表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鈴音  作者: R a bit
臨界transcendence
24/57

No.27、仄光走馬灯

伝わりにくいかもしれませんが何卒よろしくお願いします。

コツコツと大理石の床を靴が叩く音が鳴る。

一部間の抜けたような音がするのは、昔この城に地下室があった事の名残りらしい。

時計がカチカチと音を刻み、心臓は二倍の速度で生を表す。

なんてことのない日常から遠ざかり、

私は今瀬戸際に立っているのだと認識する。

髪の先端は水色に染まっていた。

空は墨汁を垂らした様に黒く、金箔が散りばめられている。

窓を覗けば星が一つ、追いかけるように二つ流れた。

一歩ずつ近づく秋天に、夏の思い出をリュックに急いで詰め込むように、三年と三ヶ月の記憶が走馬灯のように蘇る。

決してフラッシュバックに負けないように、もう戻れないのだから。

受付の前に立つと従業員と目が合う。

「こんばんは。申し訳ございませんが、緊急事態以外では現時刻からのクエストの受理は禁止となっております。」

時計の針は既に一桁に移っていた。

「勝手で申し訳無いですが、私にとっては緊急事態なのです。なので――――」

「かしこまりました、ではこちらの書類にサインを。」

言い終わる前に差し出された紙に魔力を流して保存する。

蛍光色に光る簡易的な魔法陣が中央に刻まれた。

「氏名の登録を致しますので、空きスペースにご記入ください。」

今では珍しい万年筆を取り出しこちらに差し出した。

夢幻さんに書道を習わされたので私は書けるが、この世界の総人口の半分近くは字が書けない、正確にはペンを使えないらしい。

()様、ですね。これで契約は終了致しました。

ご武運を。」

また大理石の床を叩き始める。

その音が粗い石になり、草になり、土になり、霜を砕き、

砂利を踏み、浅い川を横切り、また草を踏んで、土になって。

息が上がって月明かりに照らされた場所にだけ霧雨が降る。

痛いほど冷たい風をかき分け、私は臨界へと到達した。

少しずつ加速に耐えられなくなった部分の粒子が置いていかれているのでは無いかと心配になる。

でもきっと大丈夫だ、体も心臓も目元も熱く火照っている。

少し遠くに膨大な魔力の気配がする。

たった少しの時間でオーガの里では大量の魔物が跋扈ばっこしているようだ。

「舞十技四番雷の舞、」

肺の中に外気が入り込んで頭に痛みが走った。

開かれた瞳孔は手前にいる四体のオークを捉えた。

本来オークはB〜Aランク、新人の私が挑むなど自殺行為にも等しい。いや、他殺の確定だ。

現に文殊の三人は六体のオークに敗れ、逃走した。

バーンさんの腕の回収の前に仇を打たねばならない。

そう強く決意を抱き、地面を踏みしめた。

蜘蛛の巣のように亀裂が入った土が巻き上がり、パリッと電気が走る。

閃火雷電せんからいでん!」

刀を逆手に持ち星型を描くようにしてオークを囲むように走り回転を加えながら加速をする。

そのまま首がある高さへ刀を上げほぼ同時に四体の首を跳ねた。

血潮が吹き出し直ぐに乾く。

オークは人間を犯し、子孫を残す。

オークに雌が存在しないため別の生物に種を植え付けるのだ。

魔法学者によれば、現在存在するオークの四分の三は人間から生まれてきた混血だそうだ。

私は今、間接的に人を殺した。

もう後戻りはできない。

「始まりの騎士は音を抜かれた」

異常を察知したのか十体近いオークや配下であろう魔物、総勢二十四体の魔族が近づいてくる。

「騎士の魂は常に呼ばれ続ける」

豚の鳴き声のような、人の苦しむ声のような切なくも醜い声が私を苛立たせる。

「呼応したのは」

斧のような物を振りかぶり、私の脳天へと振り下ろした。

「鈴の音のいつか訪れる無音の合唱。」

