれ者
一応久しぶりの閲覧注意です。
まぁペンネームの由来の話が出てくるので
それはあとがきに書いときます。
興味があったら見てください。
可能な限り表現とかは柔らかくしてますが、
それでも苦手な人は居ると思うので
残酷な描写が苦手な方は注意してください。
暗い。
只それだけを感じることができる。
本当に今俺には体があるのかどうか疑問に思える。
視覚も聴覚も嗅覚も触覚も、多分味覚も今は何も感じない。
片栗粉を溶かした水に溺れているみたいだ。
徐々に徐々に感覚が冴え渡っていく。
体は少しずつ浮上し始めて、何か声が聞こえる。
言葉である筈なのに、それを言語と認識できていない。
なんて言っているのだろうか。
声援?誰を応援しているんだ?
いや、というか俺は今何処に居るんだ?
確か紅蓮を追いかけて…
それ以上は何も思い出せない。
此処にある筈の何かも今は感じない。
体感的なものは戻っても、感覚的なものが戻ってこない。
暗い空間に少し光が指し、薄暗い暗闇で自分の体が見えた。
良かった。きちんと俺は生きている。
でもその身体は、15歳の男性のものでは無く
あって12程の少女の物だった。
そうだ、俺はあのとき観測してしまったんだ。
俺の死体を。俺が既に死んでいたという事実を。
それまで曖昧だった俺、凛という存在は
その時決定的に死んだのだった。
「凛、凛、凛!」
急速に水中から引きずり出された。
覚醒したばかりなのに視界も意識も鮮明で、
「緊張してるのか?」
そう問いかけてきたのは、模擬専用の大剣の形をした只の鉄塊を固く握りしめる赤髪の巨漢。バーンライトだった。
細い目はいつもより眼光が鋭く、その瞳には確固たる意志を感じる。
「いえ、別にそういう訳では…」
要領得ない私の返答に疑問は感じつつも、バーンさんは前を向き直した。
なんでこんな状況に?
はるか前方に間違える五人の男性たちの内、最も存在感のある男性が凛には因縁の相手である、不和雷同にしか見えなかった。
それもそのはず、それは勘違いでもなく本人であるからだ。
だからこそ、凛はこの状況を理解できていなかった。
雷同とは学年末までの休戦を契約していた。
いくら状況判断能力の優れる人でも、
まさか自分が10ヶ月の記憶を失っているなど、思いもしないだろう。
ただ現実は単純で、本当に凛がこの10ヶ月の記憶を失っているだけなのである。
凛が意識を取り戻し、現状に動揺している同刻
夏の国国立魔導学園、模擬戦用決闘場。
その観客席の誰もいない後方に座る一人の赤髪の女性。
それに一つの影が近づいていた。
「やぁ穂叢君。意外だよ、君は参加しないんだね。」
「カイイ。あんたこそ、普段周りに無関心貫いてる癖に、今日は来てるのね。」
茶髪のにこやかな笑みを浮かべるカイイ=ディヴォートと
穂叢円火。
普段から特に接点のない二人でも、お互いが何を思っているかは明白だった。
「君達からしたら、僕も敵だからね。」
「別に、あんたが凛に危害を加えているところは私は見たことがないし。」
カイイはその言葉を聞いて円火の隣に座った。
「紅蓮君の姿も見えないね。最近はより一層凛君と仲良かったと思うけど。」
「さぁ。なんでそれを私に聞くのかしら?」
「興味本位だよ、気にしないで。」
試合が始まるまで、この二人がこれ以上何か言葉にする事は無かった。
「それでは皆さんお待たせしました!
