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鈴音  作者: R a bit
臨界transcendence
23/57

No.26、凜として

一応閲覧注意を入れておきます。

かなりソフトにしましたがそれでも苦手な人は居ると思うので、早めに克服してください。

ジリジリと目眩がするような日に焼かれ、蝉時雨が風鈴の音と新たな音楽を作る。

そんな音すらも速くなった耳の鼓動と上手く吸い込めずに苦しくなる呼吸音で消されてしまう。

ハァハァハァと気温は30℃に近いほど外は暑いのに、吐いた息が白くなっていないか気にしてしまうほど今の私の体内の熱は高かった。

「ぐぅっ!」

そんな絶望すら黒塗りに上回る光景が目の前にあった。

「バーンさん!!!」

右腕がもがれたバーンライトと、ナイトの左手に握られたウィンドのメガネ。

傷口はまだ痛々しく血を流し肉から突き出した骨によってそこに確かに体があったことがわかる。

「早くしないと、治療ヒール!」

幸い右腕は完全に持っていかれていない。これならまだヒールの魔力を流し込めば…

「なん…で…」

熱い体から血の気が引くのが分かる。

腕は一切再生されなかった。

「凜、もういい無駄だ。それより…早く傷薬を…」

ナイトさんはまだ放心状態でとても応急処置は任せられない。

「分かりました…」

処置を終え直ぐ様あの家へと帰った。

とりあえず、止血はした。

血は止まったのだ、血は。

ナイトさんはまだ泣いている。

ドアの先から嗚咽混じりの声が古びれた床を、幾度も取り付け直したドアを揺らす。

家全体が泣いているようだった。

「恐らく、延々雪林の異常気象の元凶が近くにいたか、冬の国に近い為氷属性のスライムにぶつかって凍ってしまったか。」

「そうか、それは…まぁしょうがねぇよな。」

右側は見たくないのか顔を左へ背けながらバーンライトはそう呟く。

「でも、今回の私達結果でこのクエストの推奨ランクは上がるはずです。Sランクの人達を頼れば…」

「無理だ。」

普段人一倍熱い男は今は誰よりも冷たく言の葉を綴る。

「なら、私が直接ノートさんや夢幻むげんさんを頼れば!」

「無理なんだよ…」

そんな態度に憤ってしまい机を叩いて立ち上がったとき、

「凜、もういいのよ。」

ナイトさんは目元を腫らして鼻をすすりながら歩み寄ってきた。

「私達は、もう…」

「貴女はノートさんの後輩なんでしょう!?なら、」

「だから!もう…いいの。」

無理に笑おうとする彼女の顔は泥水を吸った雑巾のようなクシャクシャで、汚れた。そんな表情だった。

文殊もんじゅはこれで解散だ。」

にわか雨が熱された石畳に降り注ぎ、蒸発する音がした。


「俺は、とりあえず実家に帰る事にするよ。」

荷物をまとめバーンライトはこちらを見て微笑んだ。

「こんな腕でも、戦闘以外ならまだやれることは山程あるしな。」

止まる気はもう無いのだろう、彼は扉を開けナイト一人ではとても広すぎる家を出ていった。

「ウィンドが死んで、パーティーとして最後に言い残す事じゃ無いけどよ…」

斜陽、いい響きだ。だが今の彼には斜影というのが似合う。

影が差す顔を上げるとにわか雨はまだ止んでいないみたいだ。

「ナイト、お前が好きだ。

周りから距離を取られても強く生きるお前が好きだ。

ウィンドと楽しそうに魔法について語るお前が好きだ。

話についていけてないのを察して少しずつ会話を逸らそうとする優しさが好きだ。」

「もう、いいわよ。」

「虫を見つけたときの幼さが少し残る様子が好きだ。

紅茶を飲む前に十秒くらい香りを嗅ぐ癖が好きだ。

新しい茶葉を買ってきたつもりでも前に買ってきたのと同じものだったりする、少し抜けたところが好きだ。」

「なんでろくに飲んでないのに知ってんのよ。」

「自由なお前が好きだ。

それでも仲間思いなお前が好きだ。

だから、新しい仲間を。凜を大切に生きていってくれ。」


もう彼は迷わないだろう、真っ直ぐと前を見つめている。

迷うはずがない、もはやその道は一本道でしかないのだから。

「あーあ、十年以上待ったのに、結局失恋しちゃった。」

再び嗚咽が混じったその呟きを私は独り言にするしか無かった。





あの一件からニヶ月経った。結局ナイトさんはギルドに顔を出すこと無く消えてしまった。

一人でクエストを達成する毎日。

横には私を優しく導いてくれるナイトさんは居ない。

一番の常識人で誰よりも仲間のことを思っていたバーンさん

真っ直ぐで自分に嘘はつかない頼れるウィンドさんは、

あのときの彼らはもう、居ない。

そんなことを実感しながら一人夜の雑音に紛れ帰路につく。

「いやぁ、いい女だったなぁ。」

「ほんとだよ、パーティーに入ってやるだけであそこまでヤレるんだから。最高に都合がいい女だ。」

品のない話だ、この人たちもそうだが、よく女性もパーティーに入ってほしいだなんて理由だけで身体を売れるものだ。