その瞬間、その空間においてのみ音が消えた。


無音むおんとは世界を創り、世界を壊す存在。

最高神の一柱であり、天界から追放され、神体を含め恩恵も散り散りに世界へと飛ばされた。

世界の創造には二つの説が有る。

無が有った事で無音→春の順番で神が生まれたという説。

「有」という概念が有った事で無が生まれた、

つまり、春→無音の順に神が生まれたという説だ。

現在は後者が通説となっている。

ただ、全員が無視をしているだけなのだ。

知っているのに知らないフリを続ける。

理解しているのだ、無音が全てにおいて最強であると。

六恩むおん、無音が持つ六つの恩恵。

これを今四つ凛が持っている。

其内の一つ、無音。

音を止めるそれだけの能力だ。

只侮るなかれ、音は振動であり、動き。

無音の真髄はそこにある。


「無音。」

そう唱えただけで、オークの心臓も空気すらも運動を停止する。

再びなった音はオークの巨体が大地を押す振動だった。

心臓を直接揺すられたと思うほどの空気の震えは、今の凜には届いていなかった。

「運命に縛られて、可哀想な奴等だ…」

右手を前に出す、それだけの動きが永遠を思わせる程優雅に禍々しく魅えた。

叢咲むらさき。」

魔法陣を展開せず詠唱が終わると同時に

凜を中心に何枚にも分かれた紫色の炎で出来た花が咲いた。

魔物達は断末魔を響かせ灰となって消えた。

既に崩壊しつつあった鬼の里は瞬く間に焼け野原へと変わる。

帰ろうとした凜の足を止めたのは一体の魔物の鳴き声だった。

「…」

「キューン…」

親が咄嗟に庇ったのか狐型の魔物は尾の先端だけ焦げ、側面に計四個の歯型がついている。

「無お―――」

「待て!」

リンと鈴の音と共に嗅ぎ慣れた髪の香りがした。

灰神楽はいかぐら夢幻むげんだ。

「また、間に合わなかったか。」

彼女が何故ここまで悲しそうな顔をしているのか、私には理解できなかった。

当たり前か、私は凛ではないのだから。

「気に病むことはないですよ。それに、」

言葉が詰まる。これより先は音にしたくなかった。

「貴女も、凛が恋しいでしょう?」

私は今笑えているだろうか。

さっきまで何も考えず魔物を、同族を殺していたというのに何故かこの人を見ると感情を捨てきれない。

風に揺られ、また夢幻の服についた鈴の音がする。

「止めたいなら、力ずくでしかないですよ。」

「無論、そのつもりで来ている。」

やっぱりこの人は強いな、少し恵まれただけの人間が今、

神のなり損ないに勝つと言っているのだ。

「じゃあ、始めますか?」

風はより一層強くなり、髪が旗のように音をたてなびく。

「あぁそうだな。終わりにしよう。」

「終わらせるのは私の方です。」

二人分の肺が空気を取り込む音がする。

冷たい風が一瞬止まり…


虚の太刀(からのたち)」 「舞十技一番鳥の舞、飛燕ひえん

二人が動いた事すらも、雪が散り散りに舞うことでしか分からなかった。

音も光すらも置き去りにせぬとする二人。

凜は唯一人、死を受け入れ走馬灯を見る。


仄かに明るく、

熱を帯び、

何よりも暗く、

何よりも深く、

始まりの騎士は音を抜かれた

騎士の魂は常に呼ばれ続ける

呼応したのは


「お前、名前は?」

私は、僕は、俺は、

「凛だ。」

これで「イッショウ」の終了です。

一章は世界の雰囲気とキャラの立ち位置、無音の存在を知ってもらうためのもので、大半が伏線で占めています。

二章は王道のストーリー

三章は私が最初に構想していたストーリー

四章で物語の終了

零章で世界について

その後この作品の解説(私なりの解釈)を提示して終わりの予定です。


一章、臨界Transcendence終

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