今からチーム生徒会役員とチーム文殊の決闘を行います!!」
実況席からマイクを通し、快活な女性の声が響いた。
一平方メートルのブロックが、パッと見ただけでは数え切れないほど連なったスペースに、計九人が立ち並ぶ。
何がなんだかわからないが、
それでも凛はここで雷同を止める事が、今一色を取り戻した理由なのだと察していた。
一瞬目を合わした雷同の眼には、狂気と殺意が混じっていた。
氷璃は下を見ていた。
雨が降りそうな程、鏡には鉛色に靄がかかっていた。
「よしっ!僕行ってくるよ!!」
頬をバチンと叩き、震える手を握りしめてウィンドさんは再び階段を登り1メートルの壁を越える。
「凛。分かってると思うが今回はお前に掛かってる。」
横に立つバーンライトが声をかけてきた。
生徒会役員は五名。
雷同を加えて六名だったが、ウィンドさんがこちら側についたことで総勢五名。
一方こちらは文殊の三人と俺を合わせて四名。
決闘では勝利した試合の数で勝敗を決める。
この決闘を成立させるため、雷同が結ばせた契約の一つ。
俺達は既に人数不利を抱えていた。
「情けないが、俺より凛の方が強い。それに、どうせ俺は雷同には勝てない。」
当初は俺と雷同が戦う予定だったが、バーンさんが交渉に行き、何故か雷同はそれを承諾した。
何が狙いかはわからない。
氷璃とウィンドさんは用済み。と考えているのだろうか。
どちらにせよ、ウィンドさんとナイトさん、そして俺が勝つのが勝利条件だ。
然し、何故だろう。
俺はこの光景を知っている。
全く同じではない。
それでも、似たような景色を俺は…
いや、誰かが見ていたんだ。
デジャブと言うには、あまりにもウィンドさんと、その相手の鬼道は既視感のある行動をする。
「マナは空気と共に在り。」
そうだ、間違いない。
俺はこの先の展開を知っている。
「空絶、虚の伽藍!」
「てめぇ!まさか!」
「魔力爆発!」
その後も何処か見たことのある試合展開で、
気づけば俺の番だった。
「凛。」
お互いに斬れない形だけの刀を帯刀し、向かい合う。
風が氷璃の髪をなぞり、優しく柔らかく揺らめく。
「ごめんな。」
哀愁漂うその表情と言葉は、何に向けているのか。
俺はそれを勝ってから聞くことにした。
「何方かの戦闘不能、場外、降参によって勝敗を決めます!
それでは〜!!!」
ピリピリと緊張感が空気を伝って流れてくる。
「始め!!!!!」
開始の合図と共に、氷璃はこちらへ一直線に飛び込んできた。
「舞十技一番鳥の舞、千鳥。」
刀が鼻先に触れるから触れないかの距離で体を反らし、
高速に動かす足運びで後方へと回り込む。
「表裏一体。」
鋭い痛みが背中から全身に走り、そのまま飛ばされた。
「がぁっ!?」
油断した!
回転しつつも受け身を取り、体制を立て直す。
氷璃の名指し、表裏一体。
俺と氷璃の位置関係を逆にされた。
後ろに回り込むのは、やはりリスキーだな。
こっちが速く動けば動く程、こっちが反応出来なくなる。
速度で上回るか、火力で押し切るか。
一番隙が少ないのは速度か。
「舞十技四番雷の舞、」
氷璃は完全に表裏一体で立ち回るようで、
さっきから全く動く気配がない。
脚に魔力を最大限まで貯め、一気に放出する。
「閃火雷電!」
最高速度は音速を超える秘伝の技であり、
風圧や筋繊維の破損、肉離れ等の危険もある諸刃の剣。
「表裏一た」
今!
「いっ!?」
口数が少ない氷璃に似つかわしくない奇声を上げ、氷璃も先程の俺と同じように吹っ飛んでいった。
「凛!お前!」
「技の名前言ったって、使わなくても良いんだぞ?」
会場は今までになく歓声に包まれた。
「ハッハッハッ。穂叢君、彼は随分面白い事をするようになったね。」
「そうね。」
舞十技で攻撃最速の技。
氷璃が目で見て避けることはできない。
一応舞十技でも魔法を併用して使うため、最低でも技の名前は詠唱として唱える必要がある。
凛はそこを逆手に取って、あえて大きな声で技の名前を叫び、
それと同時に表裏一体によって背後に来た氷璃に攻撃を当てた。
「まだ行くぜ?閃火雷電!」
「表裏一体。」
次の瞬間全員の目に映ったのは、
裏を読み過ぎてお互い技の名前を叫ぶだけで、仁王立ちをするという間抜けな光景…ではなく。
エリアギリギリに瞬間的に移動した凛が氷璃を再び吹き飛ばすという光景だった。
「な、なんだ〜!?今のは!?」
実況も観客も大いに盛り上がる中、12人は戦慄していた。
「なんだ…今のは?」
凛、円火、氷璃を含めても学年上位に入り込む実力者であるカイイであっても、今何が起こったのか理解出来なかった。
「凛が氷璃に突撃して、氷璃が表裏一体で躱して、何故か氷璃が裏でなく表にあらわれて、凛が攻撃した?」
円火も目では追えていても、理解は出来ていなかった。
「ら、雷同さんっ!今のは一体!?」
二年の生徒会役員が雷同に問いかける。
「…」
然し、雷同は唸るだけで応答しなかった。
「ら、雷同さん?」
「いや、単純に関心していた。上手いぜ、凛の奴。
氷璃がお互いの位置を変えるんじゃなく、自分が相手の裏に回る事を上手く利用しやがった。」
説明されても役員は理解出来ていなかった。
「つまりだな、凛はエリアギリギリに高速で移動し、背を場外に向けた。それによって氷璃は裏に回る事が出来なくなった。」
(これが実戦ではなく、決闘、模擬戦であるからできるやり方だ。)
一瞬曇った顔つきも、直ぐに元の邪悪なものに戻った。
「多少予想外、だが計画通りだ。」
「計画?」
「こっちの話だ忘れろ。」
現に、凛はまだ雷同の仕組んだ計画には気づいていない。
それに気づくのはまだ後の話であった。
不味いな。
試合開始から凡そ10分経過しているが、氷璃が距離を取り始めた。
そのせいで何方も攻めることが出来ない。
二人合わせてもまだ三発しか攻撃していない。
本当ならあの二発で終わらせるつもりだったが。
予想以上に氷璃が強くなっている。
壁沿いをキープしようにも、氷璃はエリアの中央に居る。
いくら閃火雷電でも、瞬間移動する氷璃をこの距離を走って撒くのは不可能だ。
遠距離から魔法で削るか?
