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鈴音  作者: R a bit
臨界transcendence
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20/57

No.25、玉手箱

「で、結局お前はどうするつもりなんだ?」

世界を大きく四つに分ける四季国。その一つである夏の国、そこの大通りの終着点である水無月城みなづきじょう

その最上階の一室、謁見の間で王座に鎮座する女性に対し、座布団に正座する女性、二人の影があった。

「私は何もするつもりはない。決めるのはあいつだ。」

そう淡々と言う和服を着た黒髪が綺麗な女性。

灰神楽(はいかぐら)夢幻(むげん)は長時間座っていたからか足の親指をもぞもぞと動かし帰りたそうな顔をしている。

「最近は真名まながよく動いているみたいだが、同族として私達もそろそろ何かをすべきだと思うのだがね。」

黒い少しセクシーなドレスを着た何色か到底言葉では表現できない、プリズムを通った光の様な髪を夢幻とは違って艶かしく伸ばしている。服装を気にしていないかのように脚を組んで未だ王座にふんぞり返る女性。

夏の国国王、春間はるま輪回りんねはこれまた夢幻と違い時間をたっぷり使いたいと見てわかるような態度だ。

「どちらにせよ、あれは既に決まってしまった事だ。

いくら私達でも覆すことはできない。」

無表情で続けているが焦燥が透けて見えている。

「最悪、全員殺してしまえばいいのだぞ?」

「それもこれも全てはあいつ、凛と鈴音次第だ。」




時計の針が一番上で一つになるとき、夏の国防衛団通称ギルドの前に五人と四人、総勢九人の人影が集まっている。

「で、決めたのか?」

五人の中で一番大柄で強面の金髪でサイドに剃り込みを入れている男が、四人組で先頭に立つ緑髪の天然パーマの男性に威圧する。

「ぼ、僕たちもオーガの里に向かうつもりだ!」

「よぉ〜し相分かった。宣誓コール!俺達Cランクパーティー、五騎いつきと」

宣誓コール。僕達Cランクパーティー、文殊の」

「決闘を宣言する!」「「両解ディサイド!」」

契約が結ばれ決闘が可決されたとき、周囲の人達から歓声が上がる。

「おおー!久方ぶりの決闘だぜ!」

「俺五騎に一万!」

「いやいや、ナイトが居るんだぞ。俺は文殊に三万だ!」

声を出していないのに声帯を直接揺らされ同じ歓声が上がるかと思うほど空気が動く。

同刻、ギルドから伸びる大通りを少し進んで右折する場所。

「なんだ?なんだ?やけにギルドがうるさいな。」

辺りをキョロキョロと見回し状況を確認しようとしている赤髪の青年。灰頭はいのこうべ紅蓮ぐれんは同じ赤髪の少女と行動を共にしていた。

「ん。なんか決闘やるみたいだね。」

「マヂで!?見に行こうぜ!」

うるさい。と手刀で頭を叩かれ紅蓮は静かになった。

「パーティー名をよく見て。」

紅蓮は眉間にシワを寄せて覗き込むと、途端に顔色を変えた。

五騎さつき!?」

五騎いつきよ馬鹿。」

素っ頓狂な声を上げる紅蓮と対照的に赤髪の少女は少し冷めた態度を取っている。

「で、そのイツキってのの何が問題なんだよ。」

叩かれ少し不満げになりながら紅蓮が尋ねる。

「単純にメンバーの素行が悪いのよ。特にリーダーの不破ふわ雷同らいどうと副リーダーの氷璃ひょうりあの二人は個人の強さならBランクの上澄み、雷同ならナイト先輩とやり合えるくらいには強い。」