何度も歩いた道

故にふと裏路地に目を配ることになんて、大した意味は無いはずだった。

「ウオェッ」

いつぞやの自分のように、吐瀉物を吐き出すナイトさんがそこに居た。

固形が無いことから、ここ最近何も食べていないことがわかる。その中に紛れる白い物が何か、私は知りたく無かった。

カハッカハッと焼けるように熱くなった喉で苦しそうに咳をしようやく彼女はこちらの存在に気づいたみたいだ。

「凜?なんで…ここに…」

臭いで、ではなく本当にこちらが吐きそうになった。

気持ちの悪いもうそれ以外を感じ得ない光景だ。

「何、してるんですか?」

肺と心臓が目まぐるしく働き始める。

「こうでもしないと、パーティーに巻き込まないと…だめなのよ…」

なんでこの人達が頑なに周りの助けを求めないのか、一つだけ考えたくない心当たりがある。

霊授、奴隷、神の目の契約。

これら以外にも当然契約は存在する。

単純に約束事を強制するためのもの、

決闘の開催等も有名だ。

そんな中に一つだけ奴隷契約以上に倫理観に問題があるとされ、第六階梯、つまり禁術に指定された物がある。

「やったんですか?背水の契約。」

顔を背けて聞いても彼女の顔色が悪くなっていくことがわかる。

「なんで…それを…」

背水の契約、パーティー間で行う契約。

パーティーのメンバー以外の他人の助力を貰えない代わりに

本人たちは能力上昇の対価を得る。

この契約によって、新卒同士で組んだ弱いパーティーが続々と契約を結び、大量の死者が出た。

禁術指定されたのはおよそ10年前。

最悪なときはその年の卒業生全員が周りを頼れず死亡してしまった。

それでも一番恐ろしいのは効果ではない。

そのやり方なのだ。

背中を見せて「背中は任せる。」というだけ。

それだけで、解けない契約のろいの完成だ。

この方法も相まって未だ完全に取り消せていない。

悔しいのか、怒っているのか自分でもわからない感情が溢れ出す。

唇を強く噛み締めたせいで口の中に鉄の香りが広がった。

「だって、しょうがないじゃない…」

ボロボロと涙を流す顔にはいつもと違い化粧はついておらず、顔が崩れることは無かった。

「あんな事言われて!本当に凜とぬくぬく生活する気になる人なんて…いる訳ないじゃない!」

嗚呼、この人は契約じゃなく約束に呪われているんだ。

こんな苦しい気持ちでいるのに、空は裏切るように黒が澄み渡り星はいつもより多く灯っている。

月のスポットライトは全員を平等に照らし平等に影を作る。

私達は偶々少し明かりが強かったのだ。

たかが一ヶ月、されど一ヶ月。

私がこの人たちと過ごした時間はそう長くなかった。

それでも、こんなにも心が痛い。

ウィンドさんは腹を貫かれ、頭をもがれた。

バーンさんは腕ももがれ、この先戦闘に参加することはできない。

ナイトさんは一人残され、美しい約束に呪われて汚された。

私だけ、ただ心を痛めただけでナイトさんは十年以来の友を亡くしたのだ。

ならばやるべきことは一つだろう。

「私が、バーンさんの腕を探しに行きます。」

「…は?」

間抜けた声でこちらを見る目にハイライトは無かった。

「何…言ってるの?分かってるの!?あれに勝てるわけ無いじゃない!!!」

私はもう道に迷わない。

迷うべき道なんていらない、私はこの人たちを助けたい。

私が、戦友を見殺しにする情のない人間に成らないように。

私は私を助けるのだ。

「紅茶とクッキーのツケを返すときが来ただけですよ。

最後に、私が、凜として出来ることを…やるだけです。」

刀を少し抜き、刀身に映る自分と目を合わせる。

だいぶやつれてる。

そのままナイトさんを背に歩き始めギルドの手前に来たところで後ろに気配を感じた。


「やぁ、元気してはるか?」

目は普通だ。

真名まなさん。すみません、今は急いでいるので。」

「ちょいちょい待ちぃや、少しでええから話聞いてき?」

手招きをして呼び止める顔には珍しく焦っているように見えた。

「自分、死ぬつもりやろ?」

「それ以外私にできることは有りません。」

「それでまた諦めて八つ当たりするつもりなんか?

学習せぇへんなぁ、結局自分が一番可愛いんか?」

「後は紅蓮ぐれんに任せるしか、無いでしょうね…」

「はぁ。もうええ、興が削がれた。君には失望したよ。」

口調がいつもと違うことからこの人が本気で言っているのが分かる。

「最後に、や。自分、名前は?」

冷たい風は潮の匂いを引き連れ風鈴を鳴らす。まるで私を急かすように。

始まりの騎士は音を抜かれた。

騎士の魂は常に呼ばれ続ける。

呼応したのは

「鈴音」

「そうか、元気でな。」

また会おう。と不吉な事を言い捨て、彼女を認識できなくなった。

話が分かりにくいかもしれませんが、あと少しです。多分3話以内にこの23部分で張りに張りまくった伏線を大体回収できるはずです。

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