いや、表裏一体で位置関係を変えられて避けられるだけだ。
何か手はないか?
その時俺は一つの名試合を思い出した。
夏の国国立魔導学園で、年に一度行われる巨大トーナメント。
通称魔導祭。
決勝でアイシスさんが魅せた奇策。
行けるっ!
これなら確実にもう一発打ち込める!
「火縄銃・土!」
圧縮された燃え盛る無数の魔力の弾丸は、三割氷璃狙い七割その周辺にめがけて飛んで行く。
流石氷璃だ。
確実に最小の動きで弾丸を弾いている。
だが、十分。
「隠蔽解除。」
存在感を消す魔法。
今回は直接氷璃を狙わず周囲を狙うことで、簡単な視線誘導を行っている。
そのおかげでここまで接近できた。
既に俺と氷璃の距離は10m。射程圏内!
「氷山の一角!」
「表裏一体!」
地面から盛り上がる氷塊から、間一髪で氷璃は脱出した。
然し、未だ想定内。
俺は氷塊に背を向け、再び表裏一体を封じる。
壁がなければ自分で作ればいいじゃない理論。
捉えた!今度こそ完璧。
「舞十技一番鳥の舞、荒鷹!!!」
鳥の爪のように計3回の高速の斬撃。
避けるのは不可能。
「表裏一体、外骨格!」
カン。と甲高く音が3度鳴り、俺の剣は弾かれた。
さっきまでの氷璃と見た目が明らかに違う。
表裏一体、表と裏を入れ替える能力。
肋骨の位置を皮膚より外に持ってきて、外骨格を作ったのだ。
「氷壊!」
氷璃に左腕を捕まれ、急速に体温が奪われる感覚と、
ペンチで皮膚を捻り、千切られたような感覚が襲う。
「ーーっ!?」
声にならない悲鳴がひねり出させられた。
「風車!」
腕を抑えながら回転蹴りを放つ。
ただ、やはり動きが鈍くなった。
氷璃はいとも簡単に逃げた。
左腕を見ると、低温によって変色した皮膚と、ねじ切られた事で肉が見えている。
左腕にしたのは反撃の警戒と、あいつなりの優しさか。
「治療。」
痛みは無くならないが、これで腕は動く。
しかし困った。
このままヒットアンドアウェイを続けても、明らかにこちらの分が悪い。
プランB、火力で押し切るに変更するべきか?
いや。それではあちらが優位なんてものではない。
それでも、もう俺には一撃必殺を当てるしか…
熟考。
それは氷璃が自ら攻めてこない。と、そう高をくくった為に生まれた、戦闘においてあまりにも長い油断。
俺の目と鼻の先に、刀身が
「ちど…」
「表裏一体。」
中途半端に動いたせいで、背後ががら空きになってしまった。
刀と刀が打ち合う金属音。
腕に力を込めきれていなかった俺が押し負け、再び転倒した。
会場はさっきから歓声に満ち満ちていると言うのに、耳があまりにも強く脈をうつ。
嗚呼やっぱ
考えるのは辞めよう。
「凄まじい攻防です!!