「成る程、今俺等が行くと危ないわけだ。」

「特にあんたはね。もちろん、凛も。」


前を歩く五騎いつきについて行くと、旧異種族闘技場へとたどり着いた。

「ナイトさん、決闘ってあれの事ですよね。」

「そうね。少なくとも、リーダーの雷同以外は私が瞬殺するくらいはできるけど。」

さらっと怖いことを言うな。

しかし、それぐらい戦力差があるのに何故向こうはあそこまで強気なのだろうか。

「不思議に思ってそうな顔ね。まぁルール説明を聞けばなんとなくわかるわよ。」

少し微笑み前を向く。真剣な表情からは負けられない意地を感じた。

決闘者用のゲートを通ると相変わらず火薬が爆発したかのような声が轟く。

その声をかき消すように魔石を持ったレフェリー?の女性が声を高々に響かせる。

「急遽決まった決闘に直ぐ様飛びつく物好き共ー!

盛り上がってるかー!?」

「「「ウオォォォ!!!」」」

「今回はCランクパーティーの五騎いつきと同じくCランクパーティーの文殊との決闘です!

尚、ルールは当人過半数以上の要望により、いつものではなく特別ルールとなりました!」

「何時そんな事聞かれました!?」

「私達が勝手に答えたわ。」

なんて勝手な、しかも何か稀な事みたいだし。

「場外での反則無し、また今回は勝ち残り戦では無く、第一試合第二試合毎に人を変えていきます。

勝利条件は勿論、相手の戦闘不能。殺人はペナルティ!というか犯罪です。その場で逮捕します。それでは双方、第一試合に出るメンバーを決めてください!第一試合は十分後に開始する予定となっております。」

より激しさを増した歓声によってか魔力の供給を切ったのかレフェリーであろう女性の声は途切れてしまった。

とりあえずこの決闘で死ぬことはないらしい。そこは安心した。問題は誰が出るかだ。万が一私がリーダーの人にでも当たったら負け試合が確定するようなものだ。

「まず、凛に説明をしておこう。」

手を叩いて注目を集め、ウィンドさんが話し始める。

「今回の決闘、戦力差で言えばこっちは圧倒的に有利だ。

そもそもナイトに勝てるなんて奴は軽く人を辞めてると言っていい。」

そこまでは私も理解している。だからこそ疑問なのだ。

余りにも相手の態度とこっちの緊張感は逆だ。

「でも、決闘のルールによってこっちはかなり不利になってる。1つ目の要因は人数、今回は一試合に一人だからこの時点で相手は一回不戦勝を得る。」

「ちょっと待ってください、それは余りにもルールに穴があり過ぎると思うのですが。」

それなら決闘というものはパーティーの数が多い方が勝つものになってしまう。

「申し訳無いことに、これは僕の責任だ。相手に二回危害を加えた事で契約が相手に有利になっている。

で、話を戻すけど。多分相手はナイトの試合は捨ててくる。その代わり、僕とバーンを対策して新人の凛に副リーダーの氷璃を押し付けてくる。言いたい事、わかる?」

「一回しか負けられないって事ですね。」

確かに、これはかなりこっちが不利だ。

対策を本当にしているなら少なくとも私は負けちゃいけないが試合回数が奇数回のせいで引き分けがない、罪に近いわけだ。

「責任取るつもりで、先発は僕が勝ってくるよ。」

私の不安そうな顔を見てウィンドさんが優しく微笑んだ。

「心配しないで、五年間もあんな化け物に育てられたんだ。

簡単には負けないさ。」

その後はすんなりと誰がいつ出るかが決まった。私は最後の(第5試合は不戦敗なので)第四試合だ。

レフェリーの呼吸音が聞こえまた声が闘技場に満ちていく。

「第一試合は、五騎いつきからCランク団員!鬼道きどう!対して文殊からCランク団員!ウィンド!」

これでもかとボルテージの上がる声援とヤジが混ざる歓声を身に包み、二人の影が北を指し示し重なる。

「よぉ、ウィンド。いつもの本は無くて良いのか?」

「必要ないよ、君には怒る必要もない。」

数歩下がってお互いに向き直す。

「それでは、開始ぃ〜!」

「うらぁ!」

勢いよく鬼道が走り出し真っ直ぐウィンドへと突進した。

風衣かざころも。」

黄緑色の魔力がウィンドを包み鬼道の拳を待ち構えた。

「突!」

後ろに引いた拳を肘を伸ばす勢いで素早く前になり突き出すもウィンドさんは体をブリッジしそうに成る程反らし、寸前で攻撃を避けた。

「風車(風車)。」

その状態から体を持ち上げ、一瞬の内に斜めに回し蹴りを食らわす。

「ぐがぁっ!」

顎に蹴りを食らわされ鬼道の体は大きく吹っ飛んだ。

「金切りの鉈!」

落下地点にダッシュし地面に打ち付けられ反作用によって浮いた鬼道の胴体へと手刀を振り下ろす。

地面は正方形の石を集め大きな正方形を作るが、その内の1つを揃った歯に虫歯が出来ているような歪さを生み出させた。

石の砕ける音で骨が折れた音こそ聞こえないが、確実に数本は折れたであろう衝撃を受けた。

「やった!」

思わず声を上げてしまう程の高揚を覚えたが、それを直ぐに忘れてしまうほどの衝撃を味わうことになった。

「突!」

手で受けたものの後退を強要されてしまう。

鬼道はまるで無傷であるかのようにイキイキとしている。

猪突ちょとつ!」

両の拳を引き突の構えを取りながら突進を始めた。

さながら猪のような迫力が、向かい風を感じるみたいにビシビシと来る。

正面に見ているわけでもないのにここまでのプレッシャーを感じているのに、ウィンドさんは怯まず構えを取る。

韋駄天いだてん!」

反時計回りに体を回転させ手のひらで空気を集めるように手を広げる。

「軌道!」

二人の拳が触れた途端、ウィンドさんを覆っていた風が霧散し勢いを無くしたウィンドさんは攻撃をもろに受けた。

「くっ!」

膝をつき顔を上げると出血しているのが分かる。

「まだまだ!はつ!」

五本の指を揃えて立たせ、突と似たように肘を曲げる勢いでウィンドさんの顔を叩く。

パンッ!と乾いた音が鳴り、首が折れそうに成る程反る。

「ぐぁっ!」

「まだ終わらねぇぞ!稲刈いなかり!」

空中で一回転し指を曲げやりを思わせるような鋭利な足を横から顎を叩きウィンドさんの脳を揺さぶった。

立とうとするもぐらつき膝をついてしまう。

「ウィンドさん!」

額の血を拭いメガネを取り始めた。

「なぁ、ウィンド。良いのか?因縁を果たす絶好の機会だぜ?」

鬼道はウィンドさんへと語りかけ始めた。

「懐かしいな、あの頃は良かったよ。雷同に従ってれば学園は自由だった。」