既に試合開始から20分以上経過していますが、殆ど攻撃を加え合っています!」
実況の声でふと意識が戻った。
見れば俺の身体も、氷璃の身体もボロボロで
お互い後一発ってところだった。
いや、もう限界から10発ほど耐えている。
「なぁ…氷璃。」
二人の距離はもう5メートルもない。
いつでもお互いが最後の一手をかけられる。
「いつまで、そうするつもりだよ。」
俺の突然の発言に氷璃は一瞬目を丸くした。
それでも氷璃の意思は変わらないらしい。
「もう、戻れないんだ。」
だろうな。あのとき、光璃を殺した日
その日もお前は同じことを言っていた。
「もう戻れないんだよ…お前等とは決定的に道が外れた。」
切なく思い詰める氷璃の表情は、俺からすれば助けを求めているようにしか感じれなかった。
「だから、こっちに寄り添え。なんて言ってねぇだろ!」
アドレナリンやら何やらで興奮した俺は、知らぬ間に声を張り上げていた。
「お前が、雷同にギアスを殺してもらおうとしてるのは知ってる!でも!その為にお前が自分の優しさを殺す必要は無いだろ!?」
氷璃は誰よりも優しいんだ。
謙虚で優しくて、それでもきちんと自分を持ってて。
俺はこれ以上、自分をなくしていく氷璃を見たくない。
「だから!もう遅いんだって!!」
俺は、雷同や生徒会が行っていたことをすべて知っているわけではない。
それでも、日に日に表情を失う氷璃とウィンドさんを
嫌という程見てきた。
俺にとって、もうそれで動機は十分。
「確かに、人が生きる上で来た道を引き返すなんてできない。俺とお前が今歩く道はねじれの位置なのかもしれない。だから、お互い挫折して、捻くれて!新しく道を作りながら合流しようって!そう言ってんだよ!!!」
それでも氷璃はなお、泣きそうな顔で一歩踏み出すことを躊躇っている。
「お前が良くても…駄目なんだよ…」
「何サンチメンタリスム感じてんだよ!そんだけSAN値ピンチか!?」
「お前は光で、俺は影。これは俺もひっくり返せない。」
降りた沈黙。
やっぱり、これで決めるしかないんだろう。
「いいぜ。どっちにしろ勝ったほうが権利持つんだ。」
「「両解!!」」
あとどれだけ持つかもわからない体力を振り絞り、
お互いに剣を交える。
二人共理解していた。
あと一発でも直撃したらその瞬間動けなくなると。
いや、あと一発当てるまで死ぬまで動き続けてやると。
だから
これで終わりにしよう。
「舞十技九番龍の舞、濁龍・頭!」
刀を上から下に振りかぶる単純な攻撃だが
火力も速度も申し分ない。
疲労が溜まった状態の氷璃になら、十分有効打!
「表裏一体!」
叫ぶように詠唱し、氷璃はまた俺の背後に回った。
だが問題無し!
いま氷璃が警戒すべきは右側から来る抜刀。
少しでも左にいきたい筈だ。
ここで
その時が来るまで、俺は気付けなかった。
ずっと全力で握り続けた刀の柄に纏わりついた、
自分の手汗の量に。
しまったっ!!
刀がすっぽ抜け、勢い余って回転し始めている。
あまりにもゆっくり進む時間は、走馬灯とやらだろうか。
もう、こうなってしまえば逆転の手は
逆…逆手!
まだあった!舞十技の数少ない突き技。
逆手で行う技。
「鉄頭鉄尾!」
左方向へ体をねじりながら、空中で逆手に持ち替えた刀を氷璃へ突き刺す。
明らかな手応え。
俺はもう目を完全に開ける気力さえ残っていなかった。
だからこの温かいやけに粘性のある液体を、
氷璃が腹を突かれた事によるものだと思ってた。
そうなるほど頑張った氷璃を称えるべきだと。
そんな幻想は、観客の女性の悲鳴によって掻き消された。
俺の目に映った氷璃は、まるで死んだ魚のように、
暗闇のように漆のように、眼光を失った姿だった。
腹部には俺の持っている
本来斬れない形だけの刀が、痛々しく突き刺さっていた。
この熱を帯び、冷え始めた液体は
返り血以外の何物でも無く、氷璃は何処か笑っていた。
耳元で風鈴が鳴った。
はいどうせ誰も興味ない小話です。
私のペンネームのR a bit なんですけど、
まぁ読み方はラビットですが別に兎じゃないんですよね。
R指定 a little bit(年齢制限少し)
を兎のrabbitとかけた名前になってます。
R15とかは言わないけど、ある程度文章を読む力と多少混じってるそういう描写に耐性がある人用
って言うのをモットーにしております。
というか更新遅すぎじゃね?