「うるせぇよ。」

「口が悪いのも何とか直そうとしたみたいだけどな!?」

「関係ねぇだろ。」

「良いんだぜ?お前が望めばまた…」

「うるせぇって言ってんだよ!!!」

空気がビリビリと震える。

横を見るとナイトさんもバーンさんも冷静にウィンドさんが過去とどう向き合うのか見つめている。

…過去?何かあったか?まぁいいや。

風車かざぐるま!」

きりもみ回転をし高速で鬼道との間合いを詰め、風をまとわせた拳をぶつける。

「無駄なんだよ!軌道!」

風はまた霧散され勢いを殺されてしまう。

「ウィンドさん!!」

「問題無い。」

聞こえはしないがそう言ったような気がした。

「マナは空気と共にあり」

「あ?」

空絶くうぜつから伽藍がらん。」

魔力がウィンドさんの腕に集まる。

「ま、まさかお前!」

鬼道が何かを悟るには余りにも遅かった。

魔力爆発マナ・エクスプロージョン!」

魔力を作るのは魔力回路だが、魔力を貯める器官も存在する。魔力の壺と呼ばれる左心室と右心室の間の器官だ。

此処に貯められる魔力の量の許容量は個人差がある。

許容量を超えた場合、貯まっていた魔力全てが外へと急速に逃げ出す。

それが魔力爆発。魔力を扱う魔術において最高火力を誇る術。

魔術において唯一準第六階梯、禁術候補となっている。

代償は魔力の欠損による生命活動の不安定と魔力と共に空気が出ることによる酸欠。

最悪の場合、魔力回路。つまり利き腕の欠損もあり得る。

今回の相手、鬼道の名指しは軌道を変える能力だった。

それを利用しウィンドは霧散した自身の魔力に風を纏わせる事でその場のマナの量を減らし、名指しの効果を弱らせ、かつ自身への自爆ダメージも軽減させたのだ。

「僕は、文殊のリーダーだ!」

歓声は一際大きく跳ね上がり、拳を上げガッツポーズをとるウィンドさんを祝福する。

あぁ、これでようやく。

ようやく?なんだ?

しばらく考えても自分がさっきまで何を考えていたか思い出せない。


嗚呼、そういえばそうだった。

「これ、夢か。」


目を開けるといつもより世界が明るく見えた。

寝ていたというより、走馬灯みたいなものだろう。

だって、今目の前で私を庇って腹を貫かれた。

ウィンドさんが立っていたのだから。

「ウィンドさん?」

「逃げ…ろ…」

ぐしゃり、もはやこれ以上似合う擬音は存在しないだろうと思うような音をたててウィンドさんは2つの乾いた球体になってしまった。

永遠とも言える一秒にも満たない時間で自分の血の気が引くのがわかった。

「お、お、お前、み、みみみ、見たことあ、有る。」

震えた声で話なれないであろう人の言葉を喋るのは、手を真紅に染めた巨大なオークだった。

オークはオーガのなり損ないと呼ばれる魔物で魔族よりも知性が無く、魔物では最も優れた知能と腕力を持つ。

それが私達を囲んでいた。

「なん…で、」

「ボサッとしてんな!」

「凜早く、まだ治せるかもしれないから!!」

悲鳴にも近い声でバーンさんとナイトさんはそう訴えかける。

「喰らえ、獅子威し(ししおどし)!」

地面に剣を叩きつけ、爆音と眩い光を放つ。

「|it will be a midnight.」

その光を軽々しく飲み込む暗闇が辺り一面を覆う。

「集まって!」

声のする方向に向かって歩み寄り居合で周囲を見渡す。

彼の横顔(かのよこがお)

汚い悲鳴を伴い月がこの場に現れたと思わされるほどの光が降りた。

周りに反応は無い、今ならウィンドさんの所へ。

近づくために居合の場所をずらしたのが、おそらく今回の事態を招いた原因だろう。

「ナイト!危ない!」

後方でバーンさんが、続いてナイトさんが叫ぶ声がする。

「月が綺麗!」

半径5メートルは有る極太のレーザーが何かを焼き尽くした。

「バーン!」

振り返ると、右腕をオークに切り落とされたバーンさんとそこに泣きながら駆け込むナイトさんの姿があった。

「畜生!魔力回路がやられた!」

「凜!もう時間が無いわ!逃げるわよ!」

待って、でもまだ。

「まだ、ウィンドさんとバーンさんの腕が!」

右腕は斜面に転がり何処かへと消えてしまった。

「良いから早く!」

伸ばされたナイトさんの手に指を重ね転移の魔石で夏の国へと戦線離脱した。


オークが数名残された戦場だった場所。

冬の国の近くに存在する。

オーガの里跡地、正確にはだった場所。

そこに佇む一人の和服の男。

「今のは、馨鬼きょうき…なのか?」

そう涙を流す男。

「生きていたのか、我が妹よ。」

運命の神(フェイト)がそういうのだから、これはまだ少し先の話。

勉強の合間に書くんで、番外でお茶を濁すか何も書かない日が続きそう。

